造島師と竹の伐採
水というのは生き物が生きる上で必要不可欠なものだ。
下界を観察しているとその水の得方というのが色々あって面白い。
人間種の多い地域では街が水を管理し、飲み水と生活用水と分けて扱っている。
一方亜人種の多い地域では個人で水をろ過して煮沸して飲んだり、魔法で出したのを飲料水として販売したりしている。
この辺りの差は人種や行政の差だと思う。
中央都市だけ別次元でここだけ大々的な浄水施設がある。
いや、もう一箇所あったな。
今は視野範囲外で現状での確認は出来ないが、湖畔の街を一度見たときの記録にそういう水を浄化する設備があった。
それ以外の街はお掃除スライムを利用した簡易的な上下水設備がある程度だ。
こうやって見ると下界は魔法があるからそれでどうとでもなるという感じがあるがそうでは無いのがわかる。
もし水の供給を全て魔法に頼っていたらどうなってたか。
まず魔法使いの扱いが変わっていただろう。
今のような冒険者の一人のような扱いではなく、重要人物として権力者になったり、逆に人として扱われなくなったりと少なくとも一般人として見られなくなってただろう。
それに何かで魔法が使えない事になった時、一気に街の機能が停止する。
今のような浄化の方法も確立されてないから疫病なども起きて酷い状態になるだろう。
そう考えると今のように設備を作った上で更に魔法で補うという今の状態がいいのか。なるほどなー。
現在主な水の供給方法は川などの自然からの引水、井戸からの汲み水、それ加えて魔法による生成水となっているが、それ以外にも少数ながら別の方法もある。
例えば魔法の水差しというアイテムがあり、水差しを傾けるだけで給水なしで水が出続けるというもの。
構造はうちにある精霊石付きジョウロみたいな感じの魔導具の一種だ。
主に使われているのは中央都市の貴族の屋敷や都市内の給水所など。
それ以外だと街の教会や神殿などで神聖なアイテムとして扱われている。
うちのジョウロとの違いは精霊石ではなく魔吸石と呼ばれるマナを溜め込む石が使われているところ。
これを取り替える事で水を生成する機関が常に稼動するようになっている。
詳しい事は構造分析しないとわからないが、とりあえず魔科学は凄いというのはわかる。
こういった規模は小さいものの変わった方法で水を得る術が各地にあって見ていて楽しい。
中には使い方次第で危険なものもあるが、そこはこちらで把握しておけばいいだろう。
ま、下界の人達なら大丈夫だと思うけどな。
今日は造島師の浮遊島作りに参加させてもらっている。
「これ切ればいいのか?」
「はい。怪我に気をつけてください」
「あいよー」
鉈を持って横に薙ぐとスパッと綺麗に竹が切れる。
上で指示をくれた天使が切った竹を持っててくれているので倒れないのが安全でいい。ありがたい。
今回の主な作業内容は浮遊島の竹の伐採除去だ。
島全体に蔓延ってしまった竹を切り、地下茎を抜いて島を綺麗にする。
今日はそれがちゃんと出来るかどうかの実証実験をするとのことで、一応竹に詳しいという事になってる俺も参加する事なった。
別のそこまで詳しいって程ではないんだが、造島師達と会う機会があるなら顔を出すだけでも大事かなと思う。
それに今回の面子はほとんどが会った事無い人達だ。
会った事のある人物はというと・・・。
「おうりゃ!」
少し離れたところで大きな音を立てて土から竹の根となっている地下茎が地上に飛び出る。
「オヤジ!もう少し大人しくやれっつっただろ!」
「うるせぇ!力が入っちまうんだよ!」
造島師からオヤジと呼ばれた人物が今回俺達を招待したアズヨシフだ。
どうやら仲間からはオヤジと呼ばれているらしい。
アズヨシフは伐採済みの竹の地下茎を引き抜いて整備する作業の担当と指揮をしている。
「すみません、オヤジの奴ソウ様が来られてるので張り切ってまして」
「ははは、彼らしくていいじゃないか」
アズヨシフもヨルハネキシと同じく造島師達を取りまとめる立場にある。
だが同じ造島師でも全く違う毛色をした集まりで見ていて楽しい。
