賑やかなレストラン
竜園地挑戦の一行がついに地竜の領域を突破して最初の宿に戻ってきた。
一晩休んだ後、最後の挑戦となる社への階段を登るようだ。
四つの領域で手にした印を重厚な門にかざすと門が開き、中央への道が開かれる。
道中の立て看板を読んだ上で少し進むと人が立ちはだかっているのを見て足を止める。
雷竜と水竜の二人だ。
これまで一行を休憩地点でもてなしてた彼女達が敵と知り動揺したのか皆で相談を始めた。
あれ?来た道を戻って行ってどうしたんだ?
すると立て看板の近くに一行の一人が抜け道を発見した。
どうやら洞窟の中に入るらしいな。姿が確認出来なくなってしまった。
しばらく願い事を消化しながら様子を見ていると二竜の裏手から一行が出てきてそのままこっそり気付かれないように素早く社への道へ進んでいった。
少し気になったので画面を寄せて立て看板を見ると、急がば回れと書いてあった。
なるほど、一行はこれを見て迂回路を探したのか。
ということは一発で正解を引いたんだな。
各領域を通過したことで色々と得たものが役に立っているのを感じる。
社では神主姿の竜人とそれぞれの属性色の袴をした統括竜が一行を迎え、お守りを渡している。
これで一行の竜園地攻略も終わりか。
最後はあっけないといえばあっけないが、結果としては最良だな。
その後は一行と一緒に竜人や統括竜も一緒に下山し、最初の宿で祝賀会が盛大に開かれていた。
何人か酔った統括竜に吹き飛ばされて宿の前に転送されてたが、酒が入ってたからなのか笑っていた。
竜人は皆から少し引いたところで酒を呷っている。
その表情はどこか嬉しそうな穏やかな表情だ。
別に俺自身が彼を勇者として下界に送ったわけではないんだが、何となく彼に対して負い目を感じてた部分があった。
それが今の彼の表情を見て安心というか救われたような気持ちになった。
彼には今後も末永くこの竜の島をお願いしたいものだ。
今度はどんな竜園地を作るかも気になるし。
「サチ、今日の予定は?」
「えっとですね・・・特にないですね」
「それじゃ今日はアストのところに行きたいんだけど」
「少々お待ちください。・・・あー、今日は農園の方に行っているようですね」
「農園に?」
「どうしますか?」
「うーん、櫛を作ってもらいたかったんだが」
「櫛ですか?」
「うん。ほら、会合で猫と犬の神に使ったブラシあっただろ。あんなの欲しいなって思って」
「あぁ、なるほど。確かにあのブラシは凄かったですね。さすが神器なだけあります」
「神器?あれが?」
「はい。折角ですので神器について少し説明してもいいですか?」
「うん、よろしく頼む」
神器とは道具に神力を入れて様々な特殊効果や性能を高めたものの総称。
下界の末裔の勇者が使っている木剣も神器の一つらしい。
前の神は勇者の武器という名目で効果を発揮できるのは当人のみとしたらしいが、本来の神器は誰が持っても同様の効果が発揮される。
この前俺やサチが使わせて貰ったブラシなんかが誰にでも発揮している例だな。
神器の特徴としては、まず壊れないという事。
壊すのであれば神力を抜き取れば元の道具と同じになるようだ。
次に特殊効果だが、これは神力を注ぎ込む神の意思が大きく反映される。
勇者の武器なんかは前の神がこの勇者のみに効力が発揮されると思いながら作ったからそういう仕様になった。
ただ、その精度が若干悪かった結果、末裔のような血縁者にも多少効果が出てしまうということになったわけだ。
「神力の消費はどんなもんだ?」
「そうですね、大体浮遊島一つ分ぐらいでしょうか」
「結構使うんだな」
「回収も可能ですので、実際量はもっと少ないですよ」
「あぁそっか。使ってると減ったりするのか?」
「はい、効力次第にはなりますが。完全に枯渇すると普通の道具に戻ります」
「なるほど」
そうなるとあのブラシほどの櫛を作るとするなら神器化させる必要があるのか。
「やり方は?」
「簡単です。念を使うのと同じように行ってください」
「そうなのか。随分あっさり作れちゃうんだな」
「そうですね。ですので前の神様はポンポンと作っていました」
「あー・・・」
俺はそんなに簡単に作らないようにしよう。うん。
「神力もあることですし、試しに神器化してみてはどうでしょうか」
「そうだな。よし、じゃあ農園に行ってアストに作ってもらおう」
「わかりました。転移します」
農園に行くといつものルミナの熱烈な出迎えが無かった。
「今日はルミナ来ないのか」
「そのようですね。気楽でいいです」
「確かにそうだが、ちょっと寂しい気もするな」
「気楽でいいです」
「わかったわかった」
ちょっと不服そうな顔をしながら強調してくるサチに苦笑いしながら歩いていく。
レストランの方に行くとなにやらワイワイと賑やかな声が聞こえてきた。
中に入ると一つのテーブルの周りに人だかりが出来ていた。
「さぁ盛り上がってまいりましたシロクロ対決第三戦!果たして勝つのはどちらでしょうか!?どう見ますか?解説のモミジさん」
「姉さんうるさい」
「ありがとうございます!まだ序盤で状況は拮抗しております!状況に変化が出たら改めてお願いします!」
・・・なにやってんだ?
