泡プール

いつものように下界からの願いをどうにかこうにか上手く叶えられるよう色々手を尽くしているとサチから声が掛かった。


「ソウ、ちょっといいですか?」


「ん?どうした?」


「和人族の城下町にいる動物神達から願いが届いています」


「む・・・」


動物神からか。何かあったのだろうか。


城下町の動物神は下界で数少ない俺の存在に気付いている人達だ。


今城下町で安定した信者を獲得できているのは彼らのおかげだったので助けになれればいいんだが。


「内容は?」


「どうやら近々地殻活動の気配があるらしく、助力が欲しいようです」


「地殻活動か。ちょっと時間を止めて調べてみよう」


進んでいる下界の時間を停止し、サチと共に情報収集するが地表付近では大きな変化は見られない。


「サチ、神力を使ってこの地域をフルスキャンしよう」


「了解です。範囲は和人族の城下町とその周囲の地形。必要神力の算出を行います。・・・完了。承認をお願いします」


「そこそこ神力使うな・・・。まぁ仕方ない、承認」


承認すると地層内部の隅々まで細かい情報が俺の周囲にパネルとなって複数表示される。


土の種類から眠っている鉱石の量、生えてる植物や生息している生き物などあらゆる情報がデータとしてパネルに並ぶ。


「んー・・・んん?」


地形が立体表示されているパネルの項目を変更しながら見ていると水脈の項目で指が止まる。


「サチ、ここの地下水脈の水量は前からこのぐらいあったか?」


山岳部の内部に膨張してるような水脈を見つけたのでサチに確認を取る。


「少々お待ち下さい。・・・いえ、徐々にですが貯水量が増えていってます。小規模な地殻変動によって付近の水脈が詰まったり細くなったりしたのが原因のようです」


「となるとここが原因の可能性が高いな。問題はどうやって水脈を正常化するかだが・・・」


「近くの水脈と繋げるには距離があるので神力の消費が大きいです。どうしますか?」


「うーん・・・」


一応神力を使えばどうにかできるが消費が大きいと聞くと別の方法が無いか考えてしまう。


何か上手く出来そうな情報は無いかな・・・お?ちょっと気になる情報がある。


サチに相談してシミュレーションしてみよう。




数日後、和人族の城下町付近の山岳に温泉が出た。


ちょっとした話題になり、すごい早さで設備が整って行ってる。


もう少しすれば一般客が呼べる程度にまで整うだろう。


「考えましたね」


「俺はきっかけを与えたに過ぎない。上手く利用しようと考えたのは下界の人だよ」


俺が気になった情報は水脈内の水温と成分。


水脈が熱を保持する地層を通過していたため水温が高く、幸い人体に悪い影響の無い成分だったので何かの拍子で溜まった水が一気に出るより先に人工的に放出させてしまおうと考えた。


こちらで穴を開けてもよかったが、近くに採掘場があったのでそこの人を上手く誘導して掘り当てて貰う事にした。


勿論こちらでも多少出易いように山岳内部に小さな細工はしたが、穴を開ける作業に比べればかなり神力を節約できたと思う。


温泉が出た後はこちらから何もせずとも水質調査や周辺整備などが進み現在に至っている。


ここまで素早く事が運んだのは動物神達が各信者達を分野別に得意な仕事を宛がったおかげだろう。


こちらの意図を理解してくれたかはわからないが、事の重要性を理解して動いてくれたと思いたい。


動物神達が温泉施設が出来たら一番風呂の予約を取ってるが、きっと何か意味があるのだろう。


・・・あるよな?あの浮かれぶりを見るともしかするとただ入りたいだけかもしれない。まぁなんでもいいか。


とりあえずこれで徐々にだが地下水脈の膨張による地殻活動は落ち着くと思う。


あとは動物神達からの願い次第か。


引き続き気配を感じるようなら改めて今回の情報を洗う必要があるだろう。


・・・が、大丈夫かな。


温泉が楽しみで小躍りしてるぐらいだし、ひとまず願い事完了としていいだろう。


さてと、それじゃ他の願い事の消化に移るとするかな。




今日は学校でプール教室だ。


ただ、今回はこれまでの泳ぎを教えるプール教室とは違った趣きになっている。


「本日のプールは水ではなく温水、温かいお湯になっています。また、お湯の量は普段よりかなり少なく、浅くなっているので底に座っても腰ぐらいまでしかありません。溺れる心配はまずないでしょう」


学校長のミラが子供達に注目される中、今日のプール教室の説明をしている。


「ですが、本日は別の危険があります。ソウ様、よろしくお願いします」


「あいよ」


ミラの合図を受け、手元にある物をプールの中にばら撒く。


撒いた物が水の中に落ちるとボコボコと音を立て白い泡を作り出し始める。


その様子に子供達は驚きと興味を惹かれ全員がプール内に注目する。


「今ソウ様が入れた物は泡の出る石鹸です。石鹸というのは念が無くても綺麗に出来る物で、今回の石鹸はソウ様特製の人の体を綺麗に出来る石鹸です」


前の世界じゃ石鹸なんて日常的な物だったが、こっちの世界じゃ浄化の念があるおかげであまり一般的に知られていなかった。


知っていたのは技術者や知識者、それと天機人で、主に物に付いた落ち難い汚れを落とす時に使う洗剤としての認識だった。


「本日は皆さんにこの石鹸が溶けた水がどれほど滑るかを体験して頂こうと思います。まず最初に先生に体験してもらいましょう」


ミラの合図で先生達がプール内に降りる。


と、その次の瞬間。


「あいたっ!?」


数人の先生が盛大に滑って転び、子供達から笑い声が上がる。


俺事前の説明でプールに降りる時は何かに掴まった方がいいって言ったよな?


大人がこれだと子供が降りた時はもっと大変そうだ。


よかった、事前にヨルハネキシに頼んで底に衝撃吸収の素材を貼っておいて貰って。無かったら怪我人続出だったかもしれない。


「いいですか、今転んだ先生が悪い例です。降りるときは必ず何かに掴まって立たずに座りましょう」


「はーい」


子供達の返事に合わせて他にも色々と諸注意を伝えてから子供達も降りる時間になった。


結構注意する事多かったけど、果たしてどれだけ守って貰えるかなぁ。ちょっと心配だ。

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