それぞれの神の方針

運がいい、運が悪い、そんな風に言う時がある。


人によっては偶然の重なりだったり、努力の結果だったり、日ごろの心がけのおかげだったりという人も居る。


だが、神の身になって運という力が実際あるという事がわかった。


運というのはある種のエネルギーのようなもので、本人が意図せず消費と回復を繰り返している。


大きく消費すればそれだけ良い事に恵まれるが、その後しばらくは良い事が起きなかったり、逆に悪いことが起きて回復したりする。


なので、偶然が重なった時は消費しており、努力は辛い事をしていた分の運が増えており、日ごろの心がけは運を消費してしまうリスクを減らしていたということだ。


そんな中あるアイテムを所持した者が見つかった。


「幸運のお守りか」


「勇者の遺品ですね」


「相当厄介な物だな、アレ」


「そうですね」


過去に下界に降りた異世界人に持たせたものなのだろうが、かなり危険なアイテムと化してしまっている。


勇者本人が所持していた時は常に運が高い状態で、運を消費しなくなるという実に反則的なアイテムだった。


しかし、いくら運が良くても人の死は避ける事はできない。精々気分良く満足して死ねるぐらいだ。


そして、勇者の手から離れたこれは、ある種の呪いのアイテムと化している。


手にした者は同様に運を高く維持できるようになるのだが、手から離れる際に高く維持していた分の運を奪われるようになってしまっている。


更に厄介なのが、その影響が本人で賄い切れない場合、その者の子孫、関係者等にも余波が及び、軒並み運を奪われるという。


「どうしたものかなぁ」


以前に呪いのアイテムが見つかった時は解呪出来る者を差し向ければよかったのだが、今回は幸運のアイテムなせいで気付かれないのが困りものだ。


きっとこのアイテムを渡す時はこんなリスクが発生するなんて考えてなかったんだろうな。あのジジイめ。


「破壊しますか?」


「できるのか?」


「神罰クラスの物理衝撃を与えればなんとか」


「丈夫過ぎる。却下だ」


「神力を抜き取って効果を無くす事も出来ますが、朽ち果てます」


「それだと手放した時と同様の効果が発生するよな」


「しますね」


「うーん・・・」


確かにそうすればその後同じように不幸になる者は居なくなるが、今持っている人の関係者は不幸になるのが可哀想だ。


それに突然丈夫過ぎるお守りが朽ち果てたら不思議に思う人が出てくる。それは出来れば避けたいところだ。


「効果を上書きってのは出来ないのか?」


「上書きですか?・・・可能ですね」


「じゃあほんの少しだけ運が上がりやすくなる程度のその辺の幸運アイテムぐらいにまで下げて上書きしよう。それなら問題ないだろう」


「そうですね、それならば怪しまれることはないでしょう」


「うんうん」


「ただし、問題がひとつ」


「うん?」


「神力を大量に消費します」


「げ、マジか」


「具体的にはこれぐらい」


サチが承認ボタンが付いた試算した値が記載されたパネルを見せてくる。


ぐ・・・手痛い出費だな。


「致し方ない。承認しよう」


「承認確認しました。効果は誰にも気付かれないタイミングで行います」


「うん、よろしく」


ふー・・・。


これであのアイテムのせいで不幸になる人は居なくなるな。


ったく、あのジジイめ、本当に余計なことばかりしてくれる。




今日は神々の会合に来ている。


「闘争の世界?」


「はい、是非考えを頂けないかと」


アルテミナを警戒しつつ他の神々に挨拶をしていたら後輩神が来てこんな事を聞いてきた。


なんでも俺が来る前に変な奴に絡まれていたらしい。


そいつがやたらと闘争のある世界を勧めてきたので俺の考えを聞いてみたくなったという。


「そうだなぁ。自分ではどう思ってる?」


「僕ですか?」


「うん。はっきりした考えじゃなくても素直に感じたことでいいから」


「うーん・・・僕は嫌かなぁ?」


「そっか。じゃあそれでいいと思うよ」


「先輩、それはずるいですよー」


「すまんすまん、そうだな・・・」


闘争というのはいわば生存競争の一環だと俺は思っている。


別に人に限ったことじゃなく、どこにでも存在している普通の事だと思う。


極端に言えば石がぶつかってもどちらかが勝つ。


一見引き分けに見えたとしてもその事がいずれ何かを決める事になってたりすると俺は思っている。


つまり世界が成り立つ上で避けられない事象なんじゃないかな。


「・・・」


後輩神が驚いたような顔をしてこっちを見ている。どうした。


「さすが先輩です!そんな風に考えたことありませんでした!」


