移民者達の経過視察

オアシスの街から再び西へ遠征隊が出発した。


人数は前回の参加者に加え、街の上層部から要請され集まった人達で構成されている。


前回と途中までは同じルートを辿って砂漠を抜けたが、そこから直接大河の方へ向かわず北上を始めた。


要請された人達が先導している辺り何か考えがあるのだろう。もう少し様子を観察してみる。


一行は漁村の南にある森の南端に到着し、そこで伐採を始めた。


切った木は薄い板状に加工され、馬車に積み込まれていく。


そこそこな量を伐採してるがこれで橋を作るには無理がある。何に使うのだろう?


力仕事の出来ない人は伐採している時間で縄を結っている。素材を無駄にしなくて好感が持てる。


材料が揃ったのか再び全員馬車に乗り込み、大河に沿って南下を始めた。


少し進んだところで元魔族の子が何人かで結んだ縄の片方を持って対岸へ飛んで行った。


あー、この縄は測量用か。


橋を掛けるにしろ何にしろ、河を渡るのであれば最短距離であることに越した事はない。


半日ほどゆっくり南下しながら測量を続け、最初に氷の橋を作った場所から若干北側の位置でアタリを付けたようだ。


翌日、大河に再び氷の橋が掛けられた。


前より橋の造詣のレベルが上がり、所々に河の水が流れるような穴が出来ていて溢れないようになっている。


そして橋の歩道部分には二本の溝が掘ってあり、馬車から降りた人たちがそこに一斉に伐採した木の板を敷き始めた。


一定距離木の板が敷かれると馬車がその上を走り始めた。


なるほど、木の板でレールのようなものを作り、その上を馬車の車輪を乗せるよう走れば氷の影響を受けない。考えたな。


馬車が通った後は素早く木の板を回収して行く。なかなか連携の取れた作業だ。


このまま順調に進むかと思っていたが大河はそんなに甘くは無かった。


水の変化に気がついた大河に棲む魚達が一斉に橋の方へ向かってきたのだ。


上空で待機していた元魔族の子がそれを知らせると、地の魔法で大河の中腹辺りにストーンウォールで簡易的な要塞を作り、馬車と人を避難させた。


魚は賢く、避難した石の要塞に向かって体当たりをしている。なかなかに獰猛だ。


中では中央に集まり仮に崩れても対抗できるよう身構えている。


とはいえ気丈に振舞っていても不安なのは確かで、俺のところに願いが届いてきてる。


大丈夫、ちゃんと見守ってるぞ。要塞が丈夫そうだから特に何もしないけど。


日が落ちた頃になりやっと魚達が諦めたのか要塞への攻撃が無くなった。よかったな。


しかし結果として大河のど真ん中に取り残されてしまう形になり、不安な夜を過ごす事になってしまった。


こういうとき日頃から危険と隣り合わせになっている冒険者というのは心強い存在だ。


魚の猛攻の時は前に出て臨戦態勢を取り、このように未知の不安が押し寄せている時に冷静に励ましている。


うーん、カッコいいなぁ。


翌朝、要塞から再び氷の橋が掛けられ、一行は無事対岸まで渡り切った。


それまでちょっとぎこちなかった関係も同じ苦難を乗り越えた事で団結力が増したように感じる。いい事だ。


しかし一行の移動はこれからが本番という気がする。


何せこれから向かう先は広域に地質変化が起きた場所だからな。


無事で居て欲しい。今はただそれだけを思う。




仕事の片付けが終わったサチがパネルを開きながら今日の予定を伝えてくる。


「シアから?」


「はい。暇な時に様子を見に来て欲しいと」


「そうか。どんな感じなんだ?」


「本人曰く助けて貰って助かってると」


「・・・ん?あれ?シアが移民補佐官だよな?」


「そうです」


「そのシアが助けて貰ってる側なのか?」


「そのようですね」


「・・・理解に苦しむから見に行くか」


「それが早いと思います」


サチは何かを察したような表情をしていたがとりあえず様子を見に行く事にした。


皆元気にしてるかな?




