変則雪合戦
今度は問題なく転移できたようで、無事アズヨシフ達の住む氷雪の島へ到着した。
「いらっしゃい」
転移場所でセッカが出迎えに来てくれてた。
「急にすまんな」
「いえいえ。夫は出てる故、私が案内させていただきます」
「ありがとう。助かる」
セッカの案内で家には寄らず、直接氷の精がいる場所へ向かう。
「それで、ゆきんこ達になんの用かえ?」
「それが俺達もちょっとわからなくて。水の精が急いで氷の精に会いに行けと」
「ほうほう、他の精霊の勧めとな。最近精霊についての情報が多く出回っておるが、もしや出所はここかの?」
にんまりした表情でこっちの顔を伺って来る。
「さぁ、どうだろうね。俺はただ精霊達と仲良くしてもらってるだけだし」
「してもらってる、か。なるほどなるほど」
俺の返答を聞いてセッカは何か得たようで、嬉しそうに小躍りするような足取りで少し先を進む。
こういう姿を見るとエスカと血の繋がりを感じる。昔はやんちゃだったのかもしれない。
そのうちくるくると舞いながら氷柱を両手に持ち、踊りに合わせて打ち鳴らし始めた。
しばらく歩きながら景気良く氷柱を鳴らしていると遠くから同じような音が聞こえてきた。
そしてそれは島のあちこちから聞こえてきて、次第に近付いてくるように大きくなってきた。
「サチ」
「大丈夫です。把握しています」
パネルを開いて何が近付いてきてるか確認するサチは心強い。
俺も何となく何が近付いてきてるか想像は出来てるんだが、念が使えないので対策はサチ任せになる。頼んだぞー。
心の準備が出来た次の瞬間近くの木から小さな人影が飛び出してセッカに氷柱を振り下ろす。
「よっ」
セッカはそれを予知してたかのように自分の氷柱で弾く。氷の精だ。
甲高い綺麗な音が響くと別の木から違う氷の精が飛び出し同じように氷柱を振り下ろす。
「ほっ」
それを再び弾く、次の者が飛び出す、弾くを繰り返しながら次第にテンポが速くなっていく。
「あ、それ!よいしょ!あ、それそれそれそれ!」
速くなったテンポ併せて高揚したセッカの踊りも激しくなる。
「よいぞよいぞ!さぁ、締めじゃ!」
セッカの掛け声に左右から飛び出した氷の精が氷柱を振り下ろすと双方の氷柱が砕け散り、綺麗な破片が空中に舞う。
そして破片が地に落ちるとこれまで来た氷の精とセッカが一列に並び、こちらに一礼する。
「如何でしたかな?」
ここでやっと俺はセッカ達に舞踊を見せて貰ってた事に気がついた。
「最初は驚いたが、次第に踊りに呑まれていってしまったよ。素晴らしかった」
短い時間で考えた感想を言うと隣でサチがウンウンと素早く頷く。ずるい。
「それはなにより」
「ただやるなら事前に教えておいてほしかったなぁ」
「ふふふ、それでは器が量れぬではないか」
「えぇ・・・」
どうやらドッキリを仕掛けられてたようだ。やれやれ。
「さ、お前達。挨拶をし」
セッカがそう言うと氷の精達が足下に駆け寄ってくるのでしゃがんで挨拶をする。
「こんにちは。水の精が会いに行けって言うから来たんだけど・・・」
手を差し出して一人の氷の精と握手しようとしたが、氷の精は俺に触れると直ぐに手を離し、他の精達と輪を囲んで相談を始めた。
そしてセッカの元へ行き何かを訴える。
「ふむ、なるほど。・・・ソウ様、ちょっとこやつらと遊んで貰えませんかね?」
「えっと、それは・・・」
「詳しくは遊んだ後に教えてくれるらしい」
「そうか。それならしょうがない。よし、やるか!」
よくわからないが氷の精がそれを望むなら応えねばな。
そんな意気込む俺を見て氷の精達はにっこりと微笑んだ。
広い雪原に移動した俺達は二手に分かれて遊ぶことになった。
「わりーごはいねーがー!!」
俺は右手を挙げて仮面の下から濁声を出して氷の精を追い回す。
氷の精は逃げながら時折雪玉を打ち出してくるので頭や左肩を右腕で防ぐ。
被害はないか?よし、皆無事のようだな。
俺の頭と左肩には俺側についた氷の精が乗っている。
俺の役割は逃げる氷の精を追いながら乗ってる氷の精を守ること。
そんな侵略対防衛という変則的な雪合戦をしている。
「この前考えたやつをやりたい?」
試合開始前、氷の精達と何をして遊ぶか相談したら一つの提案があった。
前にアズヨシフ達と雪合戦した時に考え、没になった新ルールを練り直したものらしい。
「でもアレって防具がないと辛いぞ?」
確かあの時考えたルールは俺とアズヨシフの上に氷の精が乗って、雪を撃ち合って当たったり落ちたりしたら負けっていうルールだったが、思ったより雪玉の威力があって結構痛いってことで没になったはずだ。
すると氷の精は氷でフルフェイスヘルムとショルダーガード、そしてフロントガードメイルを作り上げた。
「いや、氷じゃ溶けるだろう。冷たいし」
さすがに氷じゃ辛いと難色を示したが、氷の精はいいから触ってみろというので触る。
「あんまり冷たくないな」
どうやら溶けにくく冷たくない氷も氷の精は作り出せるようで、是が非でもやりたいという気持ちが伝わってくる。
「しょうがない、そこまで言うならやるか」
そんなわけで特別な氷で作った鎧と肩当を付けて装着する。
ちょっとひんやりするが動いてれば気にならない程度なのでこれならやれそうだ。
「ソウ、ちょっとそのバケツのような兜を貸してください」
「バケツってお前・・・」
確かにそう見えなくも無いが、これからそれを被るんだぞ俺。
サチに渡すとパネルを開いて何やら加工を施している。
「お返しします」
「お前これ・・・」
「いいから被ってみてください」
言われるがまま被って氷の精達の方へ振り向くと氷の精達は腰を抜かしたり逃げ出したり気絶したりした。
「こ、効果凄いですねっ」
「ぐっ・・・」
俺の被った兜には以前俺が描いた鬼の顔が投影されている。
ご丁寧に俺の顔の表情に合わせて鬼の顔も動くようになっている。おのれ、技術の無駄遣いしやがって。
「前の世界でもここまで面妖な顔はなかったのぅ」
大半の氷の精が錯乱する中、耐性があったセッカは物珍しそうに左右から兜の正面を凝視する。俺の絵ってそんなに酷い?
