若者の悩み相談
いつものように案内鳥に案内されて会合場所に入る。
うーん、相変わらずここは独特の雰囲気がある。色々な神がいるからだろうか。
「お!来たな若人!」
「ははは、どうもー」
空いてそうな場所を探して歩いてるとこんな風に声を掛けられるのでその人に合った返答をする。
丁寧な挨拶をする人には丁寧に、気さくにしてくる人には相応に返す。
「・・・」
「えっと・・・あ、握手。はい、よろしくお願いします」
中には言葉を発さない神もいるので動きで察して対応する。なかなかに難しい。
難しいがわざわざ会いに来てくれたのなら誠意を持って返したいので出来る限り頑張って丁寧に接する。
そんな挨拶方針していたおかげか、最近は遠くから様子を伺うような視線が減った。
ある程度俺がどういう人物か知れ渡った事や実際に挨拶を交わした人が増えたというのが大きいだろう。
たまに遠くから興味や友好とは違う視線を送られる事があるが、その場合は気付き次第視線を合わせて軽く会釈すると大半の人はそこから離れていなくなる。
ここの空気に慣れてきて余裕が出来たというのもあるが、やはりこの前絡まれた一件の影響が大きいと思う。
俺本人に対して事実や厳しい意見、感想を言うならまだしも憶測でサチをはじめとしたうちの人達を悪く言うのは許さない。
そんな意思表示を成り行きとはいえしてしまったからなぁ。
「へー。話してみると思ってたより普通だね」
「ははは、よく言われます」
あの一件以降新しく知り合う神からこんなような感想をよく貰うようになった。
「なるほどね。彼が実際会うほうがいいって言ってたのがわかったよ」
「彼?」
「えっと、ほら、こんな目してる人」
そう言って自分の目を横に引き伸ばしてみせてくれたので誰だか一発でわかった。
「またあいつか!」
「ははは、彼、気に入った人を見つけると皆に触れ回るから」
「まったく、とんでもない奴です」
「まぁまぁ。彼のおかげで僕も君のことを知れたからそう悪く言わないでくれよ」
「むぅ・・・確かに。釈然としませんが」
「彼、若干歪んでるからね。でも悪い人じゃないよ」
「それは分かってるんですが、なんかこぅ素直に感謝したくない気持ちがありまして」
「ははは、確かに」
あの一件以来遠くからの視線が減った代わりにこうやって実際に挨拶しに来てくれる人が増えた。
挨拶に来る人の目的は様々だ。
噂を聞いて興味本位で来る人、処罰を受けたアイツを前々から迷惑と思っていたり同情してくれた人、いつもの面子から話を聞いて来た人、今のうちに関係を築いておこうと思う人、色々だ。
そして皆揃いも揃って俺のことをこう評す。普通と。
なんだろうね!もう普通というのが逆に個性なんじゃないかと思えてきたよ!ちくしょう!
「よ!普通の!元気してるか!?」
「え、えぇ、まぁぼちぼちです」
とはいえ流石にこんな風に呼ばれるのはちょっと容認しがたい。
もうちょっといい呼び方になるよう改善を求めたいところだ。
「僕は本当に姉さんの力になれているのでしょうか」
悩める青年、姉女神の補佐官であるタク君が俺達に心の内を打ち明ける。
この場には俺とタク君の他に後輩神がおり、少し離れたところにサチ、後輩神の補佐官、姉女神がいて何やら楽しそうに話している。
当初最近結成されたほぼ同期の神の集いの面子で話していたのだが、タク君が折り入って相談があると言う事で男女で分かれて話すことになった。
「詳しく」
「はい。実は・・・」
タク君が言うには自分の仕事の処理速度が遅く、姉女神にあれこれ手伝って貰う状況になってしまうらしい。
元々、神になる前から姉女神は優秀な人でその頃からあれこれして貰っており、その名残が強く残っているとのこと。
現在姉女神は神として世界の構築をする片手間に自分の補佐官の仕事を手伝ってくれていると。ふむふむ。
タク君本人としては姉女神が自分を紹介する時に胸を張って補佐官と名乗れるようになりたいそうだ。
「ただ、一向にその自信が持てずにいて、このままやっていけるのか不安になってしまって・・・」
「なるほどなー。どう思う?」
後輩神に意見を求めてみる。
