先生と子供
今日は森の村が少し賑やかになっている。
どうやら草原の街から来ている先生が街から同世代の子達を連れて課外授業に来たようだ。
授業の内容は森の中で指定した薬草や素材を採取してくるというもの。
ただし向かうのは子供達のみで、先生が指定した人達で組んで向かわなくてはならない。
一見然程難しくない授業に思えるが、森には敵対生物もいる。
普段から森に入っている大人の村人であればそういった危険に対する知識や経験を持ち合わせているが、子供達だけとなると話は変わってくる。
しかも今回は村の子の他に草原の街の子もいる。
心配といえば心配ではあるが、これも必要な事なのだろう。様子見に徹しよう。
子供達の組み合わせはどの組も草原の街と森の村の子が混在しており、一組辺り四人から六人といった人数だ。
祭神役の女の子は四人で組んでいる。
森の村の三人に一人だけ草原の街の子が加わり、男女二人ずつという組み合わせか。
うーん、他の組もそうだがやはり最初のうちはお互い警戒した感じになるなぁ。
元々森の村は集落で外部との接触は少なかった。
最近村になり草原の街と交流は増えたものの、外を受け入れる心構えはまだまだだ。
草原の街側も見ず知らずの土地となればそれなりに警戒をしてしまうのが自然だ。
何かきっかけがあれば一気に打ち解けられると思うんだがなぁ。
・・・あ、この授業がそのきっかけなのか。
大人同士でやるより頭の柔らかい子供同士の方が受け入れ間口が広く、この先を担う存在だ。
上手くいけばこれを期に子供達同士で交流が出来、それがいずれ草原の街と森の村の交流に繋がる。
ふーむ、本当にそこまで考えられた授業なのだろうか。
その辺りも気にしつつ観察を続けてみよう。
夕方になり森に入っていった子供達は無事全員村に帰ってきた。
様子を見ていたが心配は途中でしなくなっていた。
普通に森に入って狩りをしていたと思っていた大人達全員が子供達に気付かれないようにサポートをしていたからだ。
迷った子供達には狩人を装い近付いて助言をし、順調に進む子達にはトラップを発動させて妨害したりしていた。
終わってから考えると授業というより村全体で行った一つのイベントだった。
そういえば子供達だけで森に入る際、大人達は止めたり反対したりしてなかった。
事前に先生達が村の人に話し、村人や冒険者にサポートをしてもらう事を頼んでいたんだな。
ポイントなのが冒険者だけにサポートを頼まなかったところ。
草原の街の人であれば冒険者ギルドに対しての信頼度はかなり高いので納得してもらえる。
しかし森の村ではまだまだ冒険者などの赤の他人に対して信頼しきれないところが残っている。
そこで村の人にも参加してもらう事で心配を払拭した。
前々から優秀な先生だと思ってはいたが、今回その最たるものを見せてもらった気がする。
子供達の組み合わせも良く、最初こそよそよそしかったが、終わる頃にはどの組も団結力や協力心が出来上がっていた。
下界の魔法の中には人の思ってる事が一時的に読める魔法なんてものもあるが、仮にそういうものがあっても理解出来なければ事は上手く進まない。
この先生達は人の心を理解するのに長けているのだろう。
違う立場であればもっと人を導く事も出来るのではないかと思えてしまうが、村全体で行われてるお疲れ会で大人子供に囲まれ楽しそうにしている様子を見ると先生が天職なのだろう。
これからも楽しく頑張って欲しいものだ。
「・・・」
仕事の片付けが終わった後今日の予定を確認していたサチがパネルを見て黙る。
「どうした?」
「アンがソウに相談事があるらしく、家に来てもいいかと聞いて来たのですがどうしますか?」
「今日は何か予定あるのか?」
「特にありませんが・・・」
「何か不都合でもあるのか?」
「アンの他にも数名来たいと言っていまして」
「あー・・・」
サチはあまり自分の家に人を上げたがらないからなぁ。大人数で来る事に抵抗があるのか。
「相談事の内容にもよるが、うち以外で相談しやすい場所というと農園か?」
「農園はルミナテースが盗み聞きするのでダメです」
最初から相談に参加してもらうという選択肢は無いのか。
「じゃあ情報館はどうだ?」
「情報館ですか・・・。案外良いかもしれませんね。アリスに連絡を入れてみます」
「よろしく頼む」
相談事か。
俺に答えられるような内容だといいのだが。
「ようこそいらっしゃいました」
情報館に着くとメイド達が一斉に迎えてくれる。
俺はもう慣れたが一緒に来たアン達は驚いている。
「お部屋のご用意できております。こちらへどうぞ」
アリスに続いてみんなで部屋に移動する。
後ろで子供達が緊張した様子で小声で話すのが聞こえる。
もっと気楽に話せる場を設けたつもりだったんだが、情報館のメイド達が想像以上に気合を入れて出迎えてくれたおかげで仰々しくなってしまった。
イベントでもない限りこんな大人数で来る事は少ないようだから仕方ないか。
子供達には良い経験だと言う事にしてもらおう。
「何か御座いましたらお申し付けください」
「わかった。ありがとう」
部屋の扉を開けてアリスは中に入らず入り口で待機してくれるようだ。ありがたい。
「さ、適当に座ってくれ。先生も座って」
「は、はい」
アンが連れてきた人にはアンの友達の他に学校の若い先生もいた。
軽く話を聞いた感じだと、この先生にアン達で質問したところ納得できる回答が得られず、ミラから皆で解決したらどうかと提案されたらしい。
それで皆で考えた結果、俺に相談してみようという話が持ち上がり今回の連絡になったようだ。
「本当に申し訳なく」
「いいからいいから」
まさか俺に直接聞くなんて事になるとは思っておらず、先生はさっきから常に申し訳なさそうにしている。
別に予定無かったしいいけど、果たして俺に答えられるかどうかがちょっと不安なんだよな。
ひとまず皆座って緊張が少し解れたところで話を聞くとしよう。
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