カレー

「つまりこの実が原因だと」


「そうなります」


土まみれだった体を念で綺麗にしてもらい、落ち着きを取り戻したところで警備隊の皆と今回の騒動の整理をしている。


元々この島にこの実が生えており、独特の匂いのする島になっていた。


そこへ火の精がやってきて気に入り定住。


ところが実が熟れた時に出る煙を火の精が吸ってしまったところ、くしゃみと同時に口から火を吹いてしまい、粉塵爆発が発生。


偶然にも家の近くで起こしてしまったため、まだ不完全だった精霊石が破損。


ショックで火の精が泣いて火柱を起こしてしまってたところ、通り掛った人が発見して警備隊に通報。


召還して間もない島ということもあって警備隊は一応俺達にも要請を出して駆けつけ、無事解決と。


「しかしこの実はなんなんだろうな?」


「・・・」


実について聞くとサチが言い辛そうな顔をする。


「手元にある四種全て未解明の実なのですが・・・。ソウに心当たりありませんか?」


「俺に?いや、見たことないけど・・・」


「見た目以外では?」


「見た目以外?・・・まさか!」


既に割れてガスが抜けた実を手に取り残っている僅かな粉状の種を指に付けて舐めてみる。


「・・・ウコンだこれ」


ウコン。前の世界じゃショウガに似た根菜で生薬や香辛料として使われてたものだ。


確か別の呼び方があったよな・・・なんだったか・・・ターメリックだっけ?


その名を思い出した瞬間ハッとして他の実の味も見る。


「あー・・・」


「何か気付きましたか?」


「すまん。また俺の意識が島作りに影響及ぼしてたみたいだ」


他の三種の実の味はコリアンダー、クミン、カルダモンだった。


そんな四種を今口にした俺の口の中はめっちゃカレーになってた。唐辛子を粉にしたのを口にしてないので辛くはないが。


どうやら島を召還する際に俺の中の無意識にあったカレーが食べたいという欲求を汲み取ってしまったようだ。


「てことは今回の大元の原因は俺か。すまん皆。火の精もごめんな」


「いえ!ソウ様が謝ることでは!」


「グァ!」


火の精も口を開けて気にするなと言ってくれる。いいやつだ。


「そうですね、じゃあ詫びという事で一つ料理を振舞うというのでどうでしょう?」


約一名よしとしない者から提案が出る。何か悪い顔してるな、サチ。


「何振舞えばいいんだ?」


「見たところソウはこの実の中身の使い方を存じているようなのでそれを使った料理を所望します」


所望しますって私欲駄々漏れじゃねぇか。


つまり即席でカレーを作れってことか。


「うーん、一応サチがいるから作れなくはないが、分量とかちゃんと研究してからじゃないと美味しいのが作れるとは限らないぞ?」


「それでも構いません!」


見るとサチの他にも警備隊員全員、さらには火の精までこっちに期待の眼差しを送って来ていた。


「・・・しょうがねぇなぁ。味は保障しな」


「いやっほーーー!!」


味は保障しないと言う声はちゃんと聞こえたのだろうか?本当にしないからな?




調理を終えて皆の前に三つの鍋が置かれた。


一つは普通のカレー。辛さ、味、どれも俺の感性で一番マシだと思うやつ。具材も豚肉の実、ニンジン、玉ねぎ、ジャガイモとスタンダード。


一つは黄色いカレー。辛さがほぼ無い薬膳カレー。具材は鶏肉の実と色々な野菜をごろっと多めに。ちょっと物足りない感があるヘルシー志向。


最後の一つは赤いカレー。ガッツリ辛いキーマカレー。牛肉の実の挽肉にナス、玉ねぎ、ピーマンを角切りにしたものを入れた癖の強いカレー。


「一応味見はしたがさっきも言った通り味は保障しかねる。赤いのは特に辛いから気をつけてほしい。以上」


こうは言ったが既に皿にライスを乗せてスプーンを持った人に言葉は通じないのだと思った。


配膳を開始した途端赤のカレーに殺到する一部の警備隊員。


あのさ、俺の話ちゃんと聞いた?知らないからな?


「辛ッ!!でも止まらない!」


「黄色いのはこれはこれでいいなぁ。毎朝のお茶の代わりにできないかな?」


「やっぱりソウ様が一番良いというこれでしょ。バランスが最高」


食事を開始すると様々な感想が聞こえてくる。


概ね良好な感想なようでよかった。


正直俺としては出来は微妙なところだと思う。


前の世界のカレーはもっと美味かった。


専門の研究所が出来るぐらいに味を求めてたしな。あの世界やっぱりちょっとどこかおかしかった気がする。


ちなみにサチは普段俺と一緒に食事をしているせいか俺の味覚に近いスタンダードなカレーに落ち着いたようだ。


フラネンティーヌは薬膳カレー、ルシエナはキーマカレーを気に入ったようだ。


火の精はというと専用に三種盛りした器に香辛料の実を浸けて味比べしながら食べている。


なかなかに通な食い方だ。・・・あ、マナの量が多い方が美味しいと思うんだった。なるほど、それが一番美味しくマナが摂れる食べ方なんだな。


俺がカレーを調理している間、サチ達はこの島の扱いを相談していた。


火の精はこの島に残る事を希望し、新しい精霊石候補を探すつもりでいるようだ。


そうなるとこの島の扱いも精霊のいる島として扱われるようになる。


俺としてはカレーの香辛料が手に入る島だから食材研究士とかの管理下になってくれると都合がいいんだが、どうなるかはまだ不明だ。


とりあえずカレーが作れるようになったのでユキ達に教えないとな。


今のカレーではちょっと自信が持てないのでもう少しクオリティを上げてからにしたところだ。


皆が食べ終わったら実の回収を手伝って貰おう。


カレーを食べた後ならきっと手伝ってくれるだろう。期待しよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る