待ち時間の楽しみ方

オアシスの街の西にある大河で立ち往生している一団の試行錯誤が続いている。


滑り止めをするために車輪にぼろ布を巻いて再び氷の橋に挑むようだ。


止めておいた方がいいと思うけどなー・・・。


そのまま見ていると少し進んだところで布に水が染み込み、氷に冷やされ橋にくっついてしまった。


慌てて溶かしてるがそれだと橋も溶けるぞ。


あーあー荷馬車が傾いてる。急いで戻るんだ。がんばれ。


なんとか岸まで戻れたか。よかった。


翌日、今度は氷ではなく地の魔法で同じように橋を架けたが長さは氷に比べ一割程度までしか無く、しかも河の水によってあっという間に水に溶けてしまった。


ふむ、どういうことだろうか。


魔法を使った元魔族の子の情報を見るとどうやら氷の魔法が得意でそれ以外はそこまでではないようだ。


オアシスの街でも氷を作り出す仕事に就いていたようだし、そりゃ日常的に使う魔法とそうでないものでは錬度が変わってくるから仕方ないか。


ぼろ布を巻くというところまではいい線行ってると思うんだが、相談している様子を見るとどうもそこから考えが進まず渋い顔をしている。


もう数日ここで立ち往生しているし、どうするかな。


俺としては無事に渡ってくれると視野範囲が広がって助かるが、無理そうなら無茶する前に引き返すのも手だと思う。


ちゃんと対策を考えて改めて挑むのも決して悪くない。


無茶して大河に落ちたりでもすれば凶暴な魚の餌食だからな。慎重になるぐらいでいいと思う。


それにしてもどうして元魔族は物資を持って西に行こうと思ったのだろうか。


既に魔族からコスプ族になってるから関係は断ったと思ったのだが。


うーん、今のうちに視野範囲拡大して下調べしておいた方がいいかなぁ。


ちょっとサチと相談してみてどうするか考えよう。




今日は農園のレストランに来ている。


ドリスが食材研究士達の成果を見せたいと連絡をくれたからだ。


ルミナの歓迎はサチに任せ、レストランに入ると一つのテーブルに人が集まっている。


人だかりの間からテーブルをそっと覗くとシロクロ対決をしているドリスとイルがいた。


「ふふん、どうだ?我もなかなか強いだろう?」


「くっ・・・」


どうやらドリスの方が優勢なようだ。


しかし俺が後ろから見ても誰も気付かないということは相当白熱した戦いしてるんだろうな。


終わるまで待たせて貰おうと席を探そうとしたらモミジに気付かれた。


ん?何?案内してくれる?そうか、ありがとう。


モミジに案内されたテーブルは店内の隅で声が皆に届きにくそうな場所。


「いらっしゃい」


「案内ありがとう」


「ん」


案内してくれたのはありがたいがそのままお前も一緒に座るのか。


「給仕の仕事はいいのか?」


「いい。どうせ注文ない」


「それもそうか」


「それより麺の話聞きたい」


「麺?この前教えただろう」


「もっと」


「もっとかー。うーん、じゃあ加水率の話でもするか」


「うん」


モミジにざっくりと加水率の話をする。


麺を作る際に加える水分量のこと、その量によって麺の硬さが決まること、加水率によって麺ののびやすさや汁の吸いやすさが変わるなど簡単に説明する。


「つまり水の量が大事?」


「うん。量の他にも水自体も大事だぞ」


「水自体?」


「こっちの水は綺麗な水だが、あえて何か混ざってる水で麺作りすると食感が変わったりするぞ」


「おー」


前の世界では水によって硬度が違っていてそれで変化を与えられていたが、こっちは基本的に念や精霊石から水を得るので基本的に不純物の入っていない水になっている。


以前試しに料理の際に出た茹で汁を使って麺を作った事があった。


結果は微妙だったが。


原因はその時の思いつきでやってしまい、麺に臭いが付く事を念頭に置いてなかったため食べる時にその臭いが若干気になってしまったし、水と粉のバランスも良くなく美味しいと言える出来ではなかった。


もう少し研究を進めて色々改善すれば新しい食感の麺が作れるとは思うが、この情報はまだ話さないつもりだ。


折角モミジが麺作りに興味を示し始めたところだ。存分に試行錯誤してもらってから話しても遅くないはずだ。


「奥が深い」


「そうだな。奥が深く広大だ。それが料理の世界だ」


「迷いそう」


「迷ったり悩んだりするのは決して悪い事ではないが、迷い続けてしまうのはよくないな。とりあえず目標やこだわりを持てばそれが印になって迷わなくなるんじゃないかな」


「難しい」


「気楽に考えればいいさ。麺料理に興味があるならとりあえず何か一品作ってみる。それを誰かに食べて貰う。そんな身近な目標からはじめればいいさ」


「ん。やってみる」


「美味いのが作れたら俺にも食わせてくれ」


「わかった」


モミジが作った麺料理かー。


どんな物を作り上げるか全く想像がつかない。


ふふ、また新しい楽しみが一つ増えたな。





「いーなー、いーなー」


ワカバが隣に座るモミジの頬をツンツンしている。


それに対してモミジは無反応。


気にする俺にこれは日常茶飯事だから気にするなという視線を送ってきている。


モミジと麺料理の話をしていたらワカバが俺らに気付いて同席したのは先ほどのこと。


そして俺がモミジと料理の話をしていた事を聞いて今の行動に移ったところだ。


「いーなー、モミジちゃんだけソウ様からアドバイス貰ってー。いーなー」


「他の皆も聞いてる」


「え?そうなの?そうなんですか?」


「ん?あぁ、俺が答えられる範囲でな」


「そ、そうだったんだ・・・」


モミジをつついていた手が止まる。


「なんだ?ワカバも何か聞きたい事でもあったのか?」


「あ、えっと、その・・・」


「遠慮するな」


「それがそのー・・・」


モミジの頬にのの字を書いてなかなか答えない。なんだ?


「姉さん。無いんでしょ?」


「うっ!」


無いんかい。


羨ましがってるからてっきり何か聞きたいのかと思って身構えていたのに。


「ち、違うんですソウ様。忘れてるというか今パッと思い浮かばないというか」


「ははは、無いならそれに越した事は無いから気にするな」


「あーもー折角の機会がー」


頭を抱えて突っ伏すワカバをモミジが優しく撫でる。優しい。


「じゃあ姉さんの分私が聞く」


「ちょっとモミジちゃん!?」


こらこら、撫でてるようでワカバの頭をテーブルに押さえつけるんじゃない。


話を邪魔されてご立腹なのはわかるがもうちょっと姉を大切にしてあげなさい。


ワカバはワカバでモミジにぐりぐりされてちょっと嬉しそうにするな。よだれ出てるぞ。


まったく、面白い姉妹だな。


情報館で会った時はもう少し大人しかったような気がしたんだが。


あれか、ルミナの下で働くようになってあいつの破天荒さが移ったかな。たぶんそうだな。うん。


「二人は最近何か料理作ったか?」


埒が明かないのでこっちから話を振る事にした。


ふむふむ、二人とも麺料理に興味があるんだな。


ワカバの場合は麺料理に限らず辛い物という感じか。なるほどなー。


ところどころ二人のじゃれ合いを挟みつつ普段どうしているのか聞けてよかった。

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