エルカートの挑戦 三戦目

「じゃ、最後の勝負といこうか」


「あ、あぁ・・・」


憔悴状態からは復活はしたがエルカートから最初の頃の元気は全く感じられない。


「勝負内容は料理だ。サチ、ルミナ、ルシエナの三人に審査員をしてもらい、美味しいと思った票が多い方が勝ちという簡単な勝負だ」


「え?・・・料・・・理・・・?」


「そうだ。幸い食材はここに豊富にある。感謝して無駄なく使って作れよ」


「いや、違う!オレは料理なんてしたことない!」


「知らんな。勝負の決定権は俺にある。それに戦いで勝負するなんて言ったか?」


「え?・・・あ・・・言って・・・ない・・・」


「そういうことだ。じゃあ始めようか」


「ま、待ってくれ!・・・オレの・・・オレの負けでいい・・・」


「そうか、待った割には随分あっけなかったな。サチ、二人に何か適当に出してやってくれ」


「了解です」


がくりと膝を付くエルカートを見てサチにこの場に残ってくれてたルミナとルシエナに料理を出すよう指示する。


さて、ここからが本番だ。


「なぁ、エルカート。今日一日どうだった?」


「どうって・・・最悪だ」


「だろうな。ただこれで少しは理解しただろう。如何に自分の視野が狭かったかという事に」


「視野・・・?」


「考え方の視野だ。どれだけ自分通りの勝負しか想定していなかったか思い知っただろう」


「それは・・・確かに・・・」


「聞いた話じゃ今までもそうやって他の人に挑んでたそうだな。なんで勝負して貰えず警備隊が呼ばれたか今ならわかるな?」


「あぁ、自分の勝負方法を相手に押し付けてたからだ」


「そうだ。勝負・・・試合というのはある程度嗜みのある者同士の合意がなければ成り立たない。相手をよく知りもせず、無作為に勝負を仕掛ける行動がどれだけ無駄で相手に迷惑か今ならわかるだろう」


「・・・」


「そもそも俺は戦いに関してはからっきしだ。そんな相手に勝っても全く充実感は得られないだろうに」


「え?そうなのか?」


「神が全てにおいて優れてると思うなよ?あんまりこういうことを胸を張って言うとサチに叱られるが、今この世界にいる神はそんな神だ」


「えぇ・・・」


「だからこそ皆の助けが要る。情けなく映るかもしれないが、皆が実感を得られるのであればそういう神もありだと最近は思っている」


「助けられる神・・・か」


「あぁ、サチからはもう少し威厳を持てといわれるがな。で、エルカート、お前はそんな神を前にしてどう思う?」


「どうとは?」


「俺はこの世界が好きだ。そんな気持ちをより強く感じられるよう頑張ってみようと思ったりしないか?それともみっともない神で失望したか?」


「それは・・・」


「一応俺はルミナの訓練をクリアしたお前の忍耐強さを買っている。考え方や使い方を変えれば他人を助けられる素質だと思っている」


「それは本当か?」


「あぁ。ただ、お前がどうしてもこんな神では嫌だと思ったのなら移民申請をするといい。止めはしない」


「移民・・・他の世界というやつか」


「うむ。極力希望に添うよう手配はするつもりだが、大半の世界はこの世界ほど甘くないとだけ言っておこう」


「・・・わかった。考えてみる」


「そうしてくれ。考えが決まったら今度はちゃんとサチに連絡を入れてどうしたいか申請するように。今日みたいなことはもう無いと思ってくれ」


「あぁ、肝に銘じておく」


「ん。じゃあ俺からの用件は以上だ。ルシエナと交代してくる」


「・・・待ってくれ」


「ん?」


「その・・・悪かった。突然押しかけて無理な事を言ってしまったこと、色々見誤っていたこと、迷惑かけてしまったこと。それと、オレに時間を割いてくれたことに感謝する」


「・・・うん、ひとまず受け取ろう。だが、次会う時までにその辺りの言い方も勉強しておいてくれ」


「わ、わかった。善処する」


少し思いがけない返答を貰ったのか赤くなったエルカートを置いてルシエナと交代し、ルシエナは俺たちに礼を言った後エルカートを連れて行った。


「お疲れ様でした」


「お見事でしたー」


「ははは、ありがとう。ふー・・・なんとかなったみたいでよかった」


今回俺の役目はエルカートへ自分の行動を省みさせる事だった。


先にルミナやサチでエルカートに己の実力を弁えさせ、その後俺がどうにかするという割と俺任せなところのある作戦だった。


幸いエルカートは真っ直ぐな思考の持ち主だったので上手くいってよかった。


「ソウ、先ほどの会話記録、今後に役立ちそうなので警備隊と共有してもいいですか?」


「え?うーん・・・まぁ仕方ないか。許可しよう」


「ありがとうございます」


「サチナリアちゃんサチナリアちゃん!私にも頂戴!」


「えー?・・・どうします?」


「どうせダメと言っても口で広めるだろうから逆に変に脚色されるよりは渡してしまった方がいいだろう」


「了解です。よかったですね、ルミナテース」


「ありがとう!ソウ様、サチナリアちゃん!」


やれやれ。大したこと言ったつもりはないんだけどなぁ。


前の神が一切こっちの世界に干渉や出現しなかった事もあってか、俺の発言や行動が大事にされすぎてる気がする。


うーん・・・この辺りは仕方ないのかなぁ。時間が経って次第に落ち着いていってくれると恥ずかしい思いをしなくて済むんだが。


とりあえず立場や体裁を気にしすぎて上辺だけの言葉にならないように改めて気をつけようと思う。


そんな決意をする俺の前でサチとルミナは警備隊に送る文章を見ている。


「ねね、ここの言い回しちょっと変えたらもっと良くなりそうじゃない?」


「確かに。ではもう少々難しい言葉に変えてみます。これでどうですか?」


「いいと思う!」


「よくない!勝手に改変するんじゃない!」


渡す前の時点で変更しちゃダメでしょうが!


まったく、油断も隙も無いだから。後でよーく話す必要がありそうだ。

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