交流会のメインイベント

会場の賑わいも落ち着いてきたところでワカバとモミジが場を仕切る。


「それでは本日のメインイベントを開催します!」


「します」


長机が用意され、その上には見たこと無い食材が並ぶ。


「こちらの食材は研究士さん達が見つけてきた食べられそうな食材になります」


「食べられ、そう」


「参加者の方にはこちらでくじ引きをしてもらい、味見をしていただきたいと思います。尚、任意参加で自己責任でお願いします」


「未保障」


・・・これ、あれか、俺がここに来た時にやった味見だな。サチが笑い転げ回ったアレだ。


サチを見るとにやりと悪い笑みを返してきたあたりこの事を知った上で俺を連れてきたな。悪い子だ。


俺の時は一応農園の子達が先に味を知っていた作物だったから俺が驚くだけで済んだが、今回は誰も知らないんだよな。


この前俺がやった生でキノコ食うみたいな事するわけだろ?大丈夫なのか?この企画。


ルミナは嬉々として参加表明してるけど、お前はダメだ、まだ反省してなさい。


ヘリーゼも出るのか。大丈夫か?明らかに大丈夫そうな顔してないけど。


待て待て待て、男四人が手挙げてる。ちがう、頑張るはそういう方向じゃないから無理するな。


「面白そうだの。我も出よう」


俺の隣のドリスまで参加するのか。どうなっても知らんぞ?


「ソウ殿も出るだろう?」


えっ・・・。


ドリスの言葉に一斉に視線がこっちに来る。


期待に満ちた視線・・・正直辛い。


サチ、お前一人だけ笑いを堪える顔しやがって。後で覚えてろよ。


はぁ・・・しょうがないなぁ。


「じゃあ俺もやろう」


くじで当たらなければいいことだし大丈夫だろう。




「あーーーーーーー!!」


悲鳴と同時に会場に笑いが沸く。


くじでアタリを引いた人が食べた物が不味かったらしい。


今のところ九割方食べた人が絶叫してるんだよな。本当に大丈夫か?この企画。


ルールは簡単でくじで当たった人が目の前にある食材から一つ選んで食べるだけ。


食べ方は生でもいいし、焼いたりして調理しても良し。


食べきればセーフ、食べきれなければアウトの脱落式。


食材が無くなるか一人になるまでやったら終了となっている。


「おっとー!焼いたら食べられるようです!涙目になりながらも食べきりました!」


「やりよる」


先ほど叫んだ子が何とか食べきりセーフになったようだ。


大丈夫か?あのな、いきなり大口で食うのは自殺行為だと思うぞ?


見てるとどうも一口目から一気に頬張る人が多い。


特に食材研究士は必ずそうやって食べる。


今まで出された物がどれも安全で美味しいものだったからなのか警戒せずに口にしてしまうようだ。


いくら念があってどうにかなるからってもう少し警戒して欲しい。


あぁ、今回はそういう事も視野に入れた企画なのか。なるほど。


「む、次は我か」


今度はドリスが食べる番のようだ。


「ふむ。ではこれにしようかの」


手に取ったのはキノコだった。あ、それ俺知ってる。生は辛いぞ。


少し千切って口にして即座に手を加えた。手際がいい。


「これはあれだ、なんといったか、ホタテを金属の中に密閉した奴の味がする」


「缶詰?」


「おぉ、それだ!さすがソウ殿。博識だな」


そう言われて俺の中で引っかかってた事が解決する。


どうも色の変わるキノコの海鮮味に違和感があると思ってたが、生の海鮮の味ではなく加工済の味と言われて気付いた。


蟹っぽい味だとは思ってたが、そうか、あれはカニ缶の味だ。


今度はそれを考慮して調理してみるか。


調理方法を考えていたら俺がクジを引く番になった。


さっきから何度か引いてるが今のところ全てハズレを引いている。


ふふ、このまま全部ハズレ引き続けるんじゃないかな?


「ここでソウ様アタリです!」


・・・。


チクショウ。




「食材が無くなりましたのでこれにて終了となります!残った方々に改めて盛大な拍手をお願いします!」


残った三人に拍手が送られる。


見事この危険な企画を生き残ったのはドリスと農園の子と食材研究士の男子の一人。


俺は・・・まぁ、その、なんだ、早々に棄権した。


どんな調理方法を試しても不味いのはあんまりじゃないか?


苦い、渋い、酸っぱいの三連リアクションで会場が沸いたみたいだが俺はそれどころじゃなかったのでよく覚えてない。


はぁ、やれやれ、酷い目に遭った。


それはそうとドリスが思ってた以上に味覚が強いということがわかった。


俺の知らない食材の名前に例えて言う事もあったし、前の世界で相当様々なものを食べてきたのだろう。


ただ今はまだそれを理解できる人は少ないが、料理文化が広まれば知名度も上がっていくだろうな。


「ふふん、我もなかなかやるだろう?」


「運が良かっただけでしょう」


「ほう、ではイル、後で我が食ったものを食わせてやろう。今日出た食材全種貰い受けるよう言ってきたからな」


「え?ちょ、ちょっと待ってください!?」


「帰ってからが楽しみだのぅ!のぅアル」


「あはは、そうだねー」


知名度が上がれば今のドリスの事を苦手に思う人が増えるかと思ったが、今の楽しそうにコロコロ変わる表情があれば大丈夫な気がしてくる。


少なくとも今のドリス達のやりとりを生暖かい視線で見ている食材研究士達とは上手くやれそうだ。


アルとイルには苦労を掛けるが今後もドリスの事を気にかけてやって欲しい。頼むぞ。


「あの、ソウ様、そろそろ立ち上がってもいいですか?」


あー、そういえばルミナはまだ正座のままだった。


いや、決して忘れてたわけじゃないぞ、うん。そう、ちゃんと反省したか確かめるためだ。


急に立ち上がるのはダメだぞ、しばらく膝を立てて座ってなさい。


よろけて誰かに抱きついたりしたらまた正座させられるからな。


その手があったかって顔するんじゃないの。本当に反省したのか?


はぁ、まぁいいか。こんなんでも人望あるし。あんまりリミ達の手を煩わせるんじゃないぞ。


さてと、それじゃ俺はそろそろ失礼しようかな。


サチが声を出さずに笑ってたせいで相当疲弊しているからな。


食材研究士達とも一通り顔合わせたし、あとは正式に認可が下りるだけだな。皆頑張れよ、期待してる。

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