観光島の町区画
湖上の街での方針が大体決まったようだ。
二人が流れ着いた時は別々に隔離してしまうという強行案も出ていたようだが、二人が話せるようになってからはそんな事はせず、手厚く歓迎して外の状況を聞く事にしたみたいだ。
既に二人が落ちてきた場所の付近では木材による昇降装置の建設が始まり、近いうちに崖の上に上れるようになるだろう。
完成すればそれまで外界と断絶状態だった湖上の街に交流が生まれ、緩やかにだが子孫問題も解決するはずだ。
湖上の街の大きな問題はこれで解決しそうだが、今回の事で細かな問題が発生している。
例えば外界に出てオアシスの街に行く人の選定。
若い人はやはり外の世界へ少なからず憧れがあるようで、こぞって立候補したため選定に時間を要する事になってしまった。
また、魔科学文化をどこまで広めるかという部分で議論になり、相互に人を交流させる派、定住希望者しか受け入れない派、子供が出来たら帰って来させる派など様々な意見や派閥が出来てしまい、今も揉めている最中だ。
こういう取り決めはどれが正解というのが難しいからなぁ。じっくり話し合って決めるのがいいだろう。
さて、一方密林やオアシスの街はどうかというといつもと変わらない。
一応密林で行方不明者が出ているという事は知らされてはいるが、それで捜索隊を出そうとかいう事はしていない。
オアシスの街にとって密林は開拓が進んできたとはいえ、まだまだ危険な場所という認識だ。
全ては自己責任。
厳しいようだが下界では全ての人の安全まで保障するような取り組みはない。
規則はあっても法律はないし、街や街道から外れればすぐに命の危険がある世界だからな。
ホント行かなくてよかったと思う。
とはいえ今後湖上の街と交流が始まればオアシスの街も何か動かなくてはならなくなるはずだ。
やはりネックになる部分は密林だろう。
下界の人達はこれをどうやって解決するのか気になるところだ。
今日は観光島にやってきている。
一般開放前の関係者招待に呼ばれたからだ。
「ようこそ、観光島へ」
飛行者および転移の念での着地地点で案内人が笑顔で出迎えてくれる。
「ご案内は必要ですか?」
「うん、頼むよ」
案内を担当してくれてる子は何度か警備隊の訓練などで会った事のある子だ。
案内人と警備を兼任しているのだろう。
サチから各所で実践練習をするため付き合ってあげて欲しいと事前に言われているので俺もそれらしく振舞うように心がける。
「あちらが町地区、飲食が出来たりお土産など貰える区画となっております」
遠くの家屋が多く並んでいるところを手で示しながら緊張気味に説明してくれる。手がちょっと震えてるぞ。頑張れ。
「続いてそちらの建物が駅舎となっており、島内を一周する観光列車に乗車できます。本数が少ないため乗車にはお時間を頂く場合があり、少々並んでお待ちいただくことになります」
うん、事前注意をするのはいいことだ。
「観光列車はそちらの駅舎以外にも停車する駅がありまして、竹林地区、花畑地区で乗降できますので是非利用してみてください」
「うん、わかった。ありがとう」
「はい。・・・えっと、どうでしたか?」
一通り説明が終わって案内人から知り合いの顔になり感想を求めて来た。
「うん、なかなか良かったと思う。後は回数こなして慣れていけばいいよ」
「本当ですか?ありがとうございます!実は自分で志願してここに配属してもらったんですよー」
「ほー。じゃあ希望が叶った感じか」
「はい!これからが楽しみです!」
いい笑顔だ。
付けてる腕章をしっかり見ないと警備隊と判らず、基本的には案内人として見られる格好をしているのがいいな。
自分で志願した場所に配属されればやる気や向上心も自然と高まるのできっともっと良い案内人になるだろう。楽しみだ。
案内人に頑張れと伝え、俺とサチは町地区の方へ足を運ぶ。
今日招待されたのは主にここの視察願いだった。
「いい匂いするなぁ」
「そうですね。これは視察し甲斐がありそうです」
サチの目がキラキラしている。
この町区画ではただ単に空間収納から出して提供するのではなく、ちゃんと何を提供しているのかわかるようにしたり、最終調理をその場で行ったりという工夫がされていて体の色々な感覚が刺激される。
それに前に見たときより大分進歩しているな。遠目からでも見たことない料理がちらほら見える。
俺達の役割はここで提供される物の味見と所感のチェックだ。頑張ろう。
町地区は一本道の片側だけに建物が並ぶ商店街のような場所だ。
建物の無い側はベンチやテーブルが並んでいて休憩できるようになっている。
前に見た時はただの空き地だったがこれなら気軽に提供された物をここで飲食できる。いいね。
「そこのお二人さん、うちの団子食べていかないかい?」
「後で見させてもらうよ」
歩きながら何度目かの誘いを軽く手をあげて遠慮する。
「・・・あの、まだ一度も提供を受けていませんが、何か不満があるのですか?」
食べ物やお土産に目移りしていたサチが一向に足を向けない俺に対して若干不安を覚えたようで聞いてくる。
「落ち着けって。まずは一通り見てからだ」
「む・・・どういうことですか?」
「普通に最初から順に楽しんでしまうと全部見る前に疲れちゃうだろ?だから先に全部見てから厳選するんだ」
「なるほど」
これは俺が前の世界で初めて行く商店街や縁日の露店を巡る時に覚えた歩き方だ。
特に縁日の露店なんてのは同じ品目なのに値段や品質が違ってるからな。
財布と腹と相談しながら最大限楽しむのを模索するというのがこういう場での楽しみ方の一つだと俺は思っている。
「でも念を使えば全部まわっても何とかなりませんか?」
「・・・」
・・・確かに。
こっちの世界には念というものがあり、そもそも通貨も無いからどうとでもなる。
ともなればサチの言うように頭から順に巡っていったほうがよかったか?
いや、うーん、でもなぁ、ここまで見てきちゃったしなぁ。
「と、とりあえず今回は俺の方法で見てみよう?何か発見があるかもしれないし、な?」
「ふふ、わかりました」
取り繕うようについ言ってしまったら、サチはその様子を面白そうに微笑みながら許してくれた。優しい。
そんなこんなで入口から出口まで一通り見たが、通りに面してる全体の建物数に対して提供している建物はおよそ半分程度というのがわかった。
分布は飲食系が三割、お土産系が一割、その他サービスが一割で、残りはまだ人が入っていない空き屋という感じだ。
空き屋と言っても自由に使えるよう中に椅子とテーブルが配置されており、ちゃんと活用はされているので閑散という雰囲気はない。
「では行きましょうか!」
次こそはとサチが意気込みながら来た道を引き返し、今度はそれぞれ提供品を見ていく。
下調べ段階で気付いたのは飲食物は出入口から近い位置には軽食、中央の辺りに入店式のしっかりした料理の建物が配置されている事がわかった。
「美味いなこれ」
「ちょっと量が少ないですが、これはこれで良いですね」
軽食だからと言って甘く見てはいけない。
ちゃんと塩味や甘味を調節してあり、美味い。
しかもサチの言うように量が満足するちょっと手前ぐらいに調節してあり、もう一回貰いたい、いや、それなら他のを、という気持ちにされる。
そしてその状態のまま中央辺りまで進み、一軒を選んで入ると十分な満足感が得られるのか。
うーん、考えてあるなぁ。
しかし今回俺らが課された事を考えるとそれに乗せられるわけにはいかない。
出来るだけ多く見てまわりたいというのがある。
ちょっとサチに相談してみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます