二神の頼み事

「お疲れ様です」


「うん。ってなんでそんな格好してるのさ」


俺を含めた野郎共の会話が一段落したところにサチが来た。メイド服で。


「情報交換している間に服装の話になりまして。でしたら皆さんで着てみようという流れになったので」


そう言って長いスカートの裾を持って挨拶をする仕草をする。うん、優雅でいいな。


周りを見ると他の神のお供の人達もメイド服になっている。


後輩神のところはショートスカートタイプか。


スカートの長さが気になるようで恥ずかしそうにしている。いいぞ。


刀傷の神ところは・・・あぁ、奥さんが着てるのか。和テイストにアレンジされててあれもいいな。


あーあ、凝視して固まってやんの。あいつホント愛妻家だな。


糸目の神のところは・・・なんで男にまで着せてるんだよ。


確かに線が細くて女装もいけそうだけど、しかもよりによってショートスカートの方を着せてるし。


左右の二人の女性のお供はその様子を楽しそうにほくそ笑んでる。確信犯か。


そして糸目の神がしゃがんで下から覗こうとしたのがトドメとなり走って行ってしまった。


ほら、早く追いかけろ、可哀想だから。うん、また今度な。うん、いいから早く行け!


あ、刀傷の神は奥さんが引き摺って行くのね。またなー。


後輩神も他の神のところに行くようだ。がんばれー。


「皆行ってしまったな」


「そうですね」


視線が一周して目の前のサチに戻ってくる。


「うん。うちのが一番いいな」


「なっ、褒めても何も出ませんからね」


照れる様子で更に最高だな。すばらしい。


「オーーーホッホッホ!!」


あー・・・きちゃった・・・。


サチに気を取られている隙を狙ってきやがったか。おのれ、俺の幸せな時間を返せ。


「相変わらずうるさい奴だな。ってなんて格好してんだよ」


「私もサチナリアさん達に倣って着替えてみましたのよー!」


高笑いするアルテミナの服装はいつもと違ってメイド風になっていた。


メイド風と言うのはなんというか、色々な部分が露出していたり、スリットが入っていたりして、夜のオアシスの街の人が着ていそうなデザインになっていたからだ。


元々スタイルがいいアルテミナが着るから似合ってはいるのだが、こぅ、なんというか・・・。


「痴女が現れました」


「露出芸人っぽい」


「辛辣!?」


なんか雰囲気やリアクションが面白に行ってしまっているからか、色気を感じない。


こういうのがいいっていう若い男子もいそうだが、俺は間に合ってる。お引取り願いたい。


「また自分のとこの神を置いて来たのか」


「ハティちゃんが付いていますから問題ありませんわ」


そう言って再び高笑いを始めるが、その背後にはハティと少年神が到着している。


ん?あぁ、来たことは内緒にするのね。わかった。


黙って様子を見ていると少年神はハティと示し合わせて同時にアルテミナの尻を思いっきり引っぱたいた。


「あひぃっ!?」


それはもう見事な音が鳴った。いい尻してる証拠だな。


「こんにちは、おにいちゃん」


「御機嫌ようですわ」


「こんにちはー」


尻を突き出してくの字に倒れこんでいるアルテミナを置いて挨拶してくる二人に俺も挨拶を返す。


あ、サチはちょっと待ってくれる?今笑いのツボに入って呼吸困難になってるから。


「し、失礼しました。・・・くふっ」


何とか体勢を整えるも視界の端にアルテミナが入るとどうしてもダメだな。たまに痙攣してるのが卑怯だと思う。


「ほら、ハティちゃん、やっぱりこっちがふつうだよ」


「そうみたいですわね」


少年神とハティがサチのメイド服を指差してなにやら話している。


「どうした?」


「んとね、ハティちゃんがうらやましそうにみてたんだけど、おねえちゃんがきたのはきにいらないっていうの」


「べ、別に羨ましそうに見ていませんわよ!」


「ふむ。着るなら可愛い系が似合うと思う。色は暖色系いいんじゃないかな」


「・・・着て欲しいんですの?」


「ん?うん。着てくれると嬉しいかな」


「し、しょうがありませんわね、神様にそこまで言われてはお断りするわけにはいきませんわ!お姉様!いつまでも寝転がってないで手伝ってくださいまし!」


そう言って少し離れた場所まで寝たままのアルテミナを引き摺っていく。容赦ないな。


「ありがとう、おにいちゃん」


