キノコ探し

下界の冒険者ギルドにはランク制度というのが無い。


一応裏には依頼の受領頻度や消化精度、人柄、金遣いなど細かくまとめてあるものは存在するようだが、表立って区分を行う事はしていない。


区分する必要が無いと言った方が正確かもしれない。


基本的に依頼はギルドを通して冒険者に発注されるので適した人材が選ばれる。


適材が選ばれるので必然的に依頼の成功率は上がり、冒険者は報酬を、依頼者は安心を、ギルドは依頼料の一部と信頼を得られる。


なのでギルドとしてはほぼ確実に成功させられるものを冒険者へ発注する。


今も老練な冒険者に若手の冒険者でも出来そうな依頼を出している。


プライドの高い人なら怒る人もいるかもしれないが、この老練な冒険者は受付人の話を真剣な表情でしっかりと聞いている。


依頼内容は薬草の採取か。ちょっと追ってみよう。


依頼を受けると装備の確認をしてから一直線に薬草の群生地に向かう。


最も効力が出る薬草を指定数だけ選び、そのまま特に何処にも寄らず、ギルドに戻ってきて報酬を受け取る。


そして直ぐに次の依頼を受ける。


これを何回か繰り返し、日が暮れる頃には結構な稼ぎになっていた。


結局のところリスクや時間がかかる依頼をやるより確実に短時間でこなせる依頼を数こなす方が稼げる。


この老練な冒険者もギルドもその事をよく理解しているので円滑に事が運ぶ。


ここでもし冒険者をランクで区分けしていたらどうだろうか。


きっと冒険者もギルドも背伸びをし、その結果依頼の成功率を下げてしまうのではないだろうか。


競争することは悪い事ではないんだがな。


人は自分が思っている以上に無意識に無理をしてしまいがちだから、俺はこのギルドの方針は良いと思う。


とはいえこの方針に欠点が無いわけではない。


どうしても難易度の高い依頼や厄介な依頼に対して前向きに取り組めないという点がある。


一応そういう依頼に対しては失敗時の最低保障金の支払いや情報の買取などギルドが身銭で払っている部分はあるものの、達成までに時間がかかってしまったり経費がかかってしまうので内容によっては依頼者に断る場合もある。


仕方ないといえば仕方ないんだがな。慈善団体じゃないんだし。


でもどうにかしたいと思う側面もあるようで、ここ最近は冒険者への新たな技術の取得を支援する制度を立ち上げ、消化が滞り気味の依頼をやってもらおうとしている。


以前気になった女子五人組もこの制度で新たな技術を磨いているようだ。


最早冒険者ギルドはここが独占しているような感じにもかかわらず、向上心を忘れずより良い運営を目指している。


こういうのを一流って言うんだろうなぁ。




「サチはキノコって大丈夫なのか?」


「キノコですか?下界を見ていると嫌でも目にしますので恐らく他の天界の人よりは大丈夫だと思いますよ」


「ほうほう。つまり人並みにダメだと」


「む。そういう解釈は解せませんね」


「じゃあ大丈夫なんだな?料理に使おうと思うから生えてるところを案内して欲しいんだが」


「え・・・。ちょ、ちょっと待ってください!案内できる人を探しますので!」


この慌てようはやっぱり苦手なんじゃないか?


別に無理なら諦めるのに。


「あー・・・」


「どうした?」


「一応見つかりはしたのですが、会って貰えるかどうか」


「気難しい人なのか?」


「どちらかと言えばルミナテース側の方ですね。気ままな方なので。とりあえず打診してみます」


「うん。よろしく」


それから少し待つと快諾の反応が返ってきたので向かう事にした。


若干サチの顔色が悪いが本当に大丈夫なのかなぁ。




「お、サチナリアさん、こんっちゃっすー」


待ち合わせの島で待っていたら空から一人の天使が降りてきた。


「こんにちは。すみません、急に」


「いいっすよー。丁度これから調査に行こうかと思ってたとこっすから」


サチより少し若く見える日焼けに麦わら帽子といういでたちの女性は気さくに笑いながら畏まるサチの肩をぽんぽんと叩く。


「無理してないっすか?仕事を振り分けて負担をへらしてるっすか?ちゃんと寝てるっすか?」


「だ、大丈夫です。大丈夫ですから」


「んー・・・そうみたいっすね。よかったっすー」


「お気遣いありがとうございます。こちらにいるソウのおかげで日々楽しくしています」


タジタジになりながら俺を紹介すると、サチに向いていた首が凄い速さでこっちに振り向いた。


「おぉ!では君がジルの言ってたソウ様っすか!」


「あ、あぁ」


なるほど、サチがタジタジになるわけだ。一気に距離を詰めてきた。


「へー・・・ほー・・・」


あの、俺の周りぐるぐる見てまわらないで欲しいんだけど。照れる。


「うん!ソウ様ってよりソウ君がいいっすね!」


「お、おう。それで貴女が今日案内してくれる人かな?」


「そうっすよ!おっと、自己紹介がまだっすね。あちしはアンナマリカ、色々調べまわってるだけの変人っす!」


えぇ・・・自分で変人って言うの?


「ち、違いますよ。アンナマリカさんは各地に赴いて次々新しい発見をする方でして」


「新しいつっても全然役に立たないものばかりっすから変な物を見つける人で変人で合ってるっすよ!」


あぁ、なるほど、そういう意味の変人か。


「とりあえずキノコのある島はここからちょっとあるっすから移動しながら話すっすよー」


「わかった。今日はよろしく頼む」


「おまかせっすよ!ソウ君!」


君呼びされる事なんてこっちに来て無かったからなんか新鮮でいいな。




「着いたっすよー」


「おー・・・」


「やっと着きましたか・・・」


ジメッとした空気の漂う木の多い島に降り立つが俺もサチも既に若干疲れ気味だ。


移動中ずっと質問責めに遭っていたからなぁ。


とにかく興味のある事に対して一直線というか、食いつきが凄かった。


まるで子供が初めて見るものに対して示すような反応だった。


一方でサチの対応や言動からそれなりに長く生きてるのが伺える。知識も豊富なようだ。


天界の人は見た目と年齢が一致しないからその辺りの判別が難しいので失礼のないようにするのが大変だ。


「ささ、いくっすよー」


そんな子供と大人を兼ね備えたアンナマリカの後に俺とサチが続く。


足場の悪い地形をスイスイと進んでいくので付いていくのがやっとだ。


この島の地面は大量の落ち葉と腐葉土で覆われているのでちゃんと見極めて歩かないと湿気った葉で足を滑らせたりはまるので注意がいる。


そういう点では低空飛行しながら付いてくるサチは賢明だと思う。


ま、これはこれで楽しいから俺はいいんだけどな。


しばらく進み、少し開けた場所でアンナマリカが足を止める。


「もうちょっと先が目的地っすよー。でもサチナリアさんは来ないほうがいいかもしれないっす」


「どうしてですか?」


「キノコが群生してるっすからねー。苦手な人にはおすすめしないっす」


「う・・・」


群生と聞いてサチもヘリーゼのように青い顔をする。


「サチ、無理するな」


「でも、ソウが料理にするなら気になります」


あー、興味と恐怖がせめぎ合ってるのか。


「じゃあ食えそうなのを採って来て、ここで料理するってのはどうだ?」


「・・・ではそれでお願いします」


少し葛藤が見られたが、生理的に無理な物に慣れるのはなかなか難しい。無理はさせたくない。


とりあえず方針が決まったので必要な物を用意してもらい、俺とアンナマリカの二人で先に進む。


「ソウ君はキノコ平気なんっすねー」


「平気っていうか実物見たことないだけなんだが」


前の世界のキノコは見たことあるが、こちらのは無い。


「へー・・・」


アンナマリカがにやにやしながらこっちを見てくる。


「なんだ?」


「いやー、男の子っすねー。うんうんー」


「・・・?」


良く分からないが嬉しそうに頷かれる。


さっきからちょいちょいこんな感じで生暖かい視線をされる時がある。なんなんだ一体。


「さ、そろそろ着くっすよー」


道から外れ、茂みを進む。


さて、どんなキノコがあるのやら。

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