食品関係者の交流会

下界の草原の街の門の付近に人が集まっている。


集まるのはいつもの事だが、その中で一つのグループの面子が少し気になる。


多くは冒険者だがそれ以外の職業の人もちらほらおり、その中心にいるのが天使の子供の二人。


今日は集まったみんなとお出かけのようだ。


街から出発すると二人は参加した人達と手を繋いで歩いたり、肩車して貰ったりして仲良さそうにしている。微笑ましい。


二人の保護者の料理人は不安そうな顔してるけどな。


一緒に来てる女子五人組に上手くなだめられててこれはこれで微笑ましい。


しかし何処に向かってるんだろうか。


方角は街の北東。北のダンジョンと森林の村の中間辺りを目指しているようだが、そこには特に何かあるような感じはしない。


ただのピクニックにしては重装備している気がするが、街の外に出るならこんなもんなのかな。


草原から森に入るところで足を止め、天使の子に確認を取る。


天使の子が目を閉じてしばらく待つと二人が同じ方向を指す。


一団は指した方向を目指して再び移動を始める。


俺の視野範囲だとその先にあるものまで分かるが、道もないし変わった生物もいないし見た感じやはり何かあるようには見えない。


ただ、天使の子達は何かを明確に感じ取って指差してる。


「サチ、ちょっといいか?」


時間を一旦止めてサチに調べて貰う。


何かあっては困るからな。彼らは信者でもあるし。


「判りました」


「なんだ?」


「微量ながらマナの蓄積がこの地点で起きています」


サチが示した場所は天使の子達が指差した方角と一致していた。


という事は彼らの目的地はここか。


警戒しながら時間を動かすと一団はマナの蓄積地点、マナ溜りの手前で止まり、前に出る天使の二人に視線を集める。


天使の二人は手を繋ぎ、歌う。


皆が目を閉じて聴き入ってる様子から綺麗な歌声なのだろう。


「マナ蓄積値減少中。二人にマナが吸い込まれています」


「大丈夫なのか?」


「彼女達は下位天使なので大丈夫です。量も微量なので中毒症状も起こさないでしょう」


サチの言った通り歌い終わっても天使の二人に変化は無く、少し休憩してから街の方向へ帰っていった。


「二人の目的はマナ溜りの沈静化だったのか?」


「はい。下位天使にとってマナ溜りのマナはご馳走ですから、本能的に察知したのではないかと思われます」


「へー、なるほど」


下界には糧にするものが違う種族が結構いるからな。下位天使の場合はマナ溜りのマナが好きと。


うちの上位天使様は甘いものが好きだが、それと似たようなもんだな。


今のところ下位天使を知ることが出来るのは彼女達だけなので大切に見守るとしよう。




今日は農園に来ている。


観光島に出す料理の最終確認を頼まれたからだ。


料理の種類は五品。


観光しながら食べられるテイクアウト型の料理が三品と決まった建物で食べられる料理がこれに加えて二品。


とりあえずこれで提供を開始して様子を見ながら改良や変更、追加をしていくらしい。


前に検討会議した時はもっと漠然としてた内容をよくここまで絞って決めたと思う。偉いぞ。


あ、実際褒めた方がいいのね。了解。


神として上に立つ立場が増えたせいで他人を褒めるという事も増えたが、これはこれでなかなか難しい。


結果を褒めるのは勿論のこと、努力した事を評価したり、何処が良いと思ったか具体的に伝えると相手は喜んでくれやすい。


それに加えて改善点などあればそれも伝える。


どうやら俺は改善点を見つける方が得意なようなのでこちらは苦労しないが、多く言い過ぎないように一点だけに絞る。


言わなきゃ言わないで不安になるし、言い過ぎたら言い過ぎたで落ち込むというのが人の複雑な心理なので上手く言うのが大変だ。


とはいえどちらかが偏るとサチや周りの人がフォローしてくれるので助かっている。逆の時もあるけど。


今回は上手く褒められた気がする。嬉しそうだ。


・・・ちょっと喜び過ぎな気もする。感情が制御できなくて泣く子も出てるんだけど、そんなに絞るのが難航したのか?違う?