「ソウ様ーやっほー」


「おう」


シアと六人の移民が住む島に移動すると二階のバルコニーでお茶をしていたミレットが手を振ってくれる。


対面に座ってるツユツキは目の前に並べられた複数のお茶に集中してるのか無反応だ。


しかしミレット、随分とラフな格好してるな。


キャミソールにショートパンツという肌の露出が多い服装だ。


俺はサチや下界の観察で耐性が出来てるからいいが、若い男子が見たらドキドキしてしまうぞ。


「シアさーん、ソウ様とサチナリア様がお見えになったわよー」


ミレットが家の中に向かって言うとドタドタと慌しい音が近づいてくる。


「すみません!今お迎えにあがり、おとっとっ!ギェっ!」


扉を開けてこっちに急いで来ようとしたシアは階段を踏み外して顔面から地面に激突した。


「だ、大丈夫か?」


「だ、大丈夫です」


地面に頭を埋めたままシアが親指を立ててアピールする。本当に大丈夫か?


「あーもーまた転んでるー!」


シアから少し遅れてアズとミントが出てきてシアを起こす。


「まったくもー」


プリプリしながらアズはシアの汚れをはたいて落とす。


対照的にミントは黙って服装を直してる。二人とも手馴れてるな。


「アズもミントも久しぶり」


「え、あ、こ、こんにちは・・・」


俺に気付くとアズは急にしおらしくなってシアを盾にしながら返事をしてくれる。


ミントも同じようにアズの反対側から小さくペコペコと会釈する。


うーん、まだ慣れないかー。仕方ない。


「ソウ様、サチナリア様、ようこそいらっしゃいました!」


二人を背にしながらシアはスカートの裾を持って優雅に挨拶する。まだ眼鏡に土がちょっと付いてるけど。


「出迎えありがとう。ところでその格好なんなんだ?」


先ほどから気になってたが、シア、アズ、ミント共に服の上に割烹着のような袖つきエプロンを着ている。


シアに至ってはメイド服の上から着てるからダブルエプロンになっている。意味あるのか?それ。


「只今皆さんで念を使いながらお掃除してまして!見られますか!?」


「あ、あぁ、うん、邪魔にならなければ」


「是非!ささ、どうぞどうぞ!アズさん、ミントさん持ち場に戻りますよー!」


「ちょ、ちょっと、シア!押さないでよ!」


アズとミントを後ろから押しながらシアは家の中に入っていくので俺とサチはそれに付いて行くことにした。




「あ、ソウ様、ご無沙汰しております」


「こんにちはー」


「こんにちは。ロゼ、マリー」


三階に移動すると三人と同じように袖つきエプロン姿のロゼとマリーが居た。


この家の三階は半屋根裏部屋のような広い一室のみになっており、現在そこを薄い板で間仕切りしてある。


どうやら各自担当した区画を念を使って綺麗にするという課題やっているようだ。


「ロゼさんはまず安定して念が発動できるようにしましょう!」


「うん、がんばる」


「マリーさんはちょっと大雑把ですね!もう少し隅を意識するといいかもしれません!」


「はーい」


シアが的確にアドバイスをするが、ロゼとマリーはちょっと念の扱いが苦手なようで苦戦している。


一方アズとミントの床は既に綺麗になっており、天井部分の清掃に移ってる。


そして残りの二人、ミレットとツユツキがやったと思われる区画は既に終わっており、床天井共に綺麗になっている。


「結構念の扱いに差が出てるのか」


「そのようですね。ですが浄化の念は使えないと不便ですので多少厳しくしても覚えていただきたいところです」


「そうだなぁ」


そう相槌をうつ俺は実は使えなかったりする。


使おうと思っても不可能って出るんだよなぁ。何が悪いかはイマイチわかっていない。


一応食べた物を完全分解するみたいな事は可能なのだが、サチが使う浄化の念のようにマルチには使えない。仕様の差なのだろうか。わからん。


俺の事はひとまず置いておいて、移民の皆は会得出来ないと自由活動の許可が出せないので使えるようになって欲しい。がんばれ。


「アズさん、ミントさん!精度が落ちてますよ!」


「う、うるさい、気が散る」


「・・・ん・・・」


アズとミントの念の精度が落ちてきてるみたいだ。俺にはそう思えないんだけど、ペースが落ちてるのかな?


「ソウ」


「ん?なんだ?」


「邪魔です」


「なぬ!?」


突然のこの言われよう。酷くない?


「どうやらアズとミントが緊張してしまっているようです」


「あーそういうことね。わかった、じゃあミレットとツユツキのところ行ってくる」


「すみません、お願いします」


男ってだけでまだ皆ちょっと苦手意識あるから仕方ない。


ちょっと寂しいがここは大人しく移動しよう。


とはいえ果たしてミレットとツユツキは俺の相手してくれるかなぁ。不安だ。

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