念で工作
進化というのは様々な方向に向かってするというのを下界を眺めていると感じる。
例えば自分に対しての利害に合わせて進化する場合がある。
植物であれば利のある生き物を呼び寄せるために花の色や形、香りを変えたりする。
虫や魚であれば自分が狙われ難くするために生理的に受け付け難い見た目になったり、有毒な物質を体内で作り出したりする。
ただ、そういったものは生まれた直後というのはなかなか持ち合わせていない事が多い。
なのでどうやって子供のうちに安全に生き延びるかが生き物の課題なっている。
その中の一つの方法として攻撃心を失せさせるという方法がある。
今俺の画面に映っているのがそれだ。
画面には路地裏で生まれた仔猫の映像が表示されている。
他にも別の場所で産まれた仔犬の映像が流れている。
うん、どれも可愛い。
この可愛いと思う感性を刺激する事で敵対心や攻撃心を無くさせ、同時に保護して貰い身の安全を確保する。
ある意味これも進化の過程で得たものだと思う。
ただ、やっぱりこういうのを見ていて思うのが会合で二神のお供として来た犬猫達と触れ合った時と比べて感情の振れ幅が少ない事だ。
逆におぞましい姿をした生き物など前の世界で見たらぞわっとするようなものでも割と平気だったりする。
やはりこの辺りも神としての補正が掛かっているのだと思う。
この前みたいにそういう補正とは別の方向で心に来るものがあると揺さぶられてしまうが、基本的には冷静に観察していられる。
冷静、冷静だと思う、うん・・・可愛いなぁやっぱり。
補正が掛かっていてもこの感情なのだから恐るべき進化だと思う。
実際にはこれに鳴き声とかの音も追加されるんだよな・・・あー恐ろしい恐ろしい。
「あの、ソウ」
「なんだ?」
「今日はその、何を観察しているのですか?」
「ん?下界の生き物の進化についてかな」
「え?あ、そうなのですか、なるほど・・・」
「どうした?」
「いえ、その、そちらの画面がとても凄い事になっているなと思ったので」
「あー・・・」
確かに今の画面状態を見ると可愛い映像だらけになっているな。
傍から見たらサボってるように見られてもしょうがない。
「すまん、消そう」
「い、いえ!そのまま続けて下さって結構です!」
「お、おう、そうか。・・・なんだ?」
サチがまだ何か言いたそうにしている。
「その、資料として映像を保存しておきたいのですが・・・」
なるほど、そういうことか。
「ははは、わかった。許可しよう」
「ありがとうございます!」
服装データの他にも可愛いものデータが充実しそうだなこれは。
今日は久しぶりに念の練習をすることになった。
たまには念をちゃんと発動するまでやった方がいいとサチに言われたので、どの程度精密な事が出来るか実験も兼ねて工作しながら念を使うことにした。
「ではこちらで消費神力を測定します」
「よろしくー」
サチには消費量や傾向などを調べてもらい、今後の参考に使ってもらおうと思う。
「よし、それじゃ始めよう」
発動はせずとも接続の練習は日頃からしているので念を使う手前までは直ぐに出来る。
ここからやりたい事とそれが可能かどうかのチェックが入る。
今回は丸太の切断だ。
人差し指を置いた部分から縦に直線に切れるよう念ずる。
うん、可能なようだ。
そのまま頭でシミュレーションした通りに丸太に人差し指を置くと、キンッと甲高い音が一瞬して丸太に切れ目が入る。
「うん、問題なく発動したな」
「神力消費ごく微量です」
「ふむ。切断面があまり綺麗じゃないな。この辺りも気にして念じてみるか」
同じ手順で念を使う準備をして今度は切断面の想像、ヤスリがけした後のようなつるりとした感触も想像しながら一直線に切ってみる。
「消費増加しました。前回の五倍ほどです」
「五倍?そんな増えるのか?」
「妥当な数値だと思います。造島師の人達もマナの消費に見合わないので最適化出来ている人しか使わないようです」
「なるほど・・・」
以前ヨルハネキシがやっていたから真似してみたが、こういう部分で熟練の差が出てくるのか。
やれない事はないが、消費が見合わないから使わずに工程を増やして作業していたんだな。
今度は切った木板を更に加工する。
完成した物を想像しながら念を使おうとしたら今度は不可能になった。
「ぬ・・・」
「どうしました?」
「いや、ちょっと横着しすぎたようだ」
「念は一度に複数の作業を実行できませんよ。消費を増やして精度を高める事はできますが」
「ふむふむ」
どうやら同じ切る作業でも切り離す作業と切れ込みを入れる作業では別になるようだ。
じゃあまず木板を一定の幅の棒状に切ってしまおう。
棒状にしたら九割ぐらいまで真ん中に切れ込みを入れる。
切れ込みを入れた方の先が次第に細くなるように削る。
最後に指先をヤスリみたいにして撫でて表面の手触りを良くする。
「よし、出来た」
「何ですか?それ」
「これはこうするとだな」
切れ込みのある方の先を持って横に引っ張るとパキッといい音と共に二本の棒になる。
「こうやって持てばわかるだろう」
「お箸ですか?」
「うん。割り箸って言う使い捨ての箸だ」
「え?これを使い捨てするのですか?」
「うん。うちで使ってる箸は汚れが付き難いようコーティングしてもらってあるだろ?これはしてないから使うと直ぐに汚れてしまうんだ」
「確かに今の状態ですと液体が染み込んでしまいますが、それで捨ててしまうのは勿体無くないですか?」
「勿体無いな。俺もそう思う」
「ではどうしてこのような物が?」
「利便性の追求の一つの結果だろうなぁ」
こっちには念と空間収納があるから常に箸を綺麗な状態を維持できるが、下界や前の世界では持ち運んだり洗ったりする必要がある。
その手間を無くした上で衛生を考えた結果がこの割り箸だと思う。
「うーん・・・」
サチにはちょっと理解が難しそうだ。
試しに作ってはみたものの、サチの反応からしてこっちの世界には不要な物なんだろうな。
まぁ念と空間収納と完全食がある時点で前の世界の大半の物が不要になってる世界だから今更なんだが。
「ソウ、すみませんがもう一回割り箸を作ってもらえませんか?」
「ん?いいぞ」
今度は念の作業精度を落として工程数を増やして作ってみる。
最終的な出来栄えは同じだが総神力消費は少なくなった。よしよし。
「出来たがどうするんだ?」
「私もちょっと割ってみたくて・・・」
「あー・・・」
わかる。
割り箸を割る瞬間、何ともいえない快感がある。
特に綺麗に割れた時は嬉しいんだよな。
「あっ・・・」
失敗したようだ。
ふふふ、それも誰もが通る道だ。
結局最初に切り出した木板は全部割り箸になってしまった。
この割った後の箸どうするか考えなくては・・・うーん・・・。
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