あぁ、農園関係者以外の人にちゃんと出せる料理を作れるようになったのが嬉しいのか。


ここで出す料理は上手い人数名の手によるものだから、それから外れると食べてもらう機会が無かったのか。


それが今回の観光島の件で望みが叶ったと。


なるほど、だから感激の度合いが人によって違うのか。


今のその気持ちを大切にして精進を続けて欲しい。更なる成長が楽しみにしてるぞ。




さて、実のところ今日の用事は最終確認ではなく、こっちにある。


おぉ・・・建物に続々と人が集まってきてる。


「ソウ殿!」


「おぉ、ドリス達も来たのか」


「うむ。我も一応食材研究士の一員だからの。今日を楽しみにしとった」


「そうかー」


ウキウキするドリスに相槌を打ちながら以前この建物でやった試食の事を思い出すと複雑な気分になる。あれは色々と大変だった。


今日はここで農園の従業員と食材研究士達の交流会が行われる。


それぞれ個人での交友関係はあったが、こうやって一堂に会して集まることは初めてらしい。


ちなみに俺が来たのはサチが面白そうだからという理由。この時点で嫌な予感がしているので多少の覚悟は出来ている。


警戒しつつ建物に入ると俺とサチ、ドリス、アル、イルは袖側の来賓席に通された。ありがたい。


「それではこれより農園従業員と食材研究士の交流会をはじめまっす!」


「まっす」


すっかり司会業が板に付いて来たワカバとモミジの進行で交流会が始まる。


基本的には立食パーティみたいな感じで賑やかに話し合っている。神の会合もこんな感じだな。


俺達のところにはスライス果物の盛り合わせが置かれ、俺達の存在に気付いた者だけ挨拶に来る感じ。


有名具合だとやっぱりサチがダントツなのでサチの机の前だけサイン会みたいな列が出来ている。


アルとイルにもそれなりに人が来てる辺り知人が多いのだろう。


ドリスはまだまだだな。仕方ない事だから悔しい顔してると来る人も来なくなるぞ。そうそう、笑顔が大事。


ちなみに俺のところには殆ど来てない。


ヘリーゼが挨拶に来たぐらいで、農園の子達とはさっき顔を合わせたしな。


あと、来ない理由は俺の隣にいる奴のせいというのもある。


「あの、ソウ様、まだですか?」


「まだだな」


俺の隣には縄で縛られたルミナが地面に正座で座っている。


交流会開始時点では普通に参加していたのだが、いつもの抱き付き癖が早々に発動し、サチとリミに連行され俺の横に正座となった。


開放のタイミングは俺の判断で良いらしいが、まだ皆が警戒しているようなのでもうちょっと反省してなさい。まったく、困った園長だ。


ルミナはひとまず置いておいて会場の様子を見る。


農園従業員は全員女性だが食材研究士の方は数は少ないが男性もいる。今日来てるのは四人か。


さっきからこっちをチラチラ見てるんだけど、来てはくれない。あ、目が合った。


少し相談してからおずおずとこっちに来た。


「こ、こんにちは」


「こんにちは」


「あの、ソウ様で合っていますか?」


「うん」


「あ、あの!僕達食材研究士として上手くやっていけるでしょうか!?」


そんな突然言われても。


とりあえず落ち着いて。順を追って話して、な?


あぁ、男性人数少ないし女性の方が行動力があって肩身が狭いと。なるほど。


確かに四人とも優しそうで男性というより中性的な感じだしな。


そんな四人の様子を見てルミナが興奮気味に可愛いを小声で連呼してるが、ちょっと静かにしててほしい。


ふむ、特に何か悪い事されたり言われたりしてるわけではなく、逆に優しくしてもらってると。


いい環境じゃないか。


不安がるのはこれまで女性と触れ合う機会が少なくて慣れてないってだけかなこれは。


「食材研究士には誰かの勧めでなったのか?」


「いえ、自分でなりたいと思いました」


「それじゃあまずは食材研究士としてひたすら頑張ってみよう。周りは気にせず自分のやり方でいいから。それに男じゃないと気付かないところがきっと見つかると思う」


何か強みを持てれば女性達とも対等に話し合えるようになって自信に繋がるんじゃないかな。


「わかりました、やってみます。ありがとうございます」


これでちょっとは悩みが軽減されるといいなぁ。


ルミナも話聞いてたし、気に掛けてくれるだろう。


聞いてたよな?言っとくが突然抱きついてトラウマにしたり変な性癖を目覚めさせるような事は絶対するなよ?


あの手の男子は繊細だからルミナの抱きつきは刺激が強すぎるだろうな。


どうしても改善が見られないようなら荒治療として許可を出すかもしれないが、そうなる前に苦手意識を克服して欲しい。頑張れ。

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