神器化

「ほほう」


サチが興味深そうな反応を示す。


席には俺を捕まえた三人の他にサチ、クリエ、ルミナを加えた七人で席について話してる。


話題は先ほど出て行ったリミとイリウスについて。


「あれはやっぱりリミちゃんが惚れちゃってると思うんですよ!」


「そうかなぁ?私はそんな風に思わないけど」


「いいえ!情報館で得た知識が確かならばあれは間違いなくホの字ですよ!」


「姉さん恋愛脳」


ワカバは出来てる派、ユキは出来てない派、モミジはどっちでもいい派で盛り上がり、それにサチが食いつき、他三人はそれを微笑ましく見守ってる状況。


俺としては当人達がいないのでよくわからない派かな。


クリエとルミナが口を挟まないところを見ると正解を知っているのかもしれない。


「私としてはユキちゃんが先に相手作っちゃったからリミちゃんの事が心配だったんですよねー」


「え!?ちょ、ちょっとワカバちゃん!?」


「ふっふーん、このワカバを甘く見ては困りますね!」


「え?ユキちゃん付き合ってる殿方がいるの!?」


あ、これはルミナも知らないようだ。食いつきが凄い。


「いる」


「モミジちゃんまで!つ、付き合ってるだなんてそんなことは」


さっきまでリミの話だったのにすっかり矛先がユキに移ってしまった。


俯いて顔を赤くしている辺り満更でもないようだ。


「ねぇきっかけは?きっかけはなんだったの?」


ルミナ、お前は圧が強いんだからもう少し落ち着きなさい。


みんなからの注目に観念したのかユキが経緯を話し始める。


「え、えっと、知り合ったきっかけはソウ様のところでちょっとした料理を出した時です」


「うちで?・・・あぁ、あの時か」


以前無茶振りに近い感じで造島師達に料理を出して貰ったことがあったがその時か。


「はい。それ以降料理に興味を持っていただいたので、こちらに来た時にちょっと感想を貰うような関係に」


「ほうほう!」


「以上です」


「・・・え?」


何人かの声が重なったな、今。


「いやいやいや、そんな、それだけ・・・の・・・はずじゃ・・・」


「以上、です」


追求しようとするワカバの勢いが微笑むユキを見て止まる。


「そ、そう。仲良くしてね」


「はい、それはもちろん」


ルミナですら気圧されてるな。強い。


「そ、そうだ!折角ですからミリクリエさんに色々とお伺いしたいです!」


「ん?私?」


「はい!この中で結婚されていらっしゃいますし!生活などを詳しく!」


ワカバはめげないなぁ。


「んーいいけど・・・」


クリエの視線がこっちに向く。


「ん?」


その視線をみてサチが代わりに口を開く。


「ソウ」


「なんだ?」


「退席をお願いします」


「えぇ!?」


「お願いします」


えぇ・・・。


男がいると話し難い内容なんだろうけど、この扱いは酷くないか?


