新しい天機人
俺達が到着した島は研究施設のある島とは違い、どちらかと言えばうちの島に似たちゃんと景観も考えられた島だった。
「ここか?」
「はい。行きます」
先頭をサチが、後ろにルシエナ、真ん中に俺で建っている家に向かう。
そんな警戒しなくても普通の家だと思うんだけど、二人の雰囲気に言い出せない。
「む・・・」
サチが家に入る扉の前で固まる。
「どうした?」
「少し待ってください」
パネルを出して何か操作しはじめたのでよくよく扉を見るとノブも取っ手もない変な作りをした扉になっていた。
「触らないで下さいね。今解析していますので」
「お、おう」
触れようとしたら止められた。そういう風に言われると怖い。
「認識型の扉なのに稼動していませんね・・・」
「やりますか?やりますか!?」
俺の後ろでいつの間にか武装したルシエナがウキウキしている。
「仕方ありません。ルシエナ、お願いします」
「了解!」
そう言って腕をぐるぐるしながら扉に近付いたルシエナは構えを取る。
「どっせい!!」
溜めた後扉に正拳付きをすると家全体が揺れる。やりすぎじゃないか?
ルシエナが離れると家の中から物音が聞こえ、勢いよく扉が開かれる。
「なにすんじゃい!!」
中から目も隠れた長いぼさぼさの髪をした研究員と同じ服装の男が出てきた。
「ルシエナ、確保」
「了解」
出てきた瞬間サチの指示でその男はあっという間に捕まった。
「改めまして、こんにちは。私、主神補佐官のサチナリアです」
「・・・」
サチの名乗りを聞いて拘束された男は顔面蒼白になった。
「何をしていたか手っ取り早く白状していただけると助かるのですが」
「こ、断る」
「では。貴方には未報告の情報があると寄せられています。内容を一つずつ挙げていきます」
パネルを開きながらサチが説明しているが、主な内容は研究施設から何か持ち出したらしい。
一つ一つ持ち出した物を挙げているのだが正直俺には良く分からないものばかりなので挙げ終わるまで暇だ。
・・・ん?奥の部屋に続く扉が少し開いててそこから何か見える。
なんだろう?
「あ!おい!」
男が気付いて声をあげたが既に俺は扉を引いていた。
「ぁー」
引いた扉からごろごろと小さな子供が結構な人数雪崩れのように飛び出てきた。
「子供?」
「ぁっ、ぇっ、ぁっ、ぁー」
小さな声を出しながら子供は右往左往した後、見つけた男に向かって走っていって掴まる。
突然の事にサチの言葉も止まり、改めて男を見下ろす。
「・・・説明して頂けますね?」
「・・・わかった」
「つまり天機人をここで造っていたと」
「ちがう!天機っ子だ!」
・・・。
「そ、そうですか。ではその天機っ子とやらをここで造ったと」
「造ったんじゃない!生まれ出でてくれたんだ!」
・・・。
サチが俺に向かって困って泣きそうな顔をして助けを求めている。
わかる。俺も今似たような困惑の表情してると思う。
ちなみにルシエナはあっちで彼の言う天機っ子とじゃれて遊んでる。ずるい。
・・・しょうがないなぁ。
「天機っ子を知るきっかけとかあったのか?」
「お!聞いてくれるか!アンタ!」
拘束されたままこっちに来るな。怖い。
彼の長い話を要約するとこうだ。
ある日自分のところに天機人について面白い情報がまわってきた。
なんでも情報館に変わった天機人がいるとのことで、研究員達数名と情報館の様子を見に行ったところ衝撃が走った。
それからはよく覚えておらず、目的のために無我夢中で作業に取り組んでた。
今はとても満足している。悔いは無い。
「・・・」
「・・・」
俺もサチも困惑するしかない。
つまり情報館でちびアリスを見かけて何かに火が点いてしまったわけか。
「どうしましょうか・・・」
「俺はどうなってもいいからあの子達だけは!頼むよぉ!」
こんな事になっているとはサチも予想外だったようで、処遇に困っている。
コイツがやった事は罪なので罰は受けてもらう必要はあるだろうが、その影響を天機っ子達が受けてしまうのは避けたい。
どうしたものか・・・。
悩んでいると遊んでいたルシエナがこちらに戻ってくる。
「どうだ?」
「可愛いですね!」
いや、そういう事を聞いているんじゃない。
ほら、コイツが誇らしげな顔しちゃっただろうが。
「特に酷い事をされていると言う事は無いようです。言葉を話すのが苦手なようですが、意思疎通は出来ています」
「なるほど」
「だろう!?うちの子は素晴らしいだろう!?」
サチ、ちょっとソイツ黙らせておいて。
「自己主張は出来るのか?」
「出来てます。配属直後の天機人より豊かかもしれません」
天機人は配属前は基本無個性に近い状態で、配属後に個性が出てくるからこの辺りも違うのか。
サチが通信でエミオに見てもらったところ、天機人と比べると性能は大幅に低下していてユニットの装着も難しいらしい。
そうなると普通の天機人のような仕事をしてもらう事も出来ないか。
うーん・・・。
男と天機っ子を見ながら落としどころを考えていたら天機っ子が男に寄って来た。
「ゃー」
・・・ん?今なんて?
