情報館製クッキー

下界には変な魔法がかなりの量ある。


戦闘はもちろん、日常生活でもあまり使わなさそうなよく分からない用途の魔法がリストに結構な量記録されている。


異世界の勇者が来てあれこれ新たに模索した結果なのかもしれない。


そんな中気になる魔法がリストの中にあった。


ヤタカ、ヤッティカなどヤで始まりカで終わる魔法だ。


効果はどれも同じで、敵を一時的に死ななくするという。


・・・これ、今でこそ名前が派生して色々変化しているが、元はヤッタカって名前の魔法で、勇者が作ったやつだろう。


前の世界でこれを言うと倒していないというある種のお約束みたいなものがあったが、それを逆手に取って作ったんじゃなかろうか。


どういう使われ方したか何となく想像できるが、今はこれを魔法としてちゃんと使える人はいない。


派生した似たような名前の魔法も作られたが、燃費が悪すぎたりして実用しうるものにはならなかったようだ。そもそも対象が敵だし。


下界にはこういう作られたが使われなかった魔法がごろごろ残っている。


神の立場からすると、そのまま使われていないで風化して忘れ去られてくれた方がうれしい。


正直使い方次第で世界のバランスを崩しかねないものがちょいちょいある。


このヤッタカも使い方を誤れば非人道的な事も出来てしまうからな。


既に記述されている書物などの居場所も特定できているが、無駄に波風起こしたくないので特になにかするつもりは今のところない。静かに風化するのを見守るつもりだ。


ま、今の下界の人達を見ると悪いように使う事はないか仮にあっても自浄作用がちゃんと働くだろう。


しかし、ヤッタカか・・・。


面白い発想で魔法作る人がいたんだなぁ。




「それではよろしくお願いします」


「かしこまりました」


「ソウ、皆さんの仕事の邪魔をしないようにしてくださいね」


「わかってるわかってる」


そう言ってサチは転移して行った。


観光島の関係で今日も一緒にはいられないのは仕方ないし、俺が暇しないよう家以外の場所に連れて行ってくれるのも助かるが、子供を預ける時みたいなやり取りをするのは勘弁して欲しい。


「では主様、参りましょう」


「うん」


アリスと共に石畳を歩く。


今日の俺の託児先は情報館になり、到着と共にアリスが出迎えてくれた。ありがたい。


「いらっしゃいませ」


情報館に入ると皆が一斉に出迎えてくれる。


わざわざ仕事の手を休めて迎えてくれるのは嬉しいが、申し訳ない気持ちにもなる。


ただ、それは思っても口には出さない。彼女達の誠意を無下にしてしまうからな。


いつもの来賓室に通されると結構な人数のメイド達が待っていた。


どの子も見たことが無いし、容姿が皆一緒だ。


「主様、お手を煩わせて申し訳ありませんが彼女達に名前を付けていただけないでしょうか」


「了解」


彼女達は昇格して名前を持つ権利を得た子達か。


そういえば最近やってなかったな。


幸いにも今日は時間がある。じっくり名付けさせてもらおう。




「ありがとうございます」


最後の子がお辞儀して戻っていく。


「ふー・・・」


「おつかれさまです」


横で補佐してくれたアリスが労ってくれる。


正直かなり難航した。いつもだけど。


ある程度人数をこなしてくると同じ名前にならないようにするのが大変だな。


その辺りはアリスがサポートしてくれるのだが、いかんせん個性が表に出難い状態の天機人なので直感で付けるにも限界が出てきてしまう。


だからといって変なの付けるわけにもいかないし、下界を見ているときより疲れる気がする。


椅子にぐったりともたれ掛かっているとアリスがお茶を用意してくれる。ありがたい。


「これは?」


「私達で作ったクッキーです」


「おぉ、作れるようになったのか。頂いていいかな?」


「どうぞお召し上がりください」


皿に置かれたクッキーに手に取る。


俺が手作りしたより成形が綺麗だ。さすが天機人といったところかな。


味はどうかな?


・・・ふむ・・・ふむ・・・うーん、味が凄く薄い。


ただ、俺がいつも作るクッキーより噛み応えがあり、バリボリとした食感はこれはこれで良い。楽しくなる。


味が薄いのはこの食感を重視すると作る上で焦げたりして失敗してしまうからかもしれないな。


「いかがでしょうか」


少し心配な様子で聞いてくるアリスに淹れてくれたお茶を一口飲んでから答える。


「甘い飲み物か甘く出来る飲み物をもらえるかな」


「かしこまりました」


手早く淹れてくれた別のお茶を口にすると強めの甘みが来る。


うん、いいね。


「うん。美味い」


「ありがとうございます」


ホッと一安心した様子のアリスを見ながら次のクッキーを手にしてお茶と交互に頂く。


結構これ癖になるな。帰りに少し貰っていこうかな。


そんな事を考えていたらアリスが俺の行動を不思議そうな顔をしながら尋ねて来た。


「あの、主様、どうして必ず交互に召し上がるのですか?」


「ん?その方が美味いからだよ」


理解できていなさそうなので実際俺と同じ事をやらせてみた。


「これは!」


いい反応するなぁ。サチがいたら喜びそうだ。


クッキーとお茶を見比べながらこっちに視線で疑問を投げかけてくる。


「クッキーの味が薄いと思ったからね、別の物で補っただけだよ」


「なるほど」


アリス達をはじめ天界の人は食に関しては初心者だから、この辺りの事に違和感を感じなかったり、それに対するテクニックを持ち合わせていないのか。


まぁ基本は優秀だから一つ気付けば後は各々考えて上手くやれるだろうな。


次来た時の事をぼんやり考えていたらアリスが興奮気味に自分のクッキーの皿とカップを持って立ち上がった。


「早速この事を皆に広めてきたいと思います」


「お、おう。わかった」


「何か御用がありましたら、こちらのベルをご利用ください」


「うん、ありがとう」


凄い速さで行ってしまった。


空間収納使えばいいのにわざわざそのまま持っていくなんて、相当興奮してたのか。


なんだかんだでアリスも結構食欲旺盛だよなぁ。

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