観光島視察
下界の商人のところの奥さんのおなかが一段と大きくなっている。
そろそろ産まれそうかな。
そう思っていたら数日後に無事娘を出産した。おめでたい。
商人から感謝と娘の安全祈願が届いているが、娘が信者になってくれない限り俺は何もしてやれないから大事に育てるんだぞ。
しかしこうやって見ると下界の時間の流れは早く感じる。
気付けば森の村の祭神役の子も女性らしくなってきた。将来美人になる片鱗が見始めてきている。
行商人だった商人も今やすっかり草原の街で安定した店経営をしている。娘も産まれた事だし更に気合が入りそうだ。
月光族の商会の女主人は今日も忙しなく働いている。行商人の兄妹も一緒だ。
魔王から貴族階級を得たのに手を休めるつもりはなさそうだ。根っからの商人なんだろう。
オアシスの街の勇者の末裔夫婦は相変わらず仲睦まじく、自然と周囲に惚気ている。
そういうのを見て嫉妬する人も出はするものの、すぐさま斡旋所が裏で動いて相手を見つけ、自然とペアにして嫉妬心を解消している。
こういうところがこの街に人が来る魅力なんだよなぁ。一人身だったら行ってみたくもなるだろうな。
オアシスの街はオアシスだけを観光資源にせず、街全体を観光資源とする上層部の運営手腕は本当に凄いと思う。
和人族の城下町は相変わらず動物神達が上手く管理しているようだ。
きっかけになってくれた和人族の夫婦はまだ街に滞在している。
ただ、武具の手入れを欠かしていないところを見るとそのうちまた冒険欲が出そうだ。
北の領は月光族の商会のおかげで大分復興してきており、街の賑わいも戻ってきている。
領主はまだ女主人の事を諦めていないようで、事あるごとに求婚しては足蹴にされているのを見かける。
中央都市については未だ謎の違和感を感じるものの、魔王に対しての危険意識は大分下がった。
普通にいい父親しているしな。人を見る目もある。今のところ大きな問題を感じない。
こうやって色々な場所を眺めるのはいつやっても楽しい。
楽しく感じられるのは人の笑顔が多いからかな。
この笑顔が長く続けられるよう俺も頑張らねば。
「ソウ、観光島についてなのですが」
「お?」
「細々したところはまだですが、大まかな部分は完成したのでそろそろ案内しようかと」
「おぉ!」
早いな。もっとかかると思ったが、さすが天界の人達だな。
「それで、ソウには二つお願いが」
「ん?」
「島にはまだ関係者しかいないので、気付いた点や改善案があれば遠慮なく言ってください」
「あいよ」
「もう一つは作ってある料理を皆さんに振舞いたいのですがいいですか?」
「勿論。足りそうか?時間がまだあるなら追加で作るぞ」
「その方が良いかもしれません。すみませんがお願いします」
「了解。じゃあまずは家に帰ろう」
「はい」
早く見に行きたい気持ちは強いが、作ってくている皆にも何かしたい気持ちもある。
よし、ぱぱっと作ってしまおう。
観光島付近に転移後、サチに抱えられて島の上空に到着する。
「おぉ・・・」
上空から見ると島は召還したての頃と違い木々が生い茂っている。
そして何より他の島と違う雰囲気が強い。
基本的に浮遊島には最低限の建物しか無いのだが、ここには様々な建物が建っている。
「どうでしょうか」
「うん。ちゃんと景観を損なわない建物作りがされていていいな。歩道も良い」
歩道は二種類あり、石畳のものと土のものの二つ。
石畳の歩道は島の見所全てに通じているのでこの道を歩くと自然と島の観光巡りが出来るようになっている。
島には竹林や山の他に花畑や池もあり、四季島とは違った見所が一杯出来ている。
「それで、あれが線路か」
「はい」
恐らく島を上から見たら誰もが最初に気付くのがこの線路だろう。
島に大きな輪を描くように敷かれているが、まだ車両は走っていない。
まだ調整中なのかな。今日乗れるといいんだが、無理は言わないようにしよう。
それにしてもこの線路、俺の知っている線路とは大きく違うんだよなぁ。
是非担当者に詳しい事を聞いてみたい。
そんなわけでサチ、そろそろ皆のところにお願いしたい。
あれ?島とは別の方向に飛んでいくけど何故?