「なぁ、お前この子達に自分の事をなんて呼ばせてるんだ?」
「あ?そんなのお父さんに決まってんだろうが!」
あ、そうなんだ。俺にはおとちゃーって聞こえたが。でもそうか。じゃあセーフかな。
俺が危惧していたのはいずれこの子達に手を出すのではないかと言うところだ。
前の世界にはそういった変態が一定数いたからな・・・。
今の発言を聞いてそれの心配が大幅に減ったし、同時に与える罰も思いついた。
「サチ、処分は俺が決めてもいいか?」
「構いませんが一応どんな内容か教えてください」
思いついた内容をサチに話すと採用と言われたので男に伝える。
「・・・」
思考停止したかのように男が固まる。
男に伝えた内容は、まず今回の事を全て研究施設と情報共有して勝手に天機っ子を生み出さないようにする。
次に天機っ子達をもう少しちゃんと話せるようにする。
こちらからの意図は通じてもあちらからが通じ難いのは良くない。せめてちびアリスぐらいまで改善する。
加えて天機っ子達がちゃんと人の役に立てるようにする。
今のままではここで飼われてるだけの愛玩動物と変わらないからな。それは良くない。
そしてこれがこの男に一番打撃を与えた内容だと思う。
天機っ子達が望んだ場合、普通の天機人になれるようにする。
もし役に立てる方法が見つから無かった場合も天機人になってもらう。
要は親離れだな。
愛する子を持つ親なら誰しもが通る道だが、普通の親なら子が出来た時に脳裏に考えて覚悟するところ、全く考えてなかったところに突きつけられたからショックが大きいのだろう。
ま、これで自分のした事の重大さが分かっただろうし、程良い罰だと思う。
「くぅっ、こんな辛い事を思いつくなんて、アンタなんなんだよ!」
半泣きでこっちを睨んでくるのでちゃんと答えよう。
「神様ですよ」
「神様ですね」
サチ、ルシエナ、あのな、俺が折角答えようと溜めたのに先に言うの酷くない?
良く見る反応を見て落ち着いたところで用も済んだし俺達は帰る事にした。
この男の今後としては研究施設にちゃんと通いつつ、天機っ子達をちゃんと育てられるかどうかがポイントになってくる。
「ちゃんと育てられれば研究施設から新しい天機っ子の許可も出るかもしれないし、今の姿で居る事の価値に天機っ子達が気付けば天機人になりたいとも言い出さないと思うぞ」
帰り際にこっそりこんな事を耳打ちしておいた。
その瞬間呼び方がアンタからソウ様に変わったのは面白かった。
当面の間は研究施設から厳しい監視があるだろうが、天機っ子を生み出すだけの情熱があるならきっと良い方向に進むと思う。天機っ子達のためにも頑張って欲しい。
で、だ。
俺を抱えながら飛ぶサチに聞く。
「結局悪者退治ってのはアイツの事だったんだな」
「そうです」
「ちなみに何処まで知ってた?」
「研究施設から何か持ち出していると言うところまでは最初のうちに。エミオから情報を貰った時点で何をしようとしていたかも大体の見当は付いていました。既に形になっていたのには驚きましたが」
「そうか。ルシエナ」
「なんですか?」
「警備隊として今回の件はどう見る?」
「無断で研究施設から資材を持ち出した点が大きいです。ちゃんと相談すればいい内容だと思うんですけど、なんでしなかったんですかね?」
相談しなかった理由は何となくわかる。
さすがに子供の天機人達に囲まれたいなんていう願望はおいそれと他人に言えるものじゃないからな。
「ふむ。警備隊的には無断で持ち出しが良くないと」
「そうですね」
「じゃあ例えば食べるつもりだったデザートを無断で食べられたら?」
「大罪ですね!特にデザートなんて滅多に食べられないものですし!」
なるほど。警備隊にとってはそんな認識なんだな。
だってさ、サチ。
平静を装ってるが例えを出してから俺を抱える手がじっとり汗ばんできたからどんな心理状態かわかってしまってるぞ。
「そうかー大罪かー。じゃあ見つけたら退治しないとな」
「そうですね!」
まさか空間収納に入れてるからってばれないと思ってたか?
作った時に目印付けて置いてたからな。
と言う事で帰ったら覚悟しておくように。
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