キノコで練り物

今日はなんとなくスライムの観察をしている。


場所は草原の街から少し離れたところにいるグリーンスライムだ。


下界では闇雲に殺生をするのは冒険者ギルドが禁止しているのでこのように街から距離がある場所にいれば基本的に安全でいられる。


グリーンスライムの主食は草で、草であれば何でも食べる。


ただ、草の中には毒草などの毒を含んだものもあるが、グリーンスライムはそれもお構いなしに食べてしまう。


稀に毒に適応してポイズンスライムに進化するものがいるが、大半のグリーンスライムの場合体が若干弱ってしまう。


このような状況になった場合スライムは寝る。


岩の上で日の光を浴びながら無防備に寝ていて和む。


ここまで無防備だと他の生物に襲われたりしないのかと最初気になっていたが、襲う側の生物も今のスライムが毒を有している事を知っているようで、迂闊に手を出したりはしない。


この辺りのスライムは基本的に温厚で攻撃されない限りは反撃に出たりしないのだが、寝ているところを起こされたスライムはなかなかに獰猛だった。


以前駆け出しの冒険者がこのように無防備に寝ていたスライムに攻撃をし、反撃を受けた上、毒に侵され街に担ぎ込まれていたことがあった。


普段は溶解液を浴びせる程度なのに、全身使って相手を覆い、衣服を溶かして全裸にさせてから毒にしてたからなぁ。


食らってたのが男だったので目の保養にはならなかったが、寝ているスライムを起こすとどうなるか見ることはできた。


俺はどうなんだろう。


こっちの世界に来てから乱暴に起こされる事はないからなぁ。


気付くとサチに襲われてる事はしばしばあるが、あれはあれで良いので問題ないしな。仕事開始が若干遅れるが。


ふむ、ちょっと気になってきた。


仕事が終わったら聞いてみよう。




「朝のソウですか?」


「うん。どんな感じかなって」


「基本的に何度か呼べば起きますよ」


「そうなのか」


「何度か、というところを気にしてください。一度ではまず起きません」


「え、そうなの?」


「はい。起床値が一定以上にならないと起きません」


「起床値?」


「一度では起きないのが分かったので、何をすれば起きるのかなど統計をしているのですが、その単位です」


そんな事していたのか、初耳。


「なかなか面白い研究ですよ」


俺を研究題材にしないで欲しいんだが。


「それで、何か分かった事あるか?」


「声で起こすのが一番時間効率がいいです」


「へー。ということは別の方法も試したのか」


「幾つかはソウも知っていると思いますが」


「あー・・・あれか。あれはいいものだ」


「あれは仕事に遅れるので毎日はダメですよ」


「わかってる。たまにだから嬉しいというのもある」


「そ、そういうものですか・・・」


そういうものなんだ。


なので是非とも今後もお願いしたい。


「それ以外にも俺が知らない起こす方法もあるのか?」


「ありますが、どれも実行には至っていません。寝ているソウは悪戯心に敏感なようです」


「悪戯心?」


「何かしようとすると起きるのです。ただし起きた後にフラフラするので結局覚醒するまで時間が掛かってしまいます」


そういえば寝起きが異常に悪い日とかあったな。


寝ぼけながら色々な物を撫で回してた気がするがよく覚えていない。


「さすが神様ですね。反応するとは思いませんでした」


「ちなみに何しようと思ったんだ?」


「えっと・・・」


目を逸らすな。


「ま、瞼に目を書こうかと・・・」


それ完全に悪戯だな!起こす気ないな!


「サチ・・・」


「ち、違うのです!ちょっとした出来心だったのです!」


それからしばらく仕事場を逃げ回るサチを追い掛け回す事になった。




今日は予定がないので新しい料理に挑戦してみようと思う。


用意する主な食材はキノコだ。


こっちのキノコは何故か海産物の味がするものが多いのでそっち方向で何か作れないか考えていた。


とりあえず下準備としてキノコをみじん切りにする。


みじん切りにしたキノコは味別に分けて置いておく。


後は切ったキノコを今度はすり鉢に入れて、水を少しずつ加えながらひたすらすり身にする。


「ソウ、これ結構重労働ですよ」


「頑張れ」


「えぇー・・・」


今回はサチにもすり身作業をして貰っている。


苦手なキノコも細かく刻んでしまえば大丈夫だし、そこまで難しい作業でもない。


「こんな時ルミナテースがいれば」


叩いたり擦ったりしながらサチがぼやく。


確かにルミナの妙技、分子破砕斬があればキノコを粉状にして簡単にすり身が作れるだろう。


だが、違うんだサチ。


あえてこのすり鉢で不均一にすることで美味くなるんだ。


・・・美味くなるよな?