ヨルハネキシのところでは天使と天機人がそれぞれ役割を持って動いていたが、こっちはやれる人がやるスタイルだ。
なので細かい作業をする天機人がいたり、アズヨシフのように力仕事をする天使がいる。
「こちらで合わせますのでどんどん切ってください」
「わかった」
今補助してもらってる天使もそうだが、ここの造島師達は適応能力が高い。
相手の能力を見定め、その上で自分のやれる事を見つけるのが上手い。
「切った竹はオヤジが作った空き地に集めてくれ!」
「そこ!サチナリア様のウィンドカッターが飛ぶから離れろ!」
「オヤジは少し落ち着け!」
その分こんな感じで常に言葉が飛び交ってる。
言葉は粗いが賑やかで作業していて楽しい気分になる。
よし、それじゃ俺も竹切りに集中するかな。
一通り刈り終えてサチと休憩中。
造島師達はまだ作業しているが、邪魔になってしまうので一足先に休ませてもらっている。
「ソウは節の下を切っていたのですね」
一緒に休憩しているサチが俺が担当し、現在造島師達が作業している場所を見ながら言う。
サチが担当した場所は切った後の竹の高さが一定だったのに対し、俺の方はデコボコになっていて見てくれが悪くなってしまった。
「ん?あぁ、目印になって丁度良かったからな」
切った跡地の見た目は酷いが、切り出した竹はどれも根元が節から始まるのでささくれになり難くて扱いやすくなってるはずだ。
「私もそうした方が良かったでしょうか」
「切る際特に何も言われなかったし、サチが早く切り終えてくれたおかげで皆の手が空かなくて済んだからいいんじゃないか?」
「そうですか」
いくら切れ味の良い鉈を持っていたとしても俺は一本一本切ってたのでそれなりに時間が掛かってしまった。
一方サチは念のウィンドカッターで一気に切る方法を取っていたのでとても早く終わっていた。
造島師達が複数の竹を一定の高さでロープで囲い、サチが根元にウィンドカッターを放った直後にロープを引いて一気にまとめる様子は凄かった。
なんでもロープの範囲内の竹だけを切るというのは高度なテクニックらしく、ただ単に高出力で横に薙ぐように放てばいいものではないらしい。
俺を補佐してた造島師が興奮気味に説明してくれたが、飛ばした風がそれぞれの竹にまとわりついて切る方法だとか。
さすがうちの補佐官様だな。
おかげで俺は時間を気にせず竹を切る事に集中できた。
「おし、一旦休憩だ。この後二次伐採に入るから準備しとけ」
「了解!」
アズヨシフ達も休憩に入るようだ。
二次伐採という単語が出てたがどういうことなんだろう。
既に島全体の竹は無くなり一面掘り返された土だけの島に見えるが。
うーん、ここで質問してしまうとそこまでこっちの竹に詳しくない事がばれてしまい、サチがまた渋い顔しそうなんだよなぁ。
しょうがない、実際の作業を見るしかなさそうだ。
休憩を終えた造島師達は島全体に満遍なく水を撒き、地面がしっとりした色になった。
次に数人で日の光を遮り、島を薄暗くした後、サチが冷風を送ると島に変化が起きた。
島のあちこちから筍が生え、瞬く間に伸びて先程切った竹の半分ぐらいの長さまで成長した。
まるで羽綿草のような成長の早さだ。
こっちの植物は一定条件下になると急成長するのだろうか。後で聞いてみるか。
「ったくまだこんだけ残ってやがったのか」
「土に残ってた地下茎が成長したのか?」
「えぇそうです。全く、我々泣かせの植物ですわ」
頭をガリガリ掻きながらアズヨシフが溜息を付く。
普通の植物なら急成長しても上にしか伸びないが、竹の場合地下茎で横に伸びてしまうのが厄介なところだ。
「おし、お前ら!めげずに引っこ抜くぞ!」
まるで下界の拳闘家のような動きをして気合を入れて作業に戻っていく。
竹の長さは細く短くなったので除去する手間は先程よりはマシになったが、これでは三次四次と何度も同じ作業を繰り返すことになる。
うーん、何かいい方法ないだろうか・・・。
丁度俺は手が空いてるし、この間に考えてみるか。
二次伐採が終わったところでアズヨシフに声を掛ける。
「おつかれさん。三次始める前にちょっとやって欲しいことがあるんだが」
