アルテミナの相談

「そういえば今日はアルテミナの強襲がないな」


「あぁ、それは私が上手く見つからないように誘導したからですよ」


「そうなの?」


「えぇ、珍しく歩き回る事になったので、出会って時間を取られるのも良くないかと」


「そうだったのか。ありがとうな」


「いえ、しかし・・・」


サチがそう言った瞬間猛烈な速度でこっちに何かが突っ込んで来た。


「見つけましたわよーーー!」


「あー・・・」


あーそうか、用事が終わって歩くのやめたから特定されちゃったのか。


「はー・・・はー・・・や、やっと見つけましたわよ・・・サチナリアさんとその神さ、おえっ」


おい、俺のところで吐きそうになるんじゃない。


「お疲れのようですし、行きましょうか」


「そうだな」


「お待ちになって!」


踵を返そうとしたらスライディングしながら俺とサチの足首を掴んできた。正直怖いレベル。


「いったい何なのですか」


「今日は、ちょっと、相談したい事が、ありましてよ」


息絶え絶えになりながら言うアルテミナはやはり気持ち悪かった。




「落ち着いたか?」


「えぇ。この通り」


うん、さっきのような雰囲気は無くなりいつもの無駄なエレガントさが出ているな。どっちでも鬱陶しい雰囲気なのは同じだ。


「それで大事な話というのはなんですか?」


「実は・・・」


「実は?」


「実はハティちゃんのプレゼントが決まらないのですわ!」


そう言って高笑いのポーズを決める。


「・・・行くか」


「そうですね」


「待って!待ってくださいまし!」


再び踵を返そうとすると凄い速さで腰を掴んで擦り寄ってきた。あーもー鬱陶しい奴。


「何なのですか。贈り物ぐらい自分で決められないのですか?」


「そうではありませんの。ひとまずお話だけでも聞いてくださいまし」


エレガントさのかけらも無い格好な上、地味に強い力で掴まれていて動けないので仕方なく話を聞くことにした。


「つまり自分のところの神にハルティネイアがプレゼントをしたいのだが何が良いかわからないと」


「仰るとおりですわ」


最初アルテミナがプレゼントをするのかと思ってたがそうではなく、少年神へのプレゼントか。


「私こう見えて殿方とあまり接点がありませんの!」


そんな自信満々に言うんじゃない。褒めてないから高笑いするな。


「それで、俺にどうして欲しいのさ」


「殿方が貰って嬉しい助言を頂けると幸いですわ」


「男が貰って嬉しいものねぇ。相手はあの子だろ?うーん・・・」


一見子供だが神としての経歴は結構あるようだし、その気になれば欲しい物は自分で手に入れられてしまうのではないだろうか。


そうなると嬉しいものは物品ではなく気持ちや行動になってくる気がする。


「うーん、それではちょっとパンチが弱い気がしますわ。あ、お手紙とか如何ですか!?」


「手紙か・・・。アルテミナが贈るならそれでいいかもしれないが・・・うーん」


「どうして私ですと問題ないのですの?」


「大体この手の手紙は後から読み返すと恥ずかしくなるからな。大事に保管されて事あるごとに出されたらどうだ?」


聞くと少し考えたあとビクッと体が跳ねる。


「っ!!と、とても素晴らしいですわ!」


素晴らしくない。そう思うのはお前だけだ。息荒くして身悶えるんじゃない。


とにかく手紙はやめておいた方がよさそうだ。


「手料理はどうでしょうか」


「料理か。そういう習慣はあるのか?」


「ありませんわね。必要ありませんもの」


悶えている状態から急に普通に戻るのやめてくれないかな。心が付いていかなくて大変だから。


「うーん。何か好きな事とかないのか?」


「そうですわね。お昼寝するのが日課ですわね。あ!聞いてくださいまし!あの子ってば寝顔がとてもチャーミングで!」


だからいきなりアクセル全開になるな。あー耳栓が欲しい。


「わかったわかった。じゃあその線で何か喜びそうなことがいいな」


「あ、添い寝は無理ですわよ。私の最重要なお仕事ですので」


「最重要て。ただ譲りたくないだけだろ」


「そうとも言いますわ!」


「はいはい。じゃあ膝枕あたりならいいんじゃないか?アルテミナはそのまま添い寝してりゃいいから」


「なるほど、それなら問題ありませんわね。参考に致しますわ。ご意見ありがとうございます」


そう言ってドレスを開いて丁寧に礼を言ってくる。こういうところはエレガントなのになぁ。


「お姉様ー!」


「それでは私はこれにて失礼させていただきます。この事はくれぐれもご内密にお願い致しますわ」


「あいよ。二人によろしく伝えておいてくれ」


「勿論。それでは」


そう言ってアルテミナはハティの声のする方へ早足で向かっていった。


あんなドレスでどうやって早く移動できるのか不思議だがあいつなら何でもやりそうな気もする。


「はぁ・・・。まるで嵐のような人ですね」


「そうだな、少し休憩しよう」




休憩していると犬と猫の二神が来て地に頭を擦りつけるぐらい謝られた。


別に今回の魂の件は二人のせいじゃないだろうに。


とりあえず色々大変そうだったので労いを込めてブラッシングしたらとても喜ばれた。


その後も色々な神と交流したが、結局魂を流出させた世界の神は俺の前には現れなかった。


「むー」


「そう怒るなって。直後に連絡は来てたんだろ?」


「それはそうなのですが、それには謝礼の内容はありませんでした」


「一斉に連絡したならそういう内容でも変ではないだろ。きっと他に顔出すところがあって俺のところまで来る暇なかったんだろうて」


「そうなのでしょうか」


「来たら来たで話をすればいいし、来なかったらそれはそれでそういう関係でいいんじゃないか?」


「むぅ・・・」


「それに神なんて立場になるとなかなか謝ろうと思っても行動に移せなくなったりするから。察してやれ」


「・・・うちの神様はあっさりやってのけてしまっている気がしますが?」


「ははは、俺は俺だからな。偉い立場という感覚もないし」


「少しは自覚して欲しいと思うのですが」


「難しいなぁ。ただでさえ後釜でなった元人間だし、今も皆に支えられてやっていけてる感じだし、偉ぶる要素がないな」


「はぁ・・・まったく。では今日はそろそろ帰りましょうか」


「そうしよう」


「今日は色々お疲れ様でした。帰ったら何か労って差し上げます」


「お、じゃあ膝枕がいいな」


「好きですねぇそれ」


「あれはいいものだ」


そのまま膝枕の良さを語りながら帰路についた。


案内鳥が興味深そうに聞いていたが、脚が無いから役に立たない情報だと思うぞ俺は。

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