ちょっと自信ない。今度ルミナが居る時に比べてみるか。


しばらくすり鉢と格闘しているとネチネチと粘り気のある音になってくる。


よし、こんなもんだろう。


サチはどうだ?・・・まだそうだね。頑張れ。


ちなみにまだ数種類あるぞ。


そんな絶望的な顔するな。疲れたら俺がやるから。うん。




「腕が棒のようです」


「お疲れさん」


疲れたら休んでいいと言ったのに頑張ってくれたサチのおかげで色々な味のすり身が出来た。


後はこれを焼く、茹でる、蒸す、揚げる。


焼けばちくわ、茹でればつみれ、蒸せばかまぼこ、揚げれば揚げかまぼこになるはずだ。


とりあえず手早く作れるつみれから作ろう。


団子状にして茹でるだけだし。


茹で上がったのをちょっと味見。


・・・うん、前の世界で食べたつみれとちょっと違うけど、これはこれで美味い。というかかなり美味い。


「じー・・・」


「わかってるわかってる。そう急かすな」


自分にも食わせろと言わんばかりの圧をかけてくるサチに茹で上がったつみれを皿に置いて楊枝をさして渡す。


熱いから火傷しないようにな。


ハフハフ言わせながら試食するサチを横目に他の練り物料理を作る。


今回は伊達巻やはんぺんのような素材を追加して作る物がないから比較的すぐに作れるはずだ。


まずはかまぼこを作り、蒸してる間に揚げかまぼこを作り、サチに試食してもらってる間にちくわを焼く。


一気に作るとそれなりに時間と労力がかかるが頑張って作る。


え?もう試食分全部食べたの?早くない?


残りは後でな。


手伝うから早く?随分積極的だな。


じゃあこの残りをまとめて入れたキノコをすり身にしてくれる?


・・・渋い顔するな。こっちも頑張るから。頼むぞ。




うちの食事は偏る事が多い。


そもそも完全食があるから食事は趣味に分類され、栄養バランスや食べる順番といったものは意味を成さない。


そんなわけで俺が料理した日は大体同系統の物が食卓に並ぶ。


「練り物祭だな」


「今回は安心できます」


先程作った練り物の試食会兼夕飯が始まる。


サチが今回はと言ったが、他の試食会の時は結構な率で失敗作が含まれる。


試行錯誤してくうちに変なものが出来上がるんだよなぁ。


今回は伊達巻やはんぺんといった素材を追加して作る練り物は作らなかったのでたぶん大丈夫。


どれ、では試食。


・・・うっま。


さっきちょっとだけ試食したけどやっぱり美味い。


謎の高級感というべきか、口に含んで噛む度に風味が広がる感じがする。


考えてもみれば前の世界で蟹や海老だけで練り物作るとかかなり贅沢な気がする。


でもこれキノコなんだよな。


少しだけキノコ感は残っているが、キノコと言わなければ分からない程度にまで軽減されている。


「んー・・・」


「どうした?」


サチがちくわを箸でつまんで穴を覗き込んでる。


みっともないからあまり高く持ち上げないほうがいいぞ。こっちを覗き込むな。


「これは穴が開いた状態で完成なのですか?」


「作る過程でそうなったものだからな。それがどうかしたのか?」


「いえ、ちょっと勿体無いと思ったので」


ほう・・・。


席を立ちキッチンから果物ナイフを持ってきてサチに数種類の食材を空間収納から出して貰い、細く切って皿に置く。


「えっと、これは?」


「・・・」


「・・・あ!」


俺の視線が意図する事に気付いてサチは細く切った食材を手に取りちくわの穴に挿し込んでから食べる。


「ん!」


「どうだ?」


「食感が変わって美味しいです」


「そうか。じゃあそれはサチが作った料理だな」


「え?こんなのが料理になるのですか?」


「うん」


確かに今回作った練り物は料理だ。


しかしそこから何か手を加えられるのであれば同時に食材にもなる。


サチがやった事は立派な料理だと俺は思う。


自然とその発想に行き着いてくれた事がとても嬉しい。


次は何の食材を中に入れようか選ぶサチの様子を見ながら俺は次のかまぼこに箸を伸ばした。

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