「お、なんでしょうか?」
アズヨシフに考えた案を説明する。
「なるほど。早速やってみましょう」
造島師達を集めて指示をすると意図を理解した造島師は加工と配置を手際よく進める。
「こんな感じでいいですか?」
「うん」
島は先程と同じの土だけの状態に加え、網目状に鉄板が縦に突き刺さった状態になっている。
これで竹が横に伸びるのを防ぎ、生えたブロックだけ潰していけば効率的に除去できるのではないだろうか。
再び成長を促す作業に移る。
サチが冷風を送るとギギッと金属がきしむ音がして、竹が生える。
結構力あるんだな・・・観光島も同じように仕切って貰ってるが大丈夫だろうか。
少し不安に思ったところで成長が止まる。
「どうだ?」
「バッチリだぜオヤジ!」
「おぉ!やりましたなソウ様!」
造島師達が早速竹の生えたところのブロックに駆け寄り撤去に入る。
仕切ったところを念入りに除去すれば完全に取り除く事ができるだろう。
「ちょっとは貢献できたようでよかった」
「何を言いますか!名案でしたよ!」
そんな持ち上げられると照れる。
最初竹を島から除去する話を聞いたとき、除草剤や念を使って枯らす方法もあるのではないかと考えた。
だが、アズヨシフ達はそんな事はせず、撤去するならするで最大限竹を素材として有効活用できるよう考えていた。
恐らくこれまで造島師達が竹のある島に手をつけなかったのはこの極力無駄にしないという共通認識を持っていたからではないだろうか。
確かに効率を求めるのはいいことだが、効率だけを求めない考え方か。
長く生きる天界の人達ならではの思考なのかもしれないな。いいと思う。
「よっしゃ!次で生えなかったら竹を完全制覇したことになるぞ!気合入れろお前ら!」
「おう!」
・・・考えすぎか?
単に竹の生態に正面から挑みたいってだけじゃないよな?
いや、プラスに解釈しておいて悪い事はない。
うん。そういうことにしておこう。
帰宅していつもの風呂の時間。
「ふー・・・今日の疲れが取れる」
「そこまで動いていないと思うのですが」
「言うな。あれだ、雰囲気に呑まれてたから気分的な部分だ」
「確かに竹に詳しいと思われていましたからね」
「ほう・・・。つまりサチ君はアズヨシフに俺が竹に詳しいと誇張して伝えた人物がいると考えるんだな?」
サチがビクッとして水面に波が立つ。
「な、何のことでしょうか」
「どうして詳しいと思われていたことまで把握してるのかな?」
「そ、それは・・・」
「三、二、一、ブー。はい、お仕置きの時間でーす」
「え!?あっちょっと!?まって、まってください!説明!ちゃんと説明しますから!」
「ダメでーす」
説明は後で聞く。
とりあえず湯に浮かんでる胸をしこたま弄り倒す刑だ。
「ひ・・・酷い目に遭いました・・・」
「良かっただろう」
「えぇ、まぁ・・・」
満更でもないのを正直に言うところがサチのいいところだと思う。
「それでどうして竹の話をしたんだ?」
「最近観光島の竹林に足を運んでいる造島師がいるという話を耳にしまして」
「それがアズヨシフだったと?」
「はい。ですので竹の事ならソウが詳しいとつい・・・」
「詳しいと言っても俺の知ってる竹はあんな急成長しないぞ」
「その辺りはソウなら何とかなるかと思っていましたので」
「信用されてるなー。驚きを隠すので大変だったんだからな」
「恐らくそれに気付いていたのは私だけなので大丈夫です。質問しなかったのも良い振る舞いでした」
「本当はサチに聞きたかったんだけどな。近くにいなかったから」
「念で冷気を送る担当を任されていましたので」
「まぁいいさ。おかげでこっちの竹の生態も知れたし、ちょっとやってみたい事も出来たし」
「そういえば帰り際何か即席で作ってもらっていましたね」
「うん。今度時間ある時に実験するから手伝ってくれ」
「わかりました」
その実験が上手く行けば料理作りに役立つはずだ。
成功するといいなぁ。
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