偏った能力

動物の中には人と近い場所で生きるものがいる。


猫もそんな動物のひとつだ。


今下界の和人族の城下町の家屋の屋根の上で寝転んでる猫を観察している。


下界にも猫はおり、各街で人と共に生きているが、ここの猫は少し他の街の猫と違っていた。


まず、人と意思疎通が出来る。割と正確に。


そして魔法が使える。初級の強化魔法ではあるが、投げられた魚を空中で三枚に卸すぐらいの力が出せるようになっている。


この二点は他の街では見られず、この城下町の猫だけこのようなことが出来るようだ。


詳しく調べてみると、どうやらここの神が関係している事がわかった。


以前狐を奉っている神社に注目したことがあったが、それと同じように猫の神社が存在する。


そこでは同じように猫の亜人種が神として奉られ、その氏子が加護を受けるという形で魔法や意思疎通が可能になっているわけだ。


ただし、過ぎた力の行使や神社の意志に反する事をすると直属の部下の猫の亜人種により厳罰に処される。


他の動物の神社も似たような感じで、人も動物もその辺りはかわらないようだ。


うん、これなら基本的に俺がやる事はいつもと同じでよさそうだ。


というのも先日の狐の神の信者化から徐々に城下町の信者が増えて行っている。


嬉しいことではあるが、増え方が神社ごとなのと、その神社が奉っている神が俺という神を認知出来ている点が他とは違い、少し気になっていた。


何か特殊な願いごとでもしてくるかと思っていたが、そんな事は無く、むしろ見られているという事を認識したので真面目に働くようになったようだ。


うーん、真面目になるのはいいことだけど、どうも怖がられてるようで少し寂しい。


本当に自分の手に負えない時になったら抱え込まず無理せず願って欲しいと思う。


神が神頼みしてもいいと思うよ、俺は。




そんな頼まれる側の神でも悲劇は襲ってくるものである。


ガッとぶつける音と共に来る強烈な痛み。


「っぁっ!」


小指っ!?


足の小指をぶつけたっ!


「いっつあーー!」


足を押さえながらケンケンしてから床に倒れこみ足を押さえて転げ回る。


痛い!痛い!辛い!早く治れ!


・・・あー・・・痛みが引いてきた・・・。


「はー・・・」


「だ、大丈夫ですか?」


「うん」


ぶつけたところを見ると赤くもならず何も無かったかのような綺麗な状態だ。


「そ、ソウと一緒に居ると本当に飽きないですね」


「うるせー」


心配もせず口に手を当てて震えながら言うんじゃない。


そりゃさ、頻繁に色んなところをぶつける俺が悪いし、その都度楽しそうにしてくれるからいいけどさ、何か負けた気分になるんだよなぁ。


「ぬぅ・・・」


「すいません、怒りましたか?」


「ん?あぁ、ちがうちがう、ぶつけても治りが早いもんだから注意力が散漫になっているのかなって思って」


「うーん、それについてちょっと思う事があります」


「お?」


「私の憶測なのですが、ソウは気が張れていない、もしくは張れないのではないでしょうか」


「どういうこと?」


「ルミナテースが以前言っていた事なのですが、人は生きていると常に気を発しているらしいです。生命波動とかオーラとか話す時によって表現が違っていて私もしっかりと理解は出来ていないのですが、そのような事を言っていました」


「体が放熱してるようなもんか」


「その解釈でいいと思います。人はそうやって気を発する事で周囲の物の位置を無意識に特定して自然と避けたりするらしいです」


「そうなのか。じゃあ俺が頻繁にぶつけるのは気が張れてないってこと?」


「憶測の範囲を越えませんが」


「ふーむ・・・」


なかなか興味深い話だ。


よし、ちょっと色々試してみよう。




試してみた結果、気が全く張れていないということはない事がわかった。


目をつぶった状態で指を近づけて貰ったところ、何かモゾモゾする感覚があったのでたぶんこれがそうなんだと思う。


ただ、サチと比較するとその範囲が非常に狭いため、避けきれずにぶつけてしまうのではないかという結論に至った。


「つまり、単に注意力が足りてないわけだな」


「そ、そうですね、んぅっ」


うん、サチの肌はいつ触ってもすべすべしてて良い。


そして今回の実験で一つ新しい事がわかった。


「はい、逃げていいよー」


「えー・・・どうせまた捕まりますよ?」


「確証を得るための実験だから」


「むぅ」


むくれた声を出しながらサチが俺から離れていく。


少し待ってから意識を集中する。


うん・・・こっちか・・・。


「サチ、飛ぶのはずるいと思うぞ?」


「なっ!?そんな事までわかるのですか!?」


「うん。降りて降りて」


「はぁ、しょうがないですね」


降りてきたのを確認して捕まえてすべすべする。


「どうして目隠ししているのにそんな正確にわかるのですか」


「さぁ、俺もわからん」


サチのあちこちを撫で回しながら新しく分かった事について考える。


どうも目をつぶろうが目隠しをしようがサチの位置だけは正確に捉える事が出来るみたいだ。


同時にサチのいる場所へ向かう時だけは物の位置も把握できるようで、ぶつかる事無く辿り着く事ができた。


ちなみにサチには逃げ回ってもらい、捕まったらすべすべされるという簡単なゲーム感覚でやってもらった。


最初は意気揚々と絶対無理みたいな事を豪語していたが、さすがにこう何度も捕まると諦めてなすがままになってきた。


「前の転移の時もそうでしたが、どうして私だけ分かるのですか」


「俺もよくわからん」


何となく思い当たる事はあるが、言うだけ野暮だと思うので言わない。気付いた時が可愛いと思うし。


「はぁ、とりあえず大体の事は分かったので実験は終わりでいいですか?」


「うん」


「・・・離してはくれないのですね」


「うん」


「・・・」


「・・・」


「ソウ、ここは落ち着いて話し合いで決めましょう」


「いいけど、決まるまで継続するぞ」


「それでは同じではありませんか」


「そうとも言うな。大丈夫、ちゃんと休憩も入れる」


「どうせ休憩中も離してくれないのでしょう?」


「よくわかってるじゃないか」


「何で今日はそんな積極的なのですか」


「なんとなく?ほら、最近出かける日が多かったからじゃないかな?」


「む・・・確かに観光島関連で家を空ける日がありましたが、帰ってきてからは普段と同じだったではありませんか」


「そうだな」


「・・・はぁ。もうわかりました、好きにしてください」


「本当に嫌になったらやめるのでちゃんと言うように」


「はいはい。・・・そんな事無いと思いますけどね」


嫌々な素振りをみせながらもなんだかんだでサチも乗り気だ。


さて、今日は頑張るぞ。


否応なしに己の気持ちを再確認させられたからな。


その気持ちに正直になろうと思う。

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