キノコ料理
「うへぇ・・・凄いなこれ・・・」
到着して広がる光景に顔が若干引きつる。
「さすがにサチナリアさんにこれは厳しいと思うっすよ」
「うん、そう思う」
アンナマリカに案内してもらった場所では地面一面にキノコがびっしり生えていた。
普通キノコは木の根元や葉の下にポツポツと生えるもので、群生地といっても木の根元ごとに生えているものだと思っていた。
「こっちのキノコはこんななのか」
「そっすよ。きれいっすよね」
綺麗・・・?
まぁ確かに色彩は豊かだ。
傘の色が白、茶色は勿論のこと、赤や黄色、緑や青といった前の世界じゃ見かけないドギツイ色をしたキノコまで生えている。
特にきついのがこのカラフルな色が更に斑模様になっていたりうねり模様していたりと毒々しさが凄い。
確かにこれは苦手になる人が多そうだ。
前にトーフィスが見せてくれた画像はまだ優しいものだったというのがわかる。
これを綺麗と言えるアンナマリカの感性はなかなかに凄いと思う。
「これ食えるのか?」
「さぁ、どうっすかね?」
「分からないのか?」
「有害かどうかの判別は済んでるっすよー。でも味や料理にするとどうなるかまではあちしもわかんねっす」
「そういうことか」
「そういうことっすよ。そんなわけで指示して欲しいっす」
「わかった」
サチから預かった試食に必要な最低限の調理道具を出して貰う。
ふむ・・・。
とりあえず生で食えるか、火を通すとどうなるか、この二点に絞って調べよう。
アンナマリカにそう伝えると手早く準備してくれる。
よし、やるか。
アンナマリカが持ってきたキノコを十数本調理したり試食した。
その結果色々な事が分かってきた。
まずこっちのキノコは生で食えない。
食えない事もないが、えぐみや渋みが強くて好んで食べようとは思わない。
次に加熱すると変化が凄い。
急激にしなしなになって小さくなったり、逆に膨張して爆発しそうになったり、傘の色が変わったりと様々だ。
そしてもう一つ。
「うーん・・・」
加熱して色が青から赤になった奴を食べているが、味がどう考えても海老。
黒から黄色に変わった奴は蟹。
その他にも色が変化するキノコの多くは甲殻類や貝類の味になった。
ただ、何か違和感があるんだよな、この味。
今食ってる蟹キノコも蟹味なんだけど蟹じゃない感じというか。表現が難しい。
とりあえず色の変化するキノコは俺の知ってるキノコの味にならないという事は確かなようだ。
これはこれでいいんだけど、やっぱりキノコの味が恋しい。具体的に言うとシイタケ。
ヘリーゼが持ってきた醤油の試作品の味見をしたとき欲しくなってしまったんだよなぁ。
今のところ色が変わらなかったキノコは二種類。
どっちも味や香りがそれほど強くないエリンギとマッシュルームだった。
「これでこの辺りに生えてるキノコの種類は全部っすねー」
「そうか、ありがとう」
持ってきてくれたキノコを加熱する。
お?色が変わらないぞ。これは期待。
そう思った瞬間パァンと弾ける音とともに硬くなった熱々のキノコが俺の頬に突っ込んで来た。
「まったく・・・何事かと思いましたよ」
「すまん」
サチを待たせてた場所に戻ってきて一息つく。
熱された石のようなキノコの直撃を受けた俺は盛大に悲鳴を上げ、それを聞いて駆けつけたサチとアンナマリカに治療してもらったのがさっきの事。
いやはや酷い目に遭った・・・。
前の世界で焼き栗が弾けて火傷するって話はあったが、まさかキノコでやるとは思わなかった。
・・・ん?二人が俺をジッと見てる。何か嫌な予感。
「・・・なんだ?」
「い、いじゃー」
「ぶふっ!!」
アンナマリカが耐え切れずさっき俺の上げた悲鳴の真似をしたと同時にサチが噴出す。
「いじゃーって痛いと熱いが合わさってるっす!初めて聞いたっすよ!」
「この島湿度が高いですから響いて聞こえてきて!あははははは!」
「その後地面をごろごろって!ごろごろってして!」
「着いたら落ち葉まみれでっ」
くっ・・・安心と同時に当時の様子を思い出し笑いを始めやがった。
俺そんな動きしてたのか。恥ずかしい。
これだけ大笑いするってことは心配してくれた証拠だから甘んじて受けるしかない。うぐぐ。
「はー、いやー笑ったっす」
「・・・ぷっ」
若干一名まだ収まってない奴がいるが放っておこう。
「一応持ってきたけどこの硬さで食えるのかな」
手元には忌まわしき俺を強襲した硬くなった焼きキノコがある。
本当ははるか彼方に投げてしまいたいところだが、食材なのでちゃんと試食する。
石みたいに硬いので刃物が通るか不安だったが、うちの包丁の相手ではなかった。さすがだ。
小さく薄く切って口に含んだが、やっぱり硬くて噛めないので唾液でふやかしてみる。
「・・・ん?んん!?」
「どうしたっすか?」
「シイタケだ、コレ」
「シイタケってソウ君が欲してた奴っすか」
「そうそう」
よりにもよってコイツがシイタケの味になるとは。
まさか俺の求めに応じて自己主張してきたってことは無いよな?激しすぎるぞ。
でもこの硬さだと料理の具として使うのは難しそうだ。
仕方ない、ひとまず出汁を取る用として使うとしよう。
ほら、サチ、いつまでも笑い転げてないで調理道具出してくれ。
「はー・・・幸せっすー・・・」
食事を終えたアンナマリカが満足そうにする。
サチは作り置きのデザートを空間収納から出して堪能中。二つ目ダメだぞ。帰ってからにしなさい。
今回作った料理は至ってシンプル。
色が変わるキノコは海産系の味になるので塩を振った焼きキノコに。
サチが苦手そうな見た目の傘の部分はやめて柄の部分だけそのまま出す事にした。
残った傘は細かく刻んで塩チャーハンに。
色がカラフルで見栄えは良かったが、味はイマイチだった。要改善。
シイタケは出汁を取って塩と合わせてスープに。
具はしなっとなるエリンギとマッシュルームを先に細長く刻んで麺状にして春雨スープっぽくしてみた。
これが二人に好評で、ちょっと多く作ったと思ったのに綺麗に無くなった。
以上が今回作ったキノコ料理だ。
「キノコを食べると聞いたときは一体どうなるのかと思ったっすけど、いいものっすね」
「そう思って貰えたならよかった」
「これで増殖問題も少しは改善できるといいんっすけど」
「増殖問題?」
「ソウ君も見たと思うっすけど、キノコは地面にびっしり生えるっす。そして少しずつ広がって行くっす」
「枯れたりしないのか?」
「しないっすね。何せ島自体がこの湿気っすから」
「木を一気に切り開くとかの大工事しないとダメなわけか」
「やるなら島全体の木を刈るしかないっすね。そうでもしないとまた別の場所に生えるっす」
「ふむ。確かに厄介だな」
「造島師も好んで処理しようとしないので放棄申請が来る事があります」
デザートを食べ終えたサチも会話に参加する。
「アンナマリカさんはそんな放棄された島を調査して下さっているのです」
「へー」
「そんなんじゃないっすよ。あちしはただ自然が好きなだけっす」
本人は否定してるが、どちらも言ってる事は正しい。
アンナマリカは興味で放棄島を調べ、それで見つけた事の報告をサチが受けて新たな発見に繋がってるという事なんだろう。いいことだ。
しかしそんな状況でもキノコの増殖は未だ問題になっていて、様子を見るに増殖を遅らせるぐらいしか今のところ出来ていない。
「ふーむ。結構根深い問題だな、キノコ問題は」
「そうっすね」
「仮に食える奴を採って料理に使うとしても、食えない奴は残ったままだし」
「そうなんっすよ。増殖速度は食べられるキノコより遅いんすけどねー」
「遅いのか?」
「遅いというかたまに減ってるって方が正確っすかねー」
「じゃあ今回みたいに食えるのを採取していけばいいのか?」
「やってみないとわかんねっすねー。あちしがやってもいっすかね?」
「頼めるか?」
「いいっすよー。その、代わりといっちゃアレなんっすけど・・・」
「なんだ?」
「キノコの調理方法教えて欲しいっす!お願いするっすよ!」
神妙にするから何かと思ったが、どうやらキノコ料理が気に入ったようだ。
「ははは、それぐらいならお安い御用だ」
調理方法を教える他にもストックしてあった調味料もわけてあげることにした。
何か美味しい食べ方を見つけたら是非教えて欲しい。
「うーむ・・・」
家に帰ってからキッチンで採って来たキノコの残りとにらめっこする。
さっきよりしっかり調理できるので気合入れてやろうかと思ったのだが、どれがどの味か覚えきれない。
同じ青いキノコでも赤くなるやつもあれば黄色くなるのもある。
「リスト化しますか?」
「覚えるまでそうした方がいいなこれは」
キッチンから離れた場所からサチが俺の様子を見ながら聞いてくる。
柄の部分だけ食べるなら大丈夫なのだが、そのままの姿のキノコや刻んでない傘の部分を見るのに抵抗があるらしく、こっちまで来られないようだ。
アンナマリカは調理の様子を見ていたが、サチは見られてなかったし、無理に見させるつもりもない。
ただ、いずれキノコを食べるのを広めるとするなら苦手と思わなくする方法も考えないといけない。今後の課題だ。
とりあえず今のサチには加熱した時の色の変化と味を伝えてリスト化してもらう。
「出来ました」
「助かる」
そう言ってパネルを飛ばしてくれる。便利。
パネルを見ながら今日作る料理に合わせたキノコを数本選び、調理に移る。
ちなみにサチから先ほど作ったシイタケ出汁のキノコ麺スープのリクエストがあった。気に入ってもらえたようで嬉しい。
よし、今日は出来るだけ見た目をキノコから遠ざけたもので作ってみよう。
・・・結果。
「うぅむ・・・」
微妙なものが一杯出来てしまった・・・。
味は海産物なのに食感がキノコというのが難しいなやっぱり。
サチは美味しいと言ってくれたが俺は納得できなかった。
醤油があればもっと安定して作れるのかもしれないが、それに頼ってしまうのもよくない。
精進あるのみだな。がんばろう。
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