天機人の誇り
談話室に移動してからも助手君についての話が続いている。
「うーん・・・」
同席している助手君を見ながらエルマリエに加えサチまで唸るようになってしまった。
色々調べたが全て正常な状態という結果だった。
本人を前にしてこんな事話し合うのは失礼じゃないかと思うんだが、助手君本人が気にしないと言い、平然とお茶を飲んでいた。
二人がパネルとにらめっこしている間俺は二人の様子を見つつ目の端で助手君を観察していた。
所作は情報館のメイド達に似たピシッとした動きをしており、座ってる姿勢もまっすぐだ。
時々お茶を飲んだり用意したクッキーに手を伸ばすが、それ以外は机の上の一点を見つめて微動だにしない。
こちらから会話を試みてみたが、返答は簡素な内容を片言で返してくるだけだった。
サチとエルマリエは何やら専門的な話になってきているようで、エルマリエが天機人の事をあれこれサチに話している。
見た目や言動こそ子供っぽいが知識はやっぱり凄い子だと思う。
これで人望も備わったら最強なんじゃなかろうか。
「あの、ソウ様、どうかしましたか?」
「ソウ、無言でにやけるのは気持ち悪いです」
「失礼な。ただ単にエルマリエは偉いなって思ってただけなのに」
「え?ど、どういうことですか?」
「工場長やれる知識があって、職員の事を第一に考えて、今もどうにか良くできないか必死になってて偉いなって」
「そ、そうかな。・・・え、えへへ、何か照れる」
エルマリエが照れくさそうににへらと笑う。
「・・・?」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
今一瞬助手君の方から強い圧のようなものを感じた。
振り向いたが特に何も変化は無かったが、ふむ・・・。
「ソウ様は助手君の事どう見ますか?」
「どうって言われてもなぁ。仕事に支障は出てるのか?」
「いえ、そんな事はないです。むしろ効率はよくなりました」
「ほうほう。じゃあ能力はちゃんと備わっているんだな」
「うん。ボクは助かってるんだけど、職員達が不気味がっちゃってて」
「ふむ。助手君はその事どう思ってるんだ?」
「業務ニ支障ハ無イノデ問題アリマセン」
「そうなのか?」
「まぁ、うん・・・。元々ボクがあまり職員達と接触が無かったから」
「そうか」
確かに問題は無いようだ。
だが、今のエルマリエの様子はとても寂しそうだ。
以前のエルマリエだったらこんな風にはならず、本当に問題無く業務が続けられただろう。
しかし、今のエルマリエには問題は無くとも良くは無い。
さて、どうしたものか。
・・・む。
・・・ふむ。
「あのさ、ちょっと助手君と二人で話をさせてくれないかな?」
サチとエルマリエには部屋を退出してもらい、助手君と二人になる。
「さて、改めて自己紹介しておこう。神をやってるソウだ」
「存ジテオリマス」
「そうか。どのぐらい認知してるんだ?」
「各地デ活動ナサッテイル事ヤ、工場長ノ恩人トイウ事ナドデス」
「なるほど。情報館に俺が行った事があるっていうのは?」
「・・・初耳デス」
「そうか」
会話が途切れ、少しの沈黙の時間が出来る。
「で、なんでそんな演技してるんだ?」
「ッ!?」
体こそ動かなかったが目が大きく動いた。やっぱりか。
「情報館の天機人達も最初の頃は無機質な感じでな。そんな状況下で何人も名付けしなきゃならなくなって大変だったんだ」
「・・・」
「ただ、話したり細かく観察していると性格や感情ってのがちょっとだけ出るんだ」
「・・・不覚デス」
「話し方も普通でいいぞ。大変だろう」
「・・・わかりました」
「それが素の声か」
「はい・・・」
普通の声に戻ると先程までの堅そうな雰囲気は一気に無くなる。
「どうして調整前の天機人のような真似をしていたんだ?」
「・・・」
「何か理由があるんだろ?このままでは研究所に戻る事になるかもしれないぞ」
「っ!それは困ります」
「エルマリエは君の能力を買っている。出来れば協力したい」