あ、転移で行くのね。登場方法は大事と。了解。
転移先の広場には大勢の人が出迎えてくれていた。
なんでも俺が来ると知ってわざわざ作業の手を休めて来てくれたらしい。ありがたい。
出迎えの人達に挨拶を交わしてから案内されるがまま建物の中へ。
「こちらが車両になります」
「おぉ・・・」
案内された建物の中は駅になっており、三両の屋根の無い車両が線路の上に置いてあった。
「こちら先頭から観覧車両、飲食車両、多目的車両となっております」
「ふんふん」
先頭の車両は進行方向へ向かって椅子が並べられており、前の世界の旅客列車の席と同じだ。
飲食車両は飲食店のように机を挟んで対面で座るようになっているのだが、一つ気になる点が見つかった。
「これコタツか?」
「はい。島内を一周するとそれなりの時間がかかりますので、くつろげるようにするために半分はそのように致しました」
「なるほど」
ただコタツを配置するのではなく、一段高くした座敷の中に堀炬燵が作ってある形だ。
たぶんアズヨシフの技術を参考にしたと思うのだが、このようなところで目にするとは予想外だった。
そして最後の多目的車両には机や椅子は配置しておらず、何も無い車両になっている。
「多目的車両は予備車両で、必要時に応じて変化させようと思っています」
「いいね」
実のところこういった予備を用意してあるかどうかが重要だったりする。
特に今回の観光島企画は初の試みなので何が起きるかわからない。
車両に収容しきれない人数が来たり、故障が起きたりすればこれの出番が来るだろう。
運営に余裕が出てくればこの車両を使って催しも出来るかもしれないな。
しかしなんというか凄いなこの車両。
「木製なんだな」
「はい。一部金属は使用していますが大半は木材で製作してあります」
この三両の車両はほぼ全て、車輪や車軸、四隅なども木で造られている。どこに金属が使われているかわからないぐらいだ。
「この線路と関係があるのか?」
「それもありますが、木材の方が材料調達や加工、修繕が容易なのです」
「強度は大丈夫なのか?」
「もちろんです。念を利用して特殊な加工を施してあるので金属より硬質ですよ」
そう言って案内してくれている人が車輪を棒で叩くとキンキンと金属音に近い音がした。
なるほど、見た目こそ木材だが加工次第で金属より丈夫に出来るのか。勉強になる。
「線路についても教えてくれるか?」
「はい。こちらの線路は同じように強化加工した木の板を使い、板と板の隙間を車輪が走るようにしました」
俺が知っている線路というと金属のレールを二本敷いてその上を走るイメージだったが、ここの線路は平坦な板に溝を作って走らせるようにしてあった。
そういえば踏み切りや路面電車がこんな感じだったっけ。思い出すと少し懐かしくなる。
それともう一つ線路で気になっているところがある。
「この木の板の下に空間あるよな」
「よくお気付きで。板の下には水を流して木の葉などが詰まらないようにしてあります」
「なるほどー」
色々考えてあるなぁ。
しかし水路を作ってあるなら船でもいいような気もしてくるが、そんな事言い出したら飛べばいいだろうという事になるので言わない。
ただ、折角あるのだからこれを利用して催し物はできるんじゃないかな。
うん、少し考えただけでも幾つか案が出てくるな。完成後に提案してみようかな。
「他に質問が無ければそろそろ出発したいと思います」
「あ、うん、よろしく頼む」
つい目新しい技術が気になってあれこれ聞いてしまった。
そろそろサチが我慢の限界っぽいし、早いとこ出発するとしよう。
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