火の精の休憩処
魔法剣。
こう呼ばれるものは幾つかに大きく分けて分類できる。
一つは武器そのものが魔法の力や属性を帯びた物だ。
これは下界でもかなり希少品で持っている人はまずいない。
持っているとしても補助武器もしくは宝剣などの装飾用で、戦闘で主戦力にならない物が大半だ。
竜人のところに六種の立派な武器が飾られているが見なかった事にする。
もう一つは魔法で作り出した武器の形をした物だ。
地や氷は作り出すとそのまま物理的な武器になるので武器が無い状況下で役に立ったりする。
それ以外の属性は物理的な効力は薄く、不定形なため常に出力し続けなくてはならず、実用さに欠ける。
統括竜達が自分の属性でそれぞれ武器を作り出してポーズを取ってるが気にしない事にする。
それ以外に魔法剣と呼ばれるのは魔法を付与する形だ。
エンチャントウェポンとかマジックウェポンとか呼ばれる方法で事前に付与する方法や打ち出された魔法を受け取って攻撃する方法などある。
しかしどの方法も武器への負担が大きく、武器の寿命を早めたり、壊してしまうので使われる機会は少ない。
魔法と親和性の高い金属で作った魔法剣用の武器を持っている魔法剣士も少なからずいるが、そういう武器は総じて物理的性能が落ちるので主要武器にはなってないようだ。
「魔法剣か。なんで魔法武器じゃなくて魔法剣なんだろう?」
「剣の形状が一番安定するようです。人によってはちゃんと武器の名称を変更している方もいるようですが、そもそもの魔法剣の使い手自体が少ないですから」
「そうか。まぁそうだよな、普通なら」
目の前に映っている画面を見ながら今見てる映像が珍しい状況だと自分に言い聞かせる。
画面には末裔夫婦が戦っている様子が映っている。
末裔の奥さんはヒーラーとはいえ回復魔法だけ使えるわけではなく、それ以外の魔法も使える。
ただ、本職の魔法使いと比べると大幅に性能は劣るので実戦ではあまり使われる事は無い。
しかし今その魔法が大きく役に立っている。
ヒーラーが放った魔法を末裔が木剣で受け取り敵に叩き込んでいる。魔法剣だ。
元々木剣で素早い攻撃が繰り出せてはいたものの、どうしても重い一撃を出すのが不得意だった。
そこでこのように魔法剣で威力は飛躍的に向上させ、ここぞという場面で強烈な一撃を放てるように編み出したようだ。
「うーん・・・」
「どうしました?」
「つくづく神の武器ってのは規格外だなと」
「一応その気になれば破壊する事も可能ですよ」
「いや、このままでいいよ。神力が勿体無いし、何より使えないと思って棄てずに特性を最大限生かす方法を見つけていく彼らの努力を無下にしてはいけないと思う」
「そうですね」
末裔の持つ木剣が魔法剣にも耐えうる事に気が付いたのは偶然だったかもしれないが、それを実用段階にまで昇華したのは紛れも無く彼らの研究と努力の成果だと思う。
まぁそれを悪用して世界のバランスを崩すような事になれば木剣の破壊も考えるが、彼らにそんな考えはないだろう。
戦闘が終わって笑顔でハイタッチしている様子を見ているとそんな風に思えてくる。
今日はサチと視察という名の浮遊島巡りだ。
所有者のいる島はその所有者が島の維持管理をするので何かあれば連絡が来るが、そうでない島は通りかかったりして異変に気付いた人が連絡を入れるしかない。
なので場合によっては島の状態が悪くなってから連絡が来る事もある。
島の召還と消滅を管理する立場からすると極力再召喚での神力の消費を抑えたいところなので、こうやって時間があると島を見て回るようにしている。
「ソウ、お茶が入りましたよ」
「おう、あんがとな」
というのが表向きな理由だ。
実際のところ警備隊をはじめとした人達が定期的にチェックしてくれているのでそんなに真面目に取り組む必要はなく、何かのついでで違和感に気付いたら対処する程度で大丈夫だったりする。
そんなわけで今日はサチとのんびり島巡りと洒落込んでいる。
誰もいない草原の島で岩に座りながらお茶を頂く。
なかなかに趣のある楽しみ方だと思う。
サチがパネルを開いてこの島の情報収集している間ちょっとした時間が出来る。
その間に俺とサチは島を歩いてまわったり、このようにお茶にして一服入れたりしてから次の島へ移動している。
「思ったより所有者なしの島ってあるよな」
「そうですね。島に何か特徴が無いと所有権を求める人は少ないです。別に島を持たなくとも誰かと共に住めば問題ありませんから」
「なるほど」
俺もその一人だしな。
俺の場合は所有権が発生するかどうかも怪しいが、基本一人一島な制度上気軽にというわけにもいかないのだろう。
「む・・・」
「どうした?」
「少し気になる数値が出ました。ちょっと見てきます」
「待って、俺も行く」
お茶休憩を切り上げて片付けて一緒に見に行く。
「この辺りですね」
パネルを見ながら気になる数値が出た場所に行くが一見何も無い。
しばらく左右を見回した後、サチは空間収納からメガネを取り出して掛け、改めて見回す。
すると何かに気付いたようで、再び空間収納に手を入れ今度は完全食を出して近くの倒木の上に置く。
「少し離れてみましょう」
「わかった」
言われたとおり少し離れて様子を見ていると、倒木からボッと火が出たと思ったら中から小さなトカゲのような生き物が出てくる。
「火の精の子供です」
「あれが火の精か。初めて見た」
「こんなところに普通は居ないはずなのですが・・・」
火の精の子供は完全食を咥えると辺りを見回して倒木の中に吸い込まれるように入っていった。
「木の中に住んでるのか」
「恐らく一時的に居を構えているのではないかと」
「一時的?」
「精霊の生態についての情報がまだまだ少ないので推測の範囲ですが、島を移動する力を蓄えているのではないでしょうか」
「ふむ。つまりあの子は自分が定住する島探し中ってことか」
「えぇ。現在は完全食を食べているためか停止していますが、先程までマナを集めていましたから」
「そんな事もわかるのか」
「このメガネのおかげでマナの流れや見えない念を可視化する事ができます」
「おぉ。俺がそれ掛けても見えるのか?」
「パネルと同じでこれも認証式のマナ消費タイプなのでソウがかけてもただのメガネにしかならないかと」
「そうか、残念」
消費式は困るからなぁ。
「あ、でも確か・・・」
そう言って空間収納に手を入れて何かを探っている。
「ありました。これならソウでも見られると思います」
取り出したのはサチの使っているのと形が違い、丸いレンズのメガネだった。
「試作品で精度調整が出来なかったりしますが、誰でも可視化できると思います」
「おぉ!貸してくれ!」
「あ、はい、どうぞ」
サチが俺のテンションの上がり具合に一瞬ためらうような仕草を見せたが、驚かせてしまったかな。
まぁいいや、装着。
「お、おぉ・・・」
メガネ越しに見える風景はいつも見ているものとうってかわり、風が吹くとところどころに緑の線が一緒に流れたり、地面に黄色の脈のような物が見えるようになった。
「これがマナの流れか」
先程火の精が居た倒木を見るとそこだけぼんやり赤く光っている。
確かにこの島には他に赤くなっている場所は無いな。
「なぁサチ・・・サチ?」
気が付いたらサチがうずくまって震えている。
「どうした?大丈夫か?」
「ちょっ、こっち見ないでくださいっ、ぶふっ」
顔を覗き込んだら押し退けられた。なんだ?
「こ、これで自分の顔を見てみて下さいっ」
笑うのを堪えながらサチが手鏡を渡してきた。どれどれ。
「あー・・・」
鏡に写ったのは見事な瓶底メガネをした自分の顔だった。
どうやらこれがサチのツボに入ったらしい。そんなに可笑しいか?
「なぁ、そんなに変か?変かー?」
「ちょ、ちょっと、いちいち顔を見せてこないでくださいっ」
途中からちょっと面白くなってきたのでしばらくサチをメガネ姿のまま追い回した。
「それで、何が聞きたかったのですか?」
結局色々見る前にサチにメガネを取り上げられてしまった。無念。
「火の精がここにいるってどうしてわかったんだ?あのメガネじゃぼんやり赤く光って見えるだけで火の精とまではわからなかったんだが」
「確かにあのメガネだけでは火の精の存在までは特定するのは難しいかもしれません」
掛けてるメガネをクイッとして説明モードに入る。
「しかしそれ以外の要素を考慮すると火の精の存在の可能性を見出す事は出来ます」
サチが言うにはまず島全体のマナ状態を調べている時に火の値だけ前回と比べて高くなっていた点に気付いた。
次に詳細を調べると特定の範囲で局地的に火の値が高く、逆に他のマナ値が減少気味だった。
そこで足を運んでみてメガネを掛けてみると、俺と同じように赤くぼんやりした光と僅かながら他からマナを吸引していた様子が見れた。
「あとはこれまで砂の島などで火の精が居そうな場所を視て来た経験ですね」
「なるほどー」
「火の精は警戒心が強いのでなかなか姿を見る事はできないので運が良かったと思います」
「俺も初めて見れてよかったよ」
サチが完全食を置いてから周囲からマナを集める事も止めたみたいだし、近々移動するだろう。
「がんばれよー」
そう言って俺とサチは島を離れ、次の島へ向かう。
島を離れる瞬間、倒木からポッポッと小さな火が見えた。
ふふ、またどこかで会えたらいいな。
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