「・・・わかりました。お話します」
ぽつぽつとだが、助手君がここに来る経緯を話し始めた。
研究所に要請があった事、自分が選ばれた事、工場の事を調べて勉強した事、工場に来て緊張でガチガチになってた事など。
「でも、私に名前は与えられませんでした」
基本的に天機人は所属が決まると名前を貰えることが多い。
情報館のような大人数が所属するところで無ければ大体の天機人は名前が付いている。
しかし助手君は助手君という愛称こそ貰えたが、正式な名前はまだ貰えていなかった。
「なるほど、名前を貰えなかったからいっそ調整前のように振舞ってやろうと」
「はい」
一種の意思表示だったのか。
そうなるとちゃんと名前を付けなかったエルマリエの配慮不足だな。
初めて直属の天機人が出来たから天機人が名前を貰う事に一種の誇りを持ってる事は普通気付かないか。
天機人という人種に対しての知識はあっても天機人という人に対しての知識はまだまだなんだな。
「わかった。なんとか名前を付けて貰えるよう言ってみよう」
「本当ですか?」
「うん。名前を付けてもらったらそれっぽくして普通に話すようにするといい」
「ありがとうございます」
「あぁ、でも名前を付けてもらったからってエルマリエ好き好きオーラを出しすぎないようにな」
「なっ!?」
驚くと同時に真っ赤になる。可愛いところもあるじゃないか。
話を聞いていてわかったが、あの強い視線やら圧は知らないエルマリエを見せた相手への嫉妬のようなものだったのだろう。
好きなのはいいことだが、迷惑かけては元も子もないんだから上手に振舞って欲しいところだ。
「どうでしたか?」
二人に部屋に戻ってもらうと心配そうにエルマリエが聞いてきた。
「うん、ちょっと助手君の情報一覧見せてくれる?」
「あ、はい」
パネルを開いて見せてくれる。
うん、やはり名前のところが空欄になっているな。
「彼女が無機質なのはここが埋まってないからじゃないのか?」
「え?名前?」
「情報館で俺も名前付けたが、付けた後から皆個性的になったぞ」
情報館の場合はアリスが総館長権限で個性を出す事に制限をしていただけだが。
「そうなのですか?そっか、ボクは助手君って呼び方気に入ってるんだけど、ソウ様が言うなら」
「うん」
「そうだなぁ・・・」
助手君の方を向いてじっと顔を見る。
心なしか助手君が緊張しているように見える。
「オクスティア!」
「オクスティア、デスカ?」
「うん。フィーリングでパッと浮かんだんだけど、どうかな?」
「オクスティア、デ名前登録ヲ行イマス・・・登録中・・・完了」
「どう?」
「登録完了しました。ありがとうございます、工場長」
「おぉ!!」
先程俺と話したときの声になり微笑むオクスティアを見てエルマリエが喜ぶ。
「ありがとう!ソウ様!」
「力になれたようでよかった」
俺の手柄のようになってしまったのが心苦しいが後ろでオクスティアが目で礼を言ってるのでこれでよかったのだろう。
「じゃあこれからはどう呼べばいいかな」
「お好きなように。今まで通り助手君でも構いませんし、オクスティアでもいいです」
「わかった。ボクの気分で呼ばせてもらう」
「はい」
これでちょっとは解決したかな。
この後職員達に説明したり関係改善をしたりしなくてはならない。
まだまだ大変だが頑張れ。応援してる。
帰り道、俺を抱えたサチの声が頭の上からする。
「よく気付きましたね」
「ん?まさか。本人から名前が欲しいって言われたんだよ」
「いえ、そちらではなく、彼女の機微についてです」
「あー。偶然ね。情報館で天機人達の名付けしておいてよかったよ」
「そういえばアリスからまた名付けして欲しいと要望が来ていましたよ」
「えぇ!?」
「頑張ってください」
そろそろ情報館の職員全員に名前が付くんじゃなかろうか。
ま、オクスティアみたいに喜んでくれるなら頑張って付けよう。うん。
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