違和感
朝。
意識が深い眠りから大分浮き上がって来ているのを自分で感じるがサチが起こしに来るまで起きない。
別に起きてもいいんだが、このまどろみの中というのもなかなかに心地よい。
もう一度眠りに身を任せようか考えているところに人の気配が近付いてくるのがわかる。
「ソウ、朝ですよ」
「・・・ん・・・」
ここではパッと起きない。
ガバッと起きてもいいが、そうすると起き上がった直後に体に反動が来るのであまりやらない。たまに驚かせたくてやるぐらいだ。
少しずつ体を慣らすように寝返りをしてサチの気配を探る。
サチを見つけると腕や足を使って触れた場所をスベスベする。
肌を直にするのもいいが、着ている服をするのもなかなかいい。
最近は俺の生地の好みもわかってきたようで、そういう服を着て朝起こしてくれる。
それなりにスベスベを堪能したところで目をあける。
「おはよう、サチ」
「おはようございます。今日も元気そうですね」
「うむ」
今日の服を用意してもらい、着替えて立ち上がる。
「・・・?」
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
今一瞬何か違和感を感じたような気がしたが、気のせいだったかな。
一瞬すぎてそれが何かも分からなかったし、何だっただろう。
まぁいいか、ひとまず朝食を食べて、今日の仕事に向かうとしよう。
変質の土地を調査する元魔族達含む調査隊へ武装した者が数名北から馬で近付いてるのを捉えた。
そのまま武装した者達は調査隊の前まで行き、剣を突きつけ何か叫んでいる。
俺には何を話しているかまだわからないが、調査隊の表情を見るとあまり良い事を言われている感じでは無さそうだ。
高圧的な態度を終始して武装した者達は北へ戻っていった。
「サチ」
「はい。今の会話記録から気になる単語が幾つか出たのでまとめました。こちらをご覧下さい」
サチから今の会話を文字化したパネルが送られて来た。
「ふむ・・・」
確かに気になる単語が幾つかあるな。
まず北からやってきた武装した者達は魔神信仰者という魔族の中でも特定の者を信仰する、いわゆる宗教団体だった。
彼らは魔神の力を使い、この地を平定したのだと言う。
元々この地に居た民は魔神の寛大な措置により南に逃げるよう勧告はしたが本当に逃げたかは知らない。
調査隊については東のオアシスからやってきた事を聞き、今回は見逃すので早々に立ち去り帰るよう言い、数日後にまた来てまだ居るようなら武力行使も厭わないようだ。
「魔神か・・・」
ここに来て再びこの単語を聞くとは思わなかった。
以前魔族領には魔神信仰による神と対になる存在があるのではないかと思って身構えていたが、実際は魔王という存在が居ただけで、魔王自体もそんなに悪そうな人でもなかった事がわかったので魔神という存在は居なかったと思っていた。
「魔神についての情報は?」
「不明です。しかしこれだけの規模の変質化を起こせるのであれば相応の力の持ち主だと思われます」
「信仰者達が力を合わせたという可能性は?」
「低いですね。変質の中心点が一点なので複数人で行ったとは考え難いです」
「確かに・・・」
火の精がおこした粉塵爆発は複数の爆発で、そのときの地面の抉れ方も複数起きたとわかるような形になってた。
そう考えると今調査隊がいる部分を中心にダウンバースト型の魔法かそれに似た変質を起こせる何かを起こしたと考えるのが妥当か。
・・・む、調査隊が少し相談した後に野営組の方へ戻り始めた。
この後どうするんだろう?大人しくオアシスの方へ帰るのだろうか。
まだまだ動向に目が離せそうにないなぁ。
仕事が終わり、片付けるサチに声を掛ける。
「今日の予定は?」
「んー・・・特に無いですね」
「お、それじゃ今日は家で料理だな」
「何を作るのですか?アイスですか?プリンですか?」
「カレー」
「・・・」
「そう嫌な顔するな。美味そうに食ってたじゃないか」
「確かに美味しかったですが、あの匂いを連日はちょっと・・・」
「あー・・・」
サチの言いたいことはわからんでもない。
特に慣れてないからあの刺激臭を常に嗅ぎ続けるというのは疲れてしまうのだろう。
ただ、たぶん嗅いだら嗅いだで腹減るんだろうけど。
「では帰りましょう」
「うん」
カレーの研究は後日にするとして他にも作りたいものがあるのでそれを考えながら転移した。
「・・・あれ?」
転移した先はいつもの家の正面ではなかった。
懐かしい風景と言うべきか、風に靡く緑が広がる風景。
「ここは俺がこっちに初めて来た時に来た島だよな?」
「そのようです・・・」
サチがパネルを開きながら難しい顔をしている。
サチにしては珍しいな、転移の念の誤差が出るなんて。
転移の念は精度を高めるのが難しいので、たまにこのようにずれた場所に転移してしまうのだが、念のエキスパートであるサチがそれをする事は滅多にない。
「おかしいですね・・・」
納得がいってない様子のサチの頭に手を乗せ軽く撫でる。
「そういう日もあるさ。とりあえず飛んで帰ろう」
「・・・わかりました」
どこか釈然としないが頭を撫でられたので考えるのを一旦停止して俺の背後に回っていつものように飛び立つ。
そういえばこうやって飛ぶのもすっかり慣れたな。最初の時はかなり戸惑った。
今では全身に当たる風やサチの感触を楽しむ余裕すらある。
これはこれで良いところが一杯あると公言したいところだが、サチが嫌な顔をするのが目に見えてるので俺だけの秘密にしておこう。うんうん。
家の島に戻ると地の精が俺のところへ駆け寄ってきた。
「キュ」
「お?出迎えとは珍しいな。どうした?」
「キュー・・・」
俺の問いかけに反応せず地の精は俺をじっと見つめる。なんだ?
「キュ!」
「お、おい」
少しの間じっと観察した後、早い動きで俺の脚を駆け上がり左肩に乗って池のある方を指差す。
「あっちに行けばいいのか?」
「キュ!」
そうらしい。
俺とサチは地の精の意図するところを理解しきれず顔を見合わせてから池の方へ向かった。
「キュ!キューキュ!!」
池の前まで着くと地の精がいつもより身振り手振りを大きく動く。
すると池に配置してある水の精霊石から水の精がぬるりと出てくる。
「もー、なにー?」
「キューキュ!キュ!!」
「え?どれ・・・」
地の精が俺を指差しながら水の精に何かを訴え、水の精はそれに応じて俺を凝視する。なんだなんだ?
「ちょとこちきて」
「ん?なんだ?・・・つめてっ!?なにする!?」
水の精が呼ぶので近寄ったら盛大に水をぶっ掛けられた。ひどい。
「むぅ。やぱりだめ。こおりじゃないと」
「ダメ?氷?何の事だ?」
「こおりあいにいく。いそぐ」
「氷の精に会いに行けばいいのですか?」
「ん。いそぐ」
「わ、わかりました」
いつもと違う水の精の剣幕にサチもたじろいながらパネルを開いて氷の精のいる島への連絡を取る。
氷の島といえばアズヨシフのところか。
水の精は氷の精に会いに行けと言ってるがなんなんだろうか?
「連絡付きました。転移でいきます」
「大丈夫か?」
さっき失敗しただけにちょっと気になる。
「だじょぶ。おきゅうした」
お灸?どういう意味なん・・・。
「転移!」
考える俺を無視してサチは力強く俺を掴んで転移の念を発動させた。
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