「はぁ、しょうがない。じゃあそれっぽく振舞うわ」
「あ、悪役頑張ってくださいっ」
「ははは。後で覚えてろよ」
サチのお仕置きを心に決め、キラキラした目でこっちを見る一部の氷の精を味方にして新ルールの変則雪合戦を開始した。
変則雪合戦の侵略側、俺率いる鬼仮面軍は頭と左肩に乗せた氷の精が逃げる相手側の氷の精に向かって容赦なく雪玉を撃つ。
あちら側の方が圧倒的に人数が多いとはいえ同じ氷の精、なかなか当たってくれない。
かといって狙いを定めて撃とうとするとあちらから反撃の雪玉が飛んでくるので気が抜けない。
ちなみに俺は攻撃に参加してはいけないルールで、とにかく逃げる側を追いかけて飛んでくる雪玉を防ぐだけ。
しかも防ぐ手立ては右腕のみで左腕は肩に氷の精が乗っているのでほとんど動かせない。
そのため必然的に俺自身はノーガードになる。
「ぶっ!」
一応ルールで正面からの攻撃のみとなってはいるが、いくらフルフェイスヘルムをしていても顔面に雪玉が当たれば音と衝撃が来る。痛くはないが驚いてしまう。
胴体の方はガードメイルをしているのでこちらは痛みも衝撃もほとんどない。なかなかに優秀な氷の防具だ。
おい、誰だ、さっきから股間を執拗に狙ってる奴。効かないからな。悪い子め。
俺にダメージが入るとするなら防御する時に使う右腕ぐらい。
試合前に氷の精に頼んで盾のようなものを持たせて貰おうと思ったが、鉄壁の守りになってしまうからなのか断られてしまった。しっかりバランスが考えられている。
そんなわけで俺の右腕は飛んでくる雪玉を防いだり弾いたりするので大忙しだ。
「お、当たった」
攻防を続けていると相手側の氷の精の一人にこちらの雪玉が当たる。
するとピピーッと笛の音と赤い旗が振られ試合が一時中断する。
雪玉が当たった氷の精が味方の氷の精に見守られながら死に際の演技をしている。
今回はスタンダードなシリアスなタイプだな。儚く散る様子を演出しているので今回は長く休めそうだ。
現在行われている変則雪合戦にはルールが幾つかあり、雪玉が当たると審判の氷の精が一時的に試合を止め、演技パートに移る。
演技パート中は休憩時間になり、主に俺の体力回復の時間になる。ホントよく考えられてる。
他にもこちらの氷の精は雪玉が当たるだけではアウトにならず、俺から落ちるとアウトとなったり、残り人数で試合のテンポが速くなるような追加ルールがあったりと結構複雑なので覚えるまでにちょっと時間がかかった。
倒された氷の精がスタッフの氷の精に運び出されて退場すると笛の音と緑の旗が振られ、試合再開になる。
「だーべーちゃーうーぞー」
体力回復した俺は再び氷の精を追い回す。
そろそろ悪者の台詞が尽きてきそうなんだけど、そろそろ同じ台詞言ってもいいかな?もうちょい頑張れ?そんなー。
雪玉が飛んでくる状況に少し慣れてきて台詞を考えるという事に意識を割こうと思った途端悲劇は起きた。
「あっ!」
二つの雪玉が空中でぶつかり、軌道がずれた片方が右腕の守りをすり抜け、一人の氷の精に直撃して俺から落下してしまった。
すかさず笛が鳴り赤い旗が振られる。
「だ、大丈夫か?」
顔面に直撃したせいで雪玉から胴体が生えたような状態になりながら小さく手を上げて無事を伝えてくれる。よかった。
それを見るやいなや俺に乗ってた味方の氷の精は俺から降り、落ちて倒れた氷の精に雪を掛け始めた。
お、おい、そのままだと雪に全身埋まってしまうぞ?
え?あぁ、そういう演出なのね。ちょいちょい心臓に悪い演出するよね君ら。事前に教えておいて欲しいぞ。ん?咄嗟に考えてるから無理?そうかー。
全身が埋まると独特な敬礼のようなポーズをするので俺も倣ってやる。決して視線が飛んできたからではない。空気を読んだんだ、うん。
演技が終わり氷の精が俺の頭と左肩に戻り始めるとスタッフがすかさず埋まった氷の精を掘り起こして退場していった。
退場際、仲間だった氷の精は満足そうな笑顔をしながらこっちに手を振っていた。美味しかったと思ってるんだろうなぁきっと。
そろそろ試合が再開されるので気持ちを切り替える。
こっちは少数精鋭なため一人欠けると戦力が大幅に下がってしまう。
さて、どうしたもんかな。
そう思っていたらリーダー格の氷の精が作戦を提示してきた。
なるほど・・・面白い、やってみよう。
一同がその作戦に同意したところで再開の笛が鳴った。
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