「とにかく頑張るしかないと思います!前だけ見て全力で取り組めば自然と前に進めますよ!」
自分の両手を握って頑張れとエールを送るように言う。
「そ、そうですか?」
「はい!先輩はどうお考えですか?」
「ん?俺か?んー・・・確かにがむしゃらに頑張るというのは一つの方法だと思う」
刀傷の神なら修練あるのみと言って終わりだろうな。様子が目に浮かぶ。
「ただ、俺は逆に頑張らないというのも一つの手だと思ってる」
「頑張らない、ですか?」
「うん。人は相談や別のことをする時に頭の中を整理したりすることがある。君の姉さんからすれば頑張りすぎて疲れてしまったのを見て心配するよりはマイペースで仕事効率が若干悪くても元気な方がいい場合もある。特に自分が手伝えばどうにかなるものなら尚更だ」
「つまり姉さんは僕の手伝いをする事で気分転換になっていると?」
「その可能性もある。詳しい状況はわからないからあくまで可能性の域を超えないが、俺はそういう一面もあるのではないかと思う」
「なるほど・・・」
「ただなぁ・・・男という観点から見るとちょっと話は変わってくるんだよなぁ」
「そ、そうなんですよ!」
もう一歩彼の心に寄ってみると自分の気持ちが理解して貰えたと思ったのか興奮気味に答える。
彼が悩んでいるところはそこなのだろう。
いつまでも弟という庇護下の立場にいるのではなく、一人の男として姉女神の側に立ち、支え、共に歩みたい。そういう理想がある。
しかし現実は未だに自分の仕事を全て満足に消化出来ず、姉女神に手伝って貰っている状態。そんな状況にジレンマを感じている。
「そんなとこだろ?」
「は、はい。情けない限りですがその通りです」
「ほあー、さすが先輩・・・」
そんな感心するような視線をするんじゃない。ただの経験則が当たっただけだ。
「で、どうするか、か・・・」
「はい。お願いします」
「うーん・・・。そうだなぁ、あくまで一つの助言としてだが、とりあえず今はまだ弟としての立場に甘んじておくのがいいんじゃないかと思う」
「今は?」
「何もそんな焦る必要ないんじゃないかなとね。時が来たら自然と変わると思う。・・・変わらないかもしれないけど」
「先輩ー・・・」
「ははは、すまんすまん。要は今は力を付ける時で動く時じゃないってこと。もしかすると手伝って貰えない事態が起きるかもしれない。逆に自分が手助けする事が起こるかもしれない。そういうあらゆる事態を想定して準備をしておくのがいいと思う」
「ふむふむ」
「君の姉さんだって失敗の一つや二つする時がきっとあるだろう。失敗した時は一人で抱え込むより相談した方が良い結果になる事が多い。もし、そんな時に男を見せて力になれれば見直してくれるんじゃないかな?」
「お、おぉ・・・なるほど!」
「ま、理想だけどな。とりあえずもっと長い目、長期的に考えてもいいんじゃないかなと俺は思うよ」
「でも先輩、それだと弟でいる時間が長くなるんじゃないですか?」
「うん。そうだね」
「そうだねって・・・」
「俺ならそれはそれで楽しく過ごすけどね」
「楽しく?」
「そうだよ。どんな関係になろうとも不満はきっと出る。でもいちいちそれを気にするよりはさっさと噛み砕いてしまって楽しい事に目を向けたほうがいいだろうさ」
「・・・確かにそうですね。そうだ、僕は姉さんと一緒にいたいんだった」
「うん。色々忙しくなるとどうしても気持ちが狭くなるもんだから仕方ない。今ここでそれを思い出せただけでもよかったよ」
「はい。ありがとうございます」
「さすが先輩!」
これで少しは悩みが解消されただろうか。
問題を先延ばしにしているだけかもしれないが、とりあえず補佐官として経験を重ねていけば出来る事も増えていくだろう。
そして仕事の手伝いが無くても大丈夫なようになってから改めて今の関係性を考えても遅くは無いと俺は思う。
俺もだがこの辺りはどうしても人だった頃の感覚で考えてしまうんだよなぁ。気をつけないと。
後で姉女神と一緒の時にそれとなくこの感覚の違いの話をしておこうかな。
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