挑戦者

月光族の港町から少し離れた広場で人の輪が出来ている。


その輪の中央に四人。


武装した男性二人。冒険者ギルドから派遣された判定員一人、そして見守る女性一人。


どうやらこれから決闘が行われるようだ。


周りの人達は見物人だな。飲み食いしながら観戦する気でいるらしい。気楽なもんだ。


今回の決闘の内容はわかりやすく求婚者の選定だ。


勝った方が見守る女性に求婚できるという月光族らしい決闘だ。


しかし決闘まで行くのは珍しい。大体はそれまでに力関係がはっきりして決まるものなんだが。


・・・なるほど、三人は幼馴染か。


お互い友人ではあるものの適齢期に入って関係がこじれるぐらいならいっそ決闘してしっかり決めてしまおうということか。


この潔さは月光族の気質だろう。


勝負は十番勝負で戦う以外にも技術や知識を競う内容でそれぞれ五分の戦いをしている。


二人が戦う中、判定員と女性が小さく会話している。


「サチ、この二人どんな会話してる?」


「・・・えーっと・・・」


会話の内容を聞いてサチが困ったように苦笑いをする。


「どうした?」


「結託しています。試合内容を調整してこのまま二人を引き分けにするつもりのようです」


「引き分けに?」


「はい。どうやら女性は二人とも娶るつもりのようです。ですが今の関係では自分が完全に主導権を握れないのでまず二人を競わせ、引き分けにした後に二人とも娶る事を宣言し、器の広さを見せつけ主導権を握るつもりなのでしょう」


「・・・とんでもない女性だな」


「月光族では割とあることのようです。そもそも女性上位の社会ですから」


「うーん・・・二人は気付いているのかなぁ。少し気の毒なような」


「そうでしょうか。互いの実力を認め合い良好な関係を築いた上で好いた女性に尽くせる状況というのは決して悪くないと思います」


「ふむ、確かに。主導権を握った女性にはしっかり握り続けて欲しいところだな」


「そうですね」


下界では人の数だけ縁や関係がある。これもその一つの形だ。頑張れ。





「・・・はー・・・」


仕事終わり、サチがパネルを見て大きな溜息を付いた。


「どうした?」


「いつか来るのではと思っていたことが起こりまして」


「そうなのか?詳しく」


「下界に問題起こす人がいるように、私達の生活空間にも多少そういう人たちがいるのですが、その中でも警備隊が手を焼く人物がおり、現在その人物が家の前に来ているようです」


「ほうほう」


「一応警備隊には連絡を入れますが、警備隊に突き出したところで問題の先送りにしかならないのがなんとも・・・」


サチが考えながらこちらをチラチラ伺う。


「俺に何か出来る事があるならちゃんと説明してくれ」


「すみません。では折り入ってソウにお願いしたいことがあります」


「ん、わかった。聞こう」


俺が出来る事なんてそう多くはないがサチが困ってるなら全面的に協力しよう。




「来たか」


転移すると家の前に武装した青年が地面に剣を刺した状態で仁王立ちしていた。


「主神補佐官サチナリア、そして最近現れた補佐官の付属品のような冴えない男。お前が主神ソウだな?」


酷い言われようにサチの目が据わる。


どうどう、落ち着け。ここで怒ったら計画が台無しになるぞ。


「・・・はぁ。連絡も無しに他人の家に勝手にやって来て何様ですか?」


「何様と聞かれれば答えよう!オレはエルカート!この世界で最強を目指す者だ!」


腰に手を当て胸を反って満面の笑みで自己紹介をしてくれた。


うーん・・・若いなぁ・・・。


この世界の住民は外見年齢と実年齢が合わないのであまり外見に惑わされないよう気をつけているが、どうやらこの青年はそのままの年齢のようだ。


着ている鎧もルミナと違い、どこかまだ着させられている感が拭いきれていない。


「で、その最強志願者が俺に何の用だ?」


「主神ソウ!オレと勝負しろ!」


剣を抜き、縦斬りするように大振りで俺に剣先を向けてきた。


それを見てサチが震えている。頑張れ、頑張って耐えるんだ。


「ふむ・・・。いきなり他人の家にやって来て勝負しろとは随分自分勝手だな」


「ぬ。それについてはすまないと思っている。だがこうでもしなければオレと勝負しないだろう!」


「押しかければ勝負して貰えると思っているのですか?相当おめでたい頭をしていますね」


「黙れ!オレはソウに聞いている!どうなんだ!?」


「どうって言われてもなぁ・・・」


困った素振りを見せるとエルカートは勝機があると思ったのか顎を少し上げて挑発するような表情をする。


「ははん?さてはオレの持つ聖剣ハルティネスが恐ろしいのだな?」


気になる単語が出たので小声でサチに聞いてみる。


「・・・聖剣?」


「自称です。実用性を求める技師が居るように見た目の良さを求める技師も居ます。確かに飾るには丁度良い剣かもしれませんが武器としての性能はソウの包丁未満です」


「えぇ・・・」


包丁未満か・・・。


まぁ俺が使ってる包丁自体かなりの切れ味持ってるが、それ未満と言われるとさすがにちょっと性能を疑いたくなるな。


「さぁどうする?どうする!?」


煽り絶好調なエルカートがワクワクした子供のような目の輝きを見せてこっちの返答を待っている。


「わかったわかった。仕方ない、勝負は引き受けよう」


「本当か!?」


「あぁ。ただしいきなり来て勝負しろというのはあまりにそっちの都合すぎる。引き受けるからには多少こちらの言う事も聞いて貰おうか」


「ほう、いいだろう。それでどうしたいんだ?」


「勝負方法はこちらで提示させて貰う。それと勝負するとはいえ、いきなり俺と勝負するのは主神補佐官であるサチが許さないだろう。なのでサチと・・・そうだな、もう一人ぐらいと勝負した後に勝負しようか」


「よかろう、何人であろうとオレの覇道を止められる者はいない!」


「言質は取ったな?」


「はい。一部始終しっかりと」


「よし。では場所を移動しよう。勝負するのに最適な場所がある」


「ほほう。わかった、指定してくれ」


俺はエルカートに勝負する場所を伝えると一瞬疑問を持った表情をしたが、それよりも勝負が出来る事に興奮して勢い良く島を飛び出して行った。


「それじゃ俺たちも行こうか」


「はい。ふふ・・・楽しみですね・・・」


こらこら、そんな悪い顔しちゃいけませんよ。


ま、腹に据えかねてるのはわかるけどね。

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