あ、ルミナがテーブルから少し離れたところにいた。
「これはどういう状況?」
「あ、ソウ様、いらっしゃいませ」
「やあ。それでこの状況は?」
現在テーブルではアストとイリウスがシロクロで対決している。
アストの隣にはクリエ、イリウスの隣にはリミが座っている。
様子を見るにユキが審判、実況をワカバ、解説をモミジがやっているようだ。
「えっと、シロクロの複製を作って貰おうと来て頂いたのですけど、二人がどういうものか気になったようで、実際対戦する事になったんですよー」
「で、こんな盛り上がりを見せてると」
「シロクロをやると毎回こんな感じに盛り上がりますよー」
「そうなのか」
「はいー」
複製を依頼するほど流行ってるようならそうもなるか。
様子見しに行ったサチが戻ってきた。
「どんな感じ?」
「そうですね。アストレウスさんにミリクリエさんが助言をし、弱気になりそうなイリウストレルさんをリュミネソラリエが奮い立たせている感じでしょうか」
「へー、いいね」
サポーター制でやっているのか。面白いやり方だ。
「ミリクリエさんと先に組んでいたアストレウスさんが一勝、不公平という事で二戦目からリュミネソラリエを味方につけたイリウストレルさんが一勝で現在最終戦中です」
「じゃあ引き続き様子見を頼む。勝負が決まったら教えてくれ」
「わかりました」
そういうとサチは再び人の輪の中に入っていった。
「さて、ルミナ。時間が出来たし課題の進捗を聞こうか」
「え?」
「前からそんな時間経ってないから具体的なところまではいいが、材料を何使うかとかぐらいの大体の方向性を教えて欲しい」
「わかりましたー」
そういうとルミナはパネルを開いて画像を見せてくれる。
「ユキちゃんたちと相談しながら作ったものなんですけど」
「おー、頑張ってるな」
「ありがとうございますー。それで、こっちは大体決まってきたんですけどー」
画像を見ながらルミナの頑張り具合を聞く。
この調子ならサチを納得させるものが作れるような気がする。
「問題はメインをどうするかが・・・」
ふむ、まだ料理を始めて日も浅い上に、火を使う料理は更に浅いからなぁ。
何かレシピを教えたいところだが、ここは自力で頑張ってもらおう。
「特にいつまでと決めてるわけじゃないからゆっくり考えればいいよ」
「はい、がんばります!」
別に一回限りの挑戦でもないし、どんな料理を出すか俺も気になるしな。
「だー!まげだー!」
アストの大きな声が響く。
それと同時に全体がわっと盛り上がる。
サチに教えてもらうまでもなくアストやワカバで状況がわかったな。
勝負が終わると集まってた人だかりも散っていき、各々席について今の勝負の話で盛り上がっている。
「おつかれさん」
「おぉ!ごればソウ様!ご無沙汰じどりまず!」
「今日はここに来てるって聞いたから」
「ぞうでじだが!依頼を聞いでなんどずがど思っでが、ごのシロクロいうんば面白ですが!」
「そうか。じゃあ依頼通り頼むよ」
「任ぜでぐだぜ!」
意気込むアストを見てからイリウスに向き直る。
「アストに勝ったらしいじゃないか。おめでとうイリウス」
「あ、ありがとうございます」
怯えたような表情で礼を返してくるイリウスの腕はしっかりリミに掴まれている。
机の下に逃げ込まなかったのはそういうことか。
「イリウスも依頼で来たのか?」
「そ、そんなところ、です」
「いい加減な答え方しない。イリウスはアストレウスさんの手伝いで調理道具の納入に来たのですよ」
イリウスの代わりにリミが答えてくれる。
「そうか。じゃあ折角だしイリウスに頼むかな」
「っ!依頼ですか?」
依頼と聞いてイリウスの顔がキリッと引き締まる。
「うん、櫛を作って欲しいんだ」
「櫛、ですか」
「えーっと、あぁ、あんがと。こんな感じのを頼みたい」
サチがさっと用意してくれたパネルに櫛の絵を描く。
「なるほど。素材はどういうのがいいですか?」
「そうだなぁ。軽くて手に馴染むものがいいかな」
強度はどうとでもなるので使いやすさを重視。
「わかりました。少々お待ちください。リミ、ちょっと手伝ってくれ」
「え?あ、うん」
そういうと掴んでいたリミの手を逆に掴み返してそのまま二人は外に出て行った。
さて、イリウスが戻ってくるまでまた時間が出来たな。
サチはクリエと話が盛り上がってるようだ。
アストは作業中だし、少し別の席でゆっくりさせてもらおうかな。
「ソウ様ソウ様!お暇そうですね!こっちでお話しましょう!」
「雑談相談猥談」
「ちょっとモミジちゃん、最後」
そう思ってたらワカバ、モミジ、ユキに捕まった。
まぁいいか、暇になったのは確かだし、付き合ってやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます