風呂場で料理

和人族の城下町の港に動物神達とその関係者が集まっている。


珍しいな、こんなに一斉に会する事は滅多にない。


そのまま様子を見てると集まった一行は船に乗り、竜の島に向かう。


久しぶりに竜の島が視野範囲に入るな。竜園地以来か。


動物神達が到着すると人の姿の統括竜達に迎えられ、そのまま宿らしき場所へ移動した。


宿に到着すると何やら会議をして食事、宿泊、翌朝再び会議をして一部の動物神は島に残り、残りは城下町に帰って行った。


ふーむ、なんだろう。


様子を見るに統括竜達と交流というだけではなさそうだ。


引き続き見ていると城下町に戻った動物神達が今度は職人を引き連れて島にやってきた。


島に来た職人達は早速作業に入り、竜の島の入り口から神社のある山まで次々簡易的な建物を建てて行った。


それを見て大体何が行われるかわかった。


更に数日後、今度は大勢の人が城下町の港に集まり次々に船に乗り竜の島へ向かう。


この日から数日間竜の島で縁日が行われるみたいだ。


山の神社まで屋台が並び、神社では巫女の姿になった統括竜と神主姿の竜人が参拝客に何やら配っている。


何配ってるんだろう?お札とかお守りとかか?


・・・違った。統括竜や動物神を模したブロマイドだアレ。


無料で配布しているのは判子で作った簡易的なもの。


有料で配布しているのはもう少し手の込んだ色鮮やかなものだ。


男性の多くは女性の姿の統括竜のものを、その他女性子供の多くは可愛い動物神のものを貰って行ってる。


ちなみに竜人のは無いらしい。統括竜達の独占欲を感じる。


うーん、神聖な催しかと思ったけどそうでもないみたいだな。


縁日風のイベントと言った方が正しい気がする。ブロマイドは山登りの参加賞といった感じだし。


でもこれはこれで面白いと思う。


何より参加している人達が楽しそうだ。


滅多に会えないドラゴンとも身近に触れ合えるし良いと思う。


初めてドラゴンを見る子供が泣き出すとドラゴンの方がオロオロするのが見ていて微笑ましい。


この前竜園地開催の際に妨害者として戦ってたドラゴンとは思えないな。


また竜の島が見れるようになったし、視野範囲が消えるまでのしばらくの間観察させてもらうとしよう。




今日は雨なので家に直帰する事になった。


雨の日は風呂場に行く事が多いが今日はその風呂場でちょっとした実験的な料理をする事にした。


一つは卵の実を火の精霊石の近くに籠に入れて温泉卵みたいなものが作れないかどうかの実験。


こっちは放置しておけば勝手に出来ると思うのでそこまで難しく無いと思ってる。


メインはもう一つの方で、椅子に素材と道具を並べて置いてある。


結構な量の砂糖とさっき急ごしらえで作った蓋付きの竹の筒、それに割った後使い道に困っていた割り箸。


たぶんこれで何とかなると思う。・・・はず。


うーん、いきなり本番に行くのはちょっと不安が残る。


ちょっと水で試してみてからにするか。


竹の筒に水を入れて蓋をする。


「じゃあサチ、頼む」


「わかりました。空中で高速回転させればいいのですね?」


「うん。よろしく」


サチに頼むと竹筒がフワッと浮いて横回転を始める。


なかなかに高度な念だが風呂場だと雨も気にならず集中できるようだ。


回転が速くなると筒の上部側面に細かく開けた小さい穴から水が出てきて飛び散る。


よしよし。


筒の周りや体がびしょ濡れになってしまってるが、そのための風呂場だ。


水で濡れたサチのバスタオルが体に吸い付いて妙に艶かしく見えるけど今は我慢。


「水が出なくなったら止めてくれ」


「わかりました」


水が出なくなり止めてもらって蓋を開ける。


んん?思ったより水が残ってる気がする。


あ、そうか、こっちの竹は六角形だから円形より均等に出ないのか。ちょっと穴の場所を増やそう。


これでどうだ?・・・うん、さっきより良くなったな。こんなもんか。


「よし、じゃあ本番いこうか」


筒の中に砂糖を入れて念で暖めて液状にしてもらい、その後同じように高速回転させる。


後はこの割り箸で・・・あれ?


「ソウ、これはどういう事ですか?」


体中砂糖水まみれでベタベタになったサチが不機嫌そうな顔して訴えてくる。


「違うんだサチ、本当はこう糸状の物が出てくるはずだったんだ」


「本当ですか?また変な事考えているのではないのですか?」


「馬鹿言え。やるならもっとちゃんとやる」


「え、あ、はい」


やるなら今作ってる物が出来てからやる。うむ。


しかし何で糸状にならなかったんだ?


外に出た瞬間に・・・あ、そうか。


今度はサチに円形の氷の壁を作ってもらい、そこで筒を回転してもらう事にした。


正直ちょっと寒い。


サチは冷気の来ないところまで避難してから念を使う事にしたようだ。賢明だな。


「それじゃ頼む」


筒が回転を始めると中から糸が出てきた。


よし!来た!


それを割り箸を回転しながら絡め取っていく。


いいぞいいぞ、いい感じだ。


筒から糸が出なくなったところで回転が止まる。


「ソウ!何ですかそれ!?」


念を止めたサチが興奮気味に駆け寄ってくる。


「はい、念を頑張ってくれたご褒美だ。食べていいぞ」


「え、これ食べ物なのですか?」


「砂糖で作ったから食べ物だよ。綿飴って言うんだ」


「綿飴・・・い、いただきます」


千切って取らずに豪快にかぶりつくサチ。いいねぇ。


「ふぉぉ・・・」


「どうだ?」


「不思議な食べ物ですね。雲を食べている気分です」


「今日下界で縁日見てて何となく思い出して作ってみた。色々手間取ってしまったがな」


「そうだったのですね」


サチが持ってる綿飴を少し千切って食べる。うん、甘い。


砂糖に果汁粉末を加えてみたら色や味に変化が出るかもしれないな。


「しかしこれはあれですね」


「ん?」


「結局ベタベタになるのですね」


「ははは、確かに」


綿飴を食べると手や口の周りがどうしてもそうなるな。


食べ終えた後、体を綺麗にしてサチと風呂でベタベタした。

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