-人間種はじめました 旅立ち-

俺はルシカ。冒険者だ。


錬金術師の魔女の家に居候してからそれなりの時間が経った。


魔女からは良くも悪くも、大半が悪い事ばかりだったが色々な経験をさせて貰った。


装備もそれなりの物が揃ってきたし、貯金も出来てきた。


うん、そろそろ旅に出てもいい頃だろう。


その事を魔女に告げると妙な反応が返ってきた。


「それなら冒険者ギルドにちゃんと申請するんだね。そこで許可が得られてから改めて私に言いな」


・・・どういうことだ?


良く分からないがとりあえず冒険者ギルドに行き、受付のお姉さんに話すと慌てた様子で奥に行き戻ってきた。


ほう、ギルドで冒険者育成をやってるのか。


それで俺にコレに参加しろと?何故?特に必要ないと思うが。


・・・むぅ、お姉さんにそこまで頼まれると断れない。


別に出発は一人でするつもりだから延ばしても問題ないか。




冒険者学校とやらに通う事になったが何故か魔女の弟子も一緒に通う事になった。


まぁ知らない顔ばかりより知ってる顔がいる方が安心するけど。


学校では学びたいものを選ぶらしい。


俺が選んだものは料理だ。


既にそこそこの料理は作れるようにはなってるが、ちゃんとした料理人から学べる機会は少ない。大体は見て盗むぐらいだからな。


それ以外にも裁縫や調合、商談などに手を出してみた。


・・・怒られた。


必修の戦闘と魔法を全く受けに行かなかったからだ。


でもなぁ、要らないものは要らないだろ。教える奴の方が弱いんだし。


そこまで言うなら戦ってみろと言われたので仕方なく戦う。


確かにあんたらは強いが俺が昔戦ってた奴らはもっと強かった。そんな奴らに俺は勝ってたからな。勝てなかったのはあのいい子ちゃんの勇者だけだ。


これで心置きなく学びに専念できるかと思ったら逆に毎日呼び出しを食らう事になった。何故だ。


しかも戦う相手が段々強くなってきてる気がする。


・・・面白い、受けて立ってやる。


戦っていると今の時代の戦い方が良く分かってくる。


多くの者は力だけではなく技術を用いて戦う。まるであの勇者達のように。


だが俺の相手ではない。そう思っていた。


その日挑戦してきた者は明らかにそれまでの人とは違う気配を感じた。


顔まで覆う全身鎧で大きな盾と片手槌の重装タイプ。


これまでにも似た装備の者はいたが、明らかに動きが違って素早い。


しかも鎧と盾のせいで普通の魔法が効かない。


結局最後は相手に一度純魔力を撃ち込んでから抜き取って強制的にマナ欠乏を起こさせるという今は使われない旧魔族時代の技で勝った。


強かった。一体何者なんだ?


「負けてしまいましたか。やっぱり見込み以上の強さを持っていましたね」


そう言ってフェイスヘルムを取った顔は俺の良く知る受付のお姉さんの顔だった。




戦いの後、お姉さんの家にお呼ばれした俺はお姉さんと戦う事になった経緯を教えてもらった。


元々冒険者だったが若くして強かったお姉さんはギルドの受付兼用心棒としてギルドに雇われた。


給料も良かったし、戦う事に執着は無かったので受付として生活する事に特に苦を感じなかった。


だが、ある時出会いが無いという事に気がついた。


とはいえ好みの異性でも自分より弱い人と一緒になるつもりも無かった。


そんな時に俺が現れ目にかけていたのだが、旅に出ると聞き、急遽腕試しする事になったと。


「それで、迷惑でなければ一緒に連れて行って欲しい」


迷惑だなんてとんでもない。


綺麗で優しくてその上強い事も分かったお姉さんが一緒に来てくれるなら旅はとても楽しくなるだろう。


しかし本当にいいのか?


俺の旅の目的は前の城がどうなったか見に行くという漠然としたもので、その後の予定は考えていない。


しいて言えば再び根城を作りたいところだ。


今度は部下以外にもちゃんと女を侍らせたい。そんな奴だぞ俺は。


女性の扱い方?


う・・・正直言って良く分からない。


最近魔女やその弟子と共に暮らすようになったりお姉さんと話すようになって女性自体には慣れたが、扱い方となると別なのだろう?


風呂でよく会うオヤジがお前ならイチコロって言ってたがよくわからなかったし。


「連れて行ってくれるなら教えるわよ?」


出た。たまに出るお姉さんの艶やかな微笑み。


しかもギルド職員の時とは違い、服装も言葉遣いもラフな素のお姉さんなので威力が高い。


ええい、何を悩んでいる!ここまで言われて断る奴がいるか!


「じゃあ、よろしく頼む」


「うん、よろしくね」




お姉さんと旅を共にすることが決まり、学校も無事卒業して後は旅に出るだけになった。


なったのだが、街の出口には俺とお姉さんの他にもう一人連れがいた。


「よ、よろしくお願いします」


魔女の弟子だ。


学校を卒業した日に魔女にいきなり言われ、半ば押し付けられるような形で同行する事になってしまった。


本人も嫌がっていないし別に構わないが・・・。


「いっそ手篭めにしちゃえば?」


お姉さんにその話をしたらこんな答えが返ってきた。


うーん、錬金術師の腕は確かだし、何かと便利な力を持ってはいるが女としてはまだよくわからん。


まぁその辺りは追々考えるとして、最初の目的地は森の村だ。


森の村の近辺に古い遺跡があると耳にしたので何か情報になるかもしれない。


よし、出発だ。

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