悪者探し

今日は冒険者ギルドの支援制度の様子を見ている。


この支援制度はギルドが有望な人材に対して案内し、本人が承諾すると受けることが出来る。


有望な人材と判断される要素は色々あるようだが、基本的には品行方正に過ごしていたり、ギルドへの印象が良い人材が選ばれているようだ。


受講中はギルド指定の施設に通うか合宿しながら一定期間で色々な技術を学ぶ。


期間中の費用はギルドが全額負担してくれるが、期間終了時に各自一つ依頼を消化するのが受講条件となっている。


草原の街で試験的に始まったこの制度だが、冒険者学校と言う呼び方をされている。分かりやすくていいな。


オアシスの街では斡旋所に所属すると特化的な技術を学ぶ事は出来るが、ここでは技術的には劣るものの総合的な知識を得る事が出来るのが強みだ。


仮に適正が無くともどういうものか大体知っているという事だけでも大きな差になる。特に生死と隣り合わせの冒険者となれば尚更だ。


教える側はそれを良く分かるようまず実戦し、座学や実技を教えた後、再び実戦してその違いを分かってもらうようにしている。


受講側もそれが分かると取り組み方も変わり、自分から率先して知識を得ようと動くようになる。


そういう人は伸びも良く、期間終了時の依頼も難なくこなすぐらいまで成長する。


こういった良い循環が起きてる空間だと新しく入った人も自然と意識が同調して雰囲気に引っ張られ、気がつかないうちに成長していくのが観察していて面白いところだ。


特に会話や礼節といったコミュニケーション関連が如実に変化していくのが見ていて楽しい。


例の女子五人組も入った当初は場のノリと勢いで乗り切ろうとしていたが、今は計画性を持つように変化していっている。


冒険者学校か・・・。


ちょっと通ってみたいと思ったのは秘密にしておこう。




「む・・・」


片付けをしていたサチがパネルを見て一瞬止まる。


「どうした?」


「ちょっと待ってください」


そう言って手早く複数のパネルを開いてなにやら作業をしている。


俺も仕事中に使うパネル操作は大分出来るようになってきたが、サチの作業速度には遠く及ばない。


何かあったのだろうか。


「ソウ、今日ちょっと付き合って頂けますか?」


「ん?いいぞ?何するんだ?」


「今日は悪者退治をしようと思います」


「悪者退治?忍者ごっこは家の中だけにしといた方がいいと思うぞ」


「ち、違います!そういうのではなく、抜き打ちを行いに行くのです」


「ほほう。詳しく」


「エルマリエからの情報なのですが、天機人の研究施設周辺で妙な動きがあるらしいのです」


「妙な動き?どんなんだ?」


「それを確かめに行きます」


「警備隊じゃダメなのか?」


「一応ルシエナに要請を出していますが、権限行使が必要となる場合があるので実際行く必要があります」


「ふむふむ。それで、俺は何すればいいんだ?」


「もしかすると最終的な判断を下してもらうかもしれません」


「責任重大だな」


「はい。とはいえそこまで行かないと思うのでソウの考えるままにしてください」


「わかった。要はいつも通りでいいんだな」


「そういうことです」


悪者退治か。


サチがこう表現したという事は誰かが悪さなのかわからないが何かをしていて、それを咎めたり懲らしめたりする必要がある内容なのだろう。


具体的にどうするか教えてくれないあたりちょっと楽しんでる節があるので気楽に臨むとするかな。




ルシエナと合流した俺達は天機人の研究施設と言われる場所に向かった。


施設のある島は工場のある島と似た感じで無骨な建物が幾つも建っていた。


工場との違いは天機人の多さかな。


島の周辺を飛行ユニットを着けて飛び回っていたり、作業ユニットを装備して動作確認していたりと他の島じゃあまり見ない光景だ。


それに皆同じような顔している。無表情無感情な感じ。


実際のところは表に出さないよう制限がかかっているだけで、それが解除されれば情報館の子達のように個性豊かになると思う。


早く自分を表に出せるといいな。がんばれ。


それにしてもサチもルシエナも随分に手間取っているな。


抜き打ちで来たし仕方ないか。


あ、帰ってきた。


「むぅ・・・」


「どうした?」


「該当人物がどうやら不在のようで、内部データは頂けましたが、施設入場は無理そうです」


「研究員の方も初めて聞いたような素振りでした」


「そうか・・・。ところでそちらは?」


サチとルシエナ以外にもう一人、二人に付いて来た人がいた。


「初めましてソウ様。僕はエミオ。ここの研究員をしています」


「よろしく」


差し出してきた手に応じて握手する。


小柄な体格だがメガネの奥から俺を見る目は鋭く、一挙手一投足全てを見られている気分。


「エミオさんはうちの隊長の旦那さんなんですよ」


「え?フラネンティーヌの旦那?」


「ソウ様の事は妻から伺っています。色々と助力していただいてると聞き、お礼したいと思っていました」


「そうか。そう思ってくれてるなら嬉しい。隊長として色々大変だろうから余力がある時は支えてあげてくれ」


「えぇ、お任せください。それでは僕はここで失礼します。今度ちゃんと施設内を案内させてください」


「あぁ、是非頼むよ」


・・・ふぅ、緊張した。


天機人の研究員だけあって観察力が凄いな。


サチとルシエナの話によるとエミオは優秀な研究員で施設内でも一目置かれている存在らしい。


早々に戻って行ったのは他にも内部問題が無いか調べてくれるためだとか。ありがたい。


「じゃあとりあえず施設については彼に任せるとして、俺らはどうするんだ?」


「勿論本人のいるところに行きます」


「わかるのか?」


「エミオさんが恐らく自宅にいるのではと」


「情報は既にあります。内通してる可能性のある研究員から情報が行くかもしれませんので時間が勝負です。行きますよ、ソウ」


「お、おう」


なんかあわただしい事になってきた。


でもやっぱりサチもルシエナも楽しそうに口角が釣り上がってるんだよなぁ。


あんまりやると悪い顔になるから程々にして欲しい。綺麗な顔が台無しだぞ。

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