「どうしたしまして。姉妹揃って癖の強い性格してるな」


「そこがふたりのおもしろいところだよねー」


そう言ってニコニコしながら相談している二人を眺めている。少年神の器の大きさを感じる。


「おにいちゃん。かみさまのおしごと、たのしい?」


「ん?うん。楽しくやれてるよ」


「あきたりしない?」


「今のところそういうのは無いかな」


「そっかー」


「気に掛けてくれてありがとな」


「んーん。あ、きがえおわったみたい」


赤とピンクを基調としたハティとアルテミナがこちらに向かってくる。


「ど、どうですか?」


「うん!かわいいよ!ハティちゃん!」


フリルやリボンが多く装飾に使われていてメイドとしての機能美は若干薄れたが、その分ドレスとしての優雅さがあってこれはこれでいい。


「似合ってるぞ。アルテミナが用意したのか?」


「そうですわ!」


「やるじゃないか」


「私の手にかかればこのぐらい朝飯前ですわー!」


そう言ってまた高笑いをする。これさえ無ければ普通に優秀な人なんだけどなぁ。




神々の会合は次々に人と会うのでなかなか大変だ。


だが、そんな中でも癒しの時間があるのは助かる。


「兄貴!もう少し右だ、そこ!そこがいい!」


「まだまだ甘いの、犬の。こうやって自分を動かせばおにーさんも楽じゃろうが」


会合での癒し、それは犬と猫の二神のブラッシングの時間。


すっかりこの構図が定着してしまい、通る他の神から視線を集めることにも大分慣れた。


今日はサチにお供の犬と猫は任せ、二神は俺に話があるということでつきっきりでやる事になった。


「で、話ってなんだ?」


「あぁ、そうだった。兄貴のところは今異世界の魂の受け入れをしてないよな」


「ん?うん、前に一度流れてきたことはあったが、基本的にはしてないな」


異世界の魂というのは俺のところ以外の神の管轄に存在していた魂のことだ。


生あるものは死ぬと一度神の次元に来て、魂の精査を受けて再び転生するというシステムになっているらしい。


魂の精査で生前の魂の良し悪しが調べられ、次何に転生するかが決まる。


良ければ生前以上、悪ければ生前以下に生まれ変わる。大半は同じものに転生してるみたいだ。


基本的にこの流れは自動化されており、特に俺が何かしなければならないということは無いとサチから聞いている。


ただ、この自動の流れから除外される魂が稀に出現する。


そうやって除外された魂は次元を移動し、受け入れ先の神の元で転生をする。


俺やこの前の迷い人もそうやって別の次元から移動してきた魂の一つだった。


ま、俺の場合、転生せずに神に代替わりしてしまったわけだが、そういう異例なことも無いことは無いらしい。


「再開するつもりはないかの?」


再開。つまり前の神がやっていた異世界の魂を呼び寄せて転生させるということを俺はしないのか、ということ。


「うーん・・・」


正直言って乗り気にならない。


神力も使うし、今のところ下界は安定しているから異世界の者の力を借りる必要も感じられない。


「兄貴はあの神竜を受け入れたっていう話が広まっててな。だったら大丈夫だろうって言われてるんだ」


「そうなのか。でもまだ俺には荷が重いと思う。すまない」


「・・・そうか。いや、こっちも無理言ってすまんかったな」


尻尾と耳が垂れる。


・・・むぅ、ずるいなぁ。


「一つ質問していいかな」


「なんぞや?」


「前に迷い人、迷い魂か。が、来た事があるんだが、もしそういう時が再びあった時、本人がどうしてもって強く希望する場合は許可してもいいものなのか?」


「無論問題ないぜ」


「ふむ・・・。じゃあ本当にどうしてもって時だけな。それでいいか?」


「おう!恩に着るぜ、兄貴!」


「これで我々の面子も保たれるの!」


やれやれ。我ながら人がいいと思う。


ま、もし来たとしても難癖付けまくって他に行ってもらうようにしよう。


「言っとくが偶然を装って押し付けようとしてもダメだからな」


「わかっとるわかっとる」


気を良くした二神は俺に体を擦り寄らせながら嬉しそうにしていた。


異世界の魂か・・・。


帰ったら一度その辺り改めて勉強した方がよさそうだ。

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