はぁ。しょうがないな。ちょっとぶらっと歩いてくるか。




レストランの外に出たはいいが、迂闊に歩いてまた地の精を怒らせるようなことをしても不味いと思い、外に椅子に座ってぼんやりする事にした。


「あ、ソウ様だ。こんにちはー」


「こんちは、農作業おつかれさん」


行き交う農園の子達が作業着姿でこっちに手を振ってくれるのでこっちも軽く手を上げて返す。


悪く思われてないのは嬉しいが、用が無いと寄ってきてくれないのはちょっと寂しい。


仕事中だし、しょうがないけど。


はー、それにしてもいい陽気だな。


暖かな日差しと時折吹く風が心地よい。


・・・。


「・・・んぉ」


寝てた。


いかんいかん、つい考えることも無くいい気候だと寝てしまう。


「起きましたか?」


いつの間にか隣にはサチが居てパネルを開きながらお茶を飲んでいる。


出来る女の時間の使い方、みたいな優雅さを醸し出していてちょっとカッコいい。


「どのぐらい寝てた?」


「一時間程ですね。心地良さそうに寝ていたので起こしませんでした」


「そうか。状況は?」


「イリウストレルさんなら既に戻っています。今は休憩していると思います」


む、待たせてしまったか。


「急いで戻ろう」


「行く前に涎のあとを拭いてからにしてください」


「おおぅ」


差し出された布で口周りを拭く。


危うくみっともない姿を見せるところだった。お恥ずかしい。




イリウスのところには人だかりが出来ており、農園の子達があれこれと話している。


「出来たって?」


「あ、ソウ様。はい、ご要望通りに」


「どれどれ、見せてくれ」


「どうぞ」


イリウスが用意した櫛は形こそどれも一緒だが、色が様々だ。


赤一色、青一色みたいな単色や赤と朱のよな近い色が入り混じったものなど様々な色合いのものが置かれている。


「随分一杯作ったな」


「リミに丁度良い木材を教えてもったので、楽しくてつい」


「ははは、なるほど」


出来はいうまでも無く、重さも軽くて手触りも良い。


後は色選びか。


「ふむ・・・じゃあこれを貰おう」


俺が手にしたのは色が塗られていない木目のままのもの。


これが一番イリウスの仕事の良さを見て取れた気がする。


「ありがとう、イリウス。良い出来だ」


「光栄です」


「これの残りはどうするんだ?」


「そうですね・・・」


イリウスは作った櫛を見てから黄色と朱色が混ざった櫛を手に取った。


「リミ、これ今日の礼」


「え?あ、ありがとう・・・」


「残りはここの皆さんに差し上げます。元々ここの木を使わせてもらったので是非」


そういうと見ていた子達が黄色い歓声を上げる。


「そ、それでは僕はこれでっ」


次の瞬間凄い勢いで逃げるようにレストランから出て行った。


「あーあ、折角男前だったのに」


「ふふ、そうですね」


俺がぼやくと櫛を胸の前で大事そうに持ったリミが微笑みながら応えてくれた。




「さて、やるか」


農園から帰宅後、サチに見てもらいながら神器化の準備をする。


目を閉じて念を使うようなイメージ。


うん、使う準備できた。


後はこの櫛をどういう風にするか。


丈夫なのはもちろん、髪を梳かした時により美しくするようにしたい。


出来そう?出来そうだ。


よし。


久しぶりに念を使うところまで進むと体から力が溢れて手に持った櫛に注がれる。


「どうかな?」


目を開けて櫛を見ると一見何も変化は起きていないように感じる。


「正常に神器化できたと思います」


「どれどれ?」


「あ、ちょっと何を」


サチの髪に櫛を入れて梳かしてみる。


「おぉ・・・」


元々綺麗な髪だが、より綺麗にみずみずしくなった。


全体を梳かし終えると光沢がまるで天使の輪のように見える。


「うん、いい出来だ」


「私で試さないでください」


「サチ、手出して」


「なんですか?」


少しふくれながら手を出すサチに使っていた櫛を乗せる。


「はいこれ、サチの」


「え?どういうことですか?」


「元々サチにあげるつもりでいたんだよ。いつも色々してくれてるお礼ってことで」


「え?は?聞いていませんよ!?」


「言ってないし」


「いや、だってこれ神器ですよ!」


「そうだね。補佐官なんだから一つぐらい持っててもいいだろう」


「ですが」


「いいから受け取って」


「しかし・・・」


「じゃあもし神力が無くなりそうになった時の保険ってことで持っててくれ」


「ぅ・・・わ、わかりました」


ふう。やっと受け取ってくれたか。


リミみたいに素直に受け取ってもらえないから困ったものだ。


職人モードのイリウスは男前だったからなぁ。


そこの違いかな。


「ちゃんと使ってくれよ。神力がどれだけ減るかも調べたいし」


もちろんこれも名目。


「わかりました。そういうことなら使わせて頂きます」


「うん、よろしく」


その後、俺が夕飯の準備をしている間、鼻歌交じりで使っていた。


気に入ってもらえたようでなによりだ。

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