-学校のとある男子-

「念の使い方が上手ですね」


そう言って僕を褒めてくれた授業を見に来た女の人、名前はサチナリア様って言ったっけ。


たまに学校に来て、ちょっと難しい話をして、授業を見て、帰っていく。


最初見たときはなんとも思わなかったんだけど、最近は来ると気持ちがソワソワする。


僕はサチナリア様にまた褒めてもらえるように念の授業を頑張った。


その代わり体を動かす事はちょっと苦手になったけど、念があればそんなのなんてことはない。


最近アンジェリカとかいう女子が念の成績が急に良くなってきたので少し気になったけど、サチナリア様には勝てないだろうな。


そんなある時、学校にサチナリア様が来た。


学校長の話の後にサチナリア様が入ってくる。


相変わらず真面目な顔してるけど、ちょっと優しくなったような気がする。


「そして今日はもう一人お客様がいらっしゃってますよ」


サチナリア様の後から入ってくる男。なんだあいつ。


「さて、早速だがみんなに問題です。俺は誰でしょう」


はぁ、興味ない。そう思ってた。


「こっちのお姉ちゃんと関係があるぞ」


この言葉で一気に興味が沸いた。


更に旦那様と言われた時にサチナリア様が慌てたし、近いと言うこの男はなんなんだ。他の子も言ってるように頭悪そうに見えるし。


色んな答えが出たがアタリにはならず、出尽くした頃にアンジェリカが手を挙げて答えた。


「神様」


答えを聞いて心の中で笑ってしまった。


はぁ、こんな女子を気にした僕が馬鹿みたいじゃないか。


「・・・正解!!」


・・・え?


その後部屋中が大騒ぎになったが、僕は言葉が一切出なかった。




神様の仕事について授業をした後、外に出た。


自分を神様と言った男。ソウって紹介されてたあいつ。


あれが神様?


今他の子達に追いかけられて服を奪われそうになってるあれが神様とは思えないんだけど。


「ははは、ソウ様必死になってるね」


「私も混ざってくる!」


「僕もー」


「怪我しないように気をつけてくださいね」


「はーい」


最初はサチナリア様と一緒に見ていた子達が次々あっちