エルカートの挑戦 初戦

「・・・」


移動した先でエルカートは声が出ず固まっていた。


「えっと、武装して来てって言われたから来たんだけどー、これってどういう状況?」


俺達は農園に移動し、果樹や作物に影響のない広場で最初の相手を召喚したところだ。


「ソウに勝負を挑みたいと押しかけて来たのでまずは貴女と勝負して頂こうかと思いまして」


「あらー、そうなのー?」


エルカートに対峙するように立っているのは元警備隊隊長で腕が立つと言われているルミナだ。


固まってるエルカートの顔をルミナが覗き込むとハッと我に返ってこちらに抗議してきた。


「聞いてないぞ!相手がこいつだなんて!」


「確認しない貴方が悪いです。では時間が勿体無いのでさっさと始めて下さい」


「ま、待て!待ってくれ!」


「なんですか?最強を目指しているなら丁度いい相手ではありませんか」


「そ、それはそうなんだが、その、なんだ、物事には順番というものがあってだな!」


さすがにルミナ相手では勝機が無いと思ったのか始めようとしない。


「・・・あれ?あぁ、思い出したわー。そっかキミかぁー。大きくなったねー」


焦るエルカートを見て何かを思い出したルミナが手を合わせて嬉しそうにする。


「知っているのか?」


「えぇ。警備隊時代に補導したことがありましてー。木の棒に何とかって名前を付けて私に挑んできたので、軽く足払いしたら泣いちゃってねー」


「ななな泣いてない!でまかせだ!」


ルミナの昔話に顔を真っ赤にして抵抗するエルカート。そうか、昔から変わってないのか。


「んー・・・ソウ様ー、できれば勝負方法を見直してはいただけませんか?」


「ん?何でだ?」


「体は大きくはなりましたが、それだけで全く勝負にならないと思います」


「なっ・・・」


ルミナの評価にエルカートが大きくショックを受ける。


「ちなみに農園の子達だと誰となら勝負になると思う?」


「うーん、誰にも勝てないと思いますよ?一番訓練を優しくしてるワカバちゃんとモミジちゃんにも勝てないかとー」


「そうか」


一応あの自称聖剣を片手で持てるぐらいだからそれなりに腕はあるのかと思ったが、そうでもないのか?


「ではソウ、こういうのはどうでしょうか」


話を聞いたサチが新しい勝負方法を提案してきた。


詳しく聞くとなかなか良さそうに思ったのでそれを採用。


ただ、終わるまで時間がかかりそうなので俺はサチとルミナにその場を任し、農園の子達の料理質問を受けるためにレストランへ移動することにした。


時間は有効に使わなくてはね。




農園の子達への料理指導をしているとルミナが呼びに来たので広場へ戻る。


「状況は?」


「かろうじてクリアしました」


「おぉ、やるじゃないか」


「ですが、その結果あのような感じです」


サチの視線の先には木陰でぐったりと座っているエルカートがいた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


脱いだ鎧の下に着ていた服が汗でびしょ濡れになっている。相当ハードだったのだろう。


サチが提案した勝負方法はルミナ達が普段やっている訓練を全てこなせるかどうかという内容だった。


料理を教えながら農園の子達に内容を聞いたが、結構ハードな訓練を毎日やっているらしい。


無理してないか確認したが、体が資本の農業なので以前より鍛える意義が出来たと嬉しそうに語っていた。


確かに警備隊より体を使う頻度は高いかもしれない。頭が下がる。


さて、そんなハードな訓練をギリギリながらエルカートはクリアした。


現在息も絶え絶えで満身創痍な表情をしているが、それでもクリアしたのは凄いと思う。


「レモン水いるか?」


「・・・いる・・・。・・・あ、うまい・・・」


即席で砂糖入りのレモン水を差し入れてやると素直な感想が返って来た。まだ威勢を張る元気は回復していないようだ。


エルカートが回復するまで俺達も軽くお茶休憩をしていると警備隊のルシエナが農園に到着した。


「申し訳ありません、遅れました。ソウ様、サチナリア様、警備隊ルシエナ到着致しました」


「ご苦労様。とりあえずルシエナもこっちにおいで」


「え?あ、はい、失礼します」


ルシエナを俺達の輪に加える。


「やっほ、ルシエナちゃん」


「ルミナテース様、御無沙汰しております」


「最近幹部らしくなってきたって聞いたわよー?」


「き、恐縮です」


ルミナに褒められ頬を赤らめる。


たまにこういう表情をするんだよな、ルシエナって。


「ルシエナ、状況を共有します」


「あ、はい。お伺いします」


サチはルシエナに今まで経緯とこれからする事をルシエナに説明する。


「なるほど・・・。確かに我々警備隊でも手を焼く存在だったのでここで対処して頂けるのは助かります」


「警備隊には勝負の後に連れて行って貰おうと思っています。ですのですみませんがルシエナにはこのまましばらく残って頂きたいのですが、大丈夫ですか?」


「了解。問題ありません」


「あ、それじゃルシエナちゃん、お姉さんとお話しましょー」


「え?私なんぞがお相手でよろしいのですか?」


「いいわよー、今の警備隊の話も聞きたいしー」


「そ、そうですか。では僭越ながら私がお相手勤めさせていただきます」


ルシエナの奴、俺やサチを前にする時より緊張しているな。


仕方ないか、ルミナは警備隊からすれば憧れの対象や伝説の存在のようなものだろうし。


サチはルミナに仕事に戻って欲しそうな視線を一瞬送ったが、こちらが呼び出した手前無理も言えないと思って溜息一つで許したようだ。えらいぞ、後で撫でてやろう。


「こらー!オレを差し置いてキャッキャしてんじゃねぇ!」


いつの間にか復活して鎧を着直したエルカートが剣を振りかざして木の下で抗議している。


まだ汗が引いてないようで日陰から出たくないようだ。面白い奴。


さて、次の相手はサチだな。


サチに視線を向けると不適な笑みが返って来た。


気持ちはわかるがあんまり酷い事するなよ。頼むぞ。

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