「いや、うん、そうか、普通はこんな考え方しないのか。あれか、嫌って言うのはこういうんじゃないくて、戦いこそ進化の過程とか、進化するには闘争が必需とか、意思を


持って争いを行うかどうかっていうような考え方の話か」


「そうです」


「そうだなぁ。俺個人の考えとしてはわざわざ介入する必要は無いんじゃないかな」


「どういうことですか?」


「数が増えたりすれば勝手に潰し合が始まって、そこで生き残ったものが次世代となるなら自然の流れだと思う。でも、神が意図的に敵を作って争わせたり、逆に是が非でも


戦わないようにしたらそれは不自然になるんじゃないかな」


後輩神は黙って頷くので続ける。


「そしてそのうち人はそういう競争世界で歪んでしまい、最終的に神へ反逆するかもしれない」


「反逆、ですか」


「神の次元へ辿り着く者が現れ、神を倒し、その結果自らの世界が滅ぶというなんとも皮肉な事が起きる」


「なるほど・・・」


あくまで仮の話だけど、可能性はゼロではない。


無理やり進化を促進させれば歪んだ思想が出てきてそういった事も起こりかねない。


少なくともうちの下界でそういうことが起きるのは嫌だな。考えただけでも辛い。


「ふふ、やっぱり君は面白い考えしているね」


後ろから知った声がする。糸目の神か。


「そうかな」


「君はどう思う?」


「・・・よう」


「うぉっ」


反対を向くと刀傷の神が黙って俺の隣に立っていた。驚くのでやめていただきたい。


「先輩方、お疲れ様、じゃなかった、こんにちは!」


「はい、こんにちは」


「・・・ん」


後輩神の挨拶に二人はそれぞれ返す。それともう一人。


「そちらは?」


「こいつか」


刀傷の神の手には襟首と掴まれた見知らぬ小太りの神が居た。


「あ、その方です、先ほど僕に闘争の世界の話をされた方は」


後輩神がそういうと小太りの神の体がびくっと動く。


「さて、本人の証言も得たところだし、これで言い逃れできないよ」


糸目の神が小太りの神の正面に立ってその細い目をうっすら開いて話す。


「ん?何の話?」


「コイツ、自分の運用方針を他の神々に触れ回ってやがった」


「うん?それがどうかしたのか?」


「お前本当に何も知らないのな。過度な思想の押し付けは処罰対象になるんだぞ」


「え、そうなの?」


「うむ」


そうだったのか。サチの奴ちゃんとそういうの教えておいてくれよなー。


まぁ俺がそういうことするつもりが全く無いから大丈夫だと思ってくれてたんだと思うけど。あ、やっぱりそう。じゃあいいか。


「コイツ新人なんだろ?だから僕がアドバイスを、むぐっ!?」


「ちょっと君黙ってて。ねぇ、さっきの神が倒されるって話もう一度話してくれないかな?」


「あ、あぁ、わかった」


何か今日の糸目の神は凄みがあるな。


言われたとおり進化によって神が倒される可能性の話をした。


「うん、実に面白い。そう思わないかい?」


「・・・ふっ」


刀傷の神が同意を求められると目を閉じて少し楽しそうに笑う。


「彼も新人の神だよ。その彼すらそのリスクを語れるんだ。別に君の世界で行う分には我々は何も言わないが、リスクのある方法を触れ回るという事はどう思うかい?」


先ほどから頬を横から摘んで面白い顔にしたまま糸目の神が小太りの神に語りかけている。


彼からすれば善意で行っていた事なんだろうけど、善意の押し付けは迷惑になる事もあるというのがわかってなかったんだろうな。


小太りの神はその事にやっと気付いた表情を一瞬して二人の手を払い除ける。


「・・・悪かったな」


「いえ・・・」


「あとそっちの新人。僕はそんなヘマはしないからな」


「そうか。それは失礼」


「・・・ふん、じゃあな」


「あの!今度改めて話を詳しく聞かせてください!」


「・・・勝手にしろ」


「ありがとうございます!」


去り際、小太りの神に後輩神が意外な声を掛けた。


正直驚いた。被害者なのに全く気にしてないとは。


「いいのか?あんな事言ってしまって」


「だって先輩言ったじゃないですか。闘争は避けられない事象だって。だったらせめて知っておくぐらいはしておいた方がいいじゃないですか」


「それは確かにそうだが・・・」


あまりに前向きな後輩神の回答に少し困っていたら糸目の神と刀傷の神が俺の左右に並んで同じように後輩神を見る。


「ふふふ、やはり君の見立ては間違っていなかったようだね」


「そうだな、将来有望な神になるかもしれん」


俺の見立て云々はどうでもいいが、何事も前向きに吸収していくこの後輩神は思った以上に見所のある奴というのは間違いないと思う。

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