エルカートの挑戦 二戦目
「では始めましょうか」
エルカートと対峙したサチはやる気だ。
「行くぞ!サチナリア!」
意気込むエルカートにサチの目が細くなる。
あー・・・あれは相当来てるな・・・。
ルミナにはあれだけ怯えたのにサチに対してはあの態度だからな。呼び捨てにされてるし。
「ソウ、開始の合図を」
「あぁ、すまん。では始め!」
二人の中間地点で手を叩いて開始の合図をする。
今回の勝負はエルカートがこの中央地点にある線よりサチ側に進入できたら勝ちというものになった。
制限は特になし。とにかく線より先に行ければ良いというルールだ。
そんな勝負内容を聞いてエルカートは楽勝と豪語していた。
・・・そうだろうか?
「な、なんだ!?」
前に進もうとしたエルカートが見えない壁にぶつかったように何もない空間を触っている。
「くそ!なんだこれは!?」
焦った様子で状況を確認するがもう遅い。
既にエルカートは見えない壁に阻まれ、前どころかどの方向に進んでも壁にぶつかり完全に閉じ込められてしまっている。
「出せ!サチナリア!卑怯だぞ!」
壁を叩いたり剣を突き立てたりして抵抗している様子を見るサチの目は冷ややかだ。
無言のままサチは次の行動に移り、今度は壁の上に巨大な水球を作り出した。
そしてそれをゆっくりと壁の上に乗せる。水球の形が変わり壁の位置と形状がすごくわかりやすくなった。
「何をするつもり・・・熱ッ!?」
中から上を見ていたエルカートの顔に水滴が落ちると慌てて飛び退く。
あれ熱湯の水球か。
どうやらサチは壁に僅かに隙間を作り、そこから熱湯を注ぐつもりのようだ。えげつないなぁ・・・。
水滴が少しずつ増え、細い線になり、地面に水溜りを作り、次第にそれが広がってきたところでエルカートが事態の深刻さに気付いた。
「お、おい!サチナリア!今すぐこれをやめろ!」
「・・・」
サチは黙ったまま何もせず状況を見ている。
「る、ルミナテース様・・・」
「やっぱりサチナリアちゃんは怒らせちゃダメねー」
俺の後ろで青くなりながら止めるべきか手を右往左往させるルシエナにのほほんとルミナは言う。ルミナはサチをよくわかってるようだ。
エルカートは焦りながら中で暴れるが状況に変化は無く、徐々に足下の水が増えていく。
「くそ・・・このっ!・・・なっ!?」
壁を叩いていたエルカートが何かに気付き飛び退く。なんだ?
ちょっと近付いてみてみると壁まで到達した水がパキパキと音を立てて凍り始めた。
それを見てエルカートは顔を青くした。
「お、おい!俺を氷漬けにするつもりか!?」
「・・・」
それでもサチは黙っている。
・・・ん?一瞬こっちを見た?あ、なるほど、そういうことね、了解。
サチの意図を理解してエルカートに近付き小声で話しかける。
「エルカート、多分サチはちょっとやそっとじゃ止めないつもりだぞ」
「なに?」
「相当頭に来てるっぽいからな。降参しない限り解いてはくれないだろう」
「くっ・・・誰が降参なんか!」
「ならこのまま水に埋まって氷漬けだな。俺との勝負もなしだ。それが嫌なら自分がどう振舞うべきかよく考えて答えを出すんだ。俺からの助言は以上だ」
「お、おい!」
一方的に話を切り上げて元の場所に戻る。
「どうですか?」
「まだまだ元気そうだった。もう少し時間かかりそうだ」
「そうですかー。サチナリアちゃーん。こっちでお茶しない?」
「・・・。そうですね、そうしますか」
お?意外にもルミナの誘いにサチが応じた。
エルカートを尻目に席に座り、ティーカップを手に取り口をつける。
「ちょっとは落ち着いた?」
「えぇまぁ」
「サチナリアちゃんにしては珍しい対応よねー」
「実害が出た以上しっかり対処しなければなりません。多少大人気ないとは思いますが、今後のためにもここでしっかり力量の差を知らしめておく必要があります」
「そうねー。あの子はちょっと無謀なところあるわねー」
「もう少し様子見したら締めに移ろうと思っています」
そう言ってしばらくお茶と楽しんだ後、サチはおもむろに立ち上がり、エルカートの前に行く。
俺も向かおうと思ったが来るなと顔で言われたのでその場で様子見をしていると、それまで透明だった壁が真っ黒に染まり中が見えなくなった。
サチは真っ黒な壁の中にいるエルカートに向かって何かを言ってるようだがここからでは聞こえない。
ただ、しばらくすると上に置いてた水球が消え、黒い壁も無くなり、中から濡れて憔悴しきったエルカートが出てきた。
「お、おい、サチ」
「降参したので解除しました」
「それは見たらわかるが・・・何したんだ?」
「大したことはしていません。暗所に変えて水流を加えただけです」
「あぁ、なるほど・・・」
急に視界が無くなり、足下の水が流れ始めたら何が起きたかわからず混乱する。
しかもここの人たちは量のある水にそこまで適応出来ない。
恐らく中のエルカートは軽い恐慌状態に陥ったんじゃないだろうか。
若干気の毒ではあるが、相手を見誤った対応をしたのが悪い。自業自得だ。
さて、これで一応数字だけ見れば一勝一敗なわけだが、まだやる気は残っているのだろうか。
ま、サチの計画ならやる気があろうがなかろうがやる事になるけど。
若干気乗りしないがこれも必要な事だと割り切って考えるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます