観光島視察を終えて
「筍ですか?」
「うん」
サチがいない間料理を楽しんでもらっているが、自然と俺とヘリーゼ、そして案内人の三人で話す構図になっていた。
「ここの筍を使って何か料理出せたらいいかなって思って」
「ソウ様、それってもしかして・・・」
「うん、竹の苦手意識改善も兼ねてる感じ」
「あ、ありがとうございます」
まぁこれは建前で実際のところは俺が単に筍料理が食べたいだけなんだけど。
「それで、実は筍と醤油の相性がいいわけなんだが・・・」
ヘリーゼに視線を向けるとはっとして俺の意図を汲み取ってくれる。
「及第点をいただけるようがんばります!」
「出来栄えを見る限りだとちゃんとした醤油が出来るのは時間的に観光島に人が来るようになった後になるかな?」
「そうですね、それなりの時間を要すると思います」
「短期間で最低限の形にしただけ凄いから、あとはじっくり質を高めていって欲しい」
「わかりました」
正直なところ今の出来の悪い醤油でも使い方次第で十分料理に使えるとは思うが、折角技術力のある人達なのだからどこまで出来るか見てみたいというのがある。
それまで醤油がない事に我慢しなければならないがしょうがない。うん、我慢だ俺。
「ではショウユが出来上がり次第こちらで筍と共に推していけばいいですか?」
「うん、俺からも料理の提案をするから頼めるか?」
「はい。これもソウ様の言う新鮮さの一つに出来そうですね」
「ははは、そうだな、よろしく頼むよ」
「了解しました」
これでちょっとは竹林に興味を示してくれる人が増えればいいなぁ。
竹製の器とかも提案したほうがいいかと思ったが、空間収納があるし、もし必要に感じたら自主的に作るだろう。
「ところで食料研究士って何人ぐらいいるんだ?」
「えっと、今のところ十五名です」
「結構いるな」
「兼業している人が多いので今のところ料理愛好者という認識の方がしっくり来るかもしれません」
「なるほど。それなら次第に増えていきそうだな」
「そうですね。正式に認可が下りましたら改めて区分けをしたいと思っています」
「そうか。醤油作りは全員でやっているのか?」
「いえ、顧問と面識のある数名だけで、それ以外の人はルミナテース様と共に食材探しなど行っています」
「ふむふむ。じゃあ一つ食材探し頼めるかな」
「なんなりと」
「食えそうなキノコを探して欲しいんだが」
「え・・・」
そう言った瞬間二人の顔が固まる。
「ん?」
「ソウ様、確認したいのですが、キノコというのはあのキノコですか?」
「あのがどれか分からないんだが・・・あぁ、ありがとう。そうそうこれこれ」
案内人が気を利かせて画像を見せてくれる。
俺の知ってるキノコとはやはりちょっと色や形が違うが何となくキノコっぽいのはわかる。
「これを食べるのですか?」
「うん。あぁ、勿論食えるやつだけね。浄化できるとはいえ不味かったり具合が悪くなるものは食べないぞ」
「あ、はい・・・」
「大丈夫か?」
「すみません、あまりの事で考えが追いつかず・・・」
ヘリーゼの顔が明らかに青ざめている。
「こっちのキノコってそんな認識なの?」
「そうですね、竹に似た認識と思って頂けると分かりやすいかと」
「あー確かに直ぐ増えるし見た目もちょっとアレだから食材として見れないのか」
「そうですね」
そうかー。醤油があればキノコとか美味く食えると思ったんだがなぁ。
苦手な人は苦手だし、頼むのは酷か。
「すまん、俺の認識不足だった」
「いえ・・・」
あー・・・どうしよ、意気消沈させてしまった。参ったな。
「ちなみにヘリーゼは料理のどこが好きになったんだ?」
「え?えっと、そうですね・・・果物の食感や甘みが好きです」
「甘い物が好きなんだな」
「はい、果肉の入ったシャーベットが好きです」
「なるほど。こっちに蜂蜜ってあるのか?」
あるかどうかわからないので俺の知ってる蜂蜜の知識を教える。
「そんなものがあるのですか」
「蜂蜜がこっちにあるかどうかわからないが、砂糖以外にも木の樹液とかの甘味料がきっとあると思う」
「なるほど・・・」
「食材研究士として探してみる気ないか?漠然としてるが、長期的な目的としてどうかな」
「いいですね!やってみたいです!」
「よかった。じゃあ頼むよ、もしかすると顧問が何か知っているかもしれないから、皆と協力して何か見つかったら教えてくれ」
「わかりました!頑張ります!」
・・・ふぅ。
これでなんとかやる気を取り戻してくれればいいな。
キノコは個人的に探しに行くか。サチに苦手じゃないか聞いてから決めよう。
「戻りました」
若干すっきりしたサチとしょんぼりしたルミナが戻ってきた。
「随分しぼられたようだな」
「はい・・・。あ、ソウ様、挨拶が遅れました。ご無沙汰してます。ヘリーゼちゃんも先日ぶりー」
サチの説教が堪えたのか声に覇気がない。
ルミナをここまで減衰させるとは相当腹に据えかねたのか、色々の蓄積なのかわからんが、とりあえずサチを怒らせるのはやめようと心に誓う。
「ひとまずルミナテースから経緯を聞きました。食材研究士については従来通り実績待ちの仮認可状態になりましたので頑張ってください」
「はい、ありがとうございます」
「醤油に限らず何か提示できれば認可は下りるので、難しく考えすぎずに」
「あ、はい」
「ごめんねー」
ルミナが謝っているところを見ると強く焚き付けすぎたんだろうな。
「観光島については後ほどまとめて連絡します」
「了解です」
「さて、業務連絡はこのぐらいにして残りの料理を出してしまいましょうか」
そう言って空間収納から作った料理の残りを出して並べていく。
「ルミナテースも折角来ているので一緒にどうですか?」
「え?いいの!?」
「ソウの許可があればですが」
そういうところだけ俺に許可求めるのはずるいと思うんだけど。
「今度から気をつけるならいいぞ」
「はい、肝に銘じておきます。えへへ、サチナリアちゃんありがとー」
やれやれ、これでやっと全部丸く収まったかな。
人が増えるとどうしても問題やトラブルが増えてしまうが、それでもこうやって皆で企画を考えたり食事を楽しむのは良い。
観光島でそう思ってくれる人が増えてくれるといいなぁ。
「今日の観光島はどうでしたか?」
「んー、そうだなぁ」
風呂に入りながら今日の事を振り返る。
「いいところ、すごいところ、期待したいところ、改善したいところ、色々なものや人が見れてたって感想かな」
「なるほど。では改善点を伺ってもいいですか?」
「サチならやっぱりそこが気になるか。観光車両については座布団と膝掛けの事は言ったよな」
「はい。念があればあまり気にならないとは思いますが」
「そこだ」
背中を預けていたサチの顔がこっちを向く。
「今の観光島は念が使えるという前提で進んでるんだよね。要は子供や天機人みたいに念が得意でない人に対しての配慮が甘い」
正直なところ、このような様々な人が居るというのを前提に色々考えを進めている点だけを言えば下界の方が進んでいると思う。
「確かにそういう方々に対しての配慮不足があったかもしれません。しかし全ての人に対応するのは難しいのではないでしょうか」
「そうだな。だから今日の彼みたいな案内人を何人か用意してみてはどうかな」
「案内人ですか」
島外と行き来する広場に簡単な島内のガイドをする歓迎人とは別に更に補助要員として人が欲しいと思った。
前の世界じゃ案内板やらサービスセンターやらある他にもこれでもかと言うほど過剰なサービスをしていたが、それでも問題は起きる時は起きる。
「あ、そうだ、この案内人の仕事を警備隊の新人研修の一環にしてみたら色々な経験を積めるんじゃないか?」
「なるほど、確かにいい案かもしれませんね。検討してみます。他には?」
「やっぱり料理関連が遅れてる感じがあるなぁ」
「ルミナテースに聞きましたが、難航しているようです」
「やっぱりそうか。食材研究士の事もやってたって事もあるんだろうな」
「そのようです。まったく困ったものです」
困ったものと言うものの、やれやれと言った感じで怒りがぶり返す様子はない。
サチが怒ったのはちゃんと連絡を入れなかった事で、ルミナが新事業に助力した事については一切怒ってないんだよな。
「とりあえず種類を少なくして提供場所を複数に分散させればいいんじゃないかな」
「それでいいのでしょうか」
「いいと思うぞ。例えば移動前に見かけた時は何とも思わなかったが、しばらくすると思い出して手に取るっていう事がある」
「そういえば下界の和人族の城下町もそのような配置をしていましたね」
「そそ、視覚や聴覚に一瞬でも入れるってのがポイントだな」
「なるほど。参考にしてみます」
参考にする、か。
今回の観光島で感じたのは下界の知識がある程度反映されているところだ。
天界、下界と区分けせず、良い技術や知識は柔軟に取り入れようとするサチの姿勢はとても好ましい。
「今度はサチと二人でゆっくり見て回りたいなぁ」
「二人でですか・・・。それなら邪魔が入らないようにしたいですね」
「変装でもすればいいんじゃないか?」
「変装・・・面白そうですね!」
あの、急に立ち上がらないでもらえないかな。お湯が顔にかかるんですけど。あと視界が尻だけになったぞ。
まだ次観光島行く予定も立ってないのに気が早いとは思ったが、サチが楽しそうなので付き合うことにした。
あのな、変装つっても逆に目立つような服装はダメだぞ。似合ってるけど。
渋い顔するんじゃない。次出して次。
・・・こりゃ変装服決めるのに時間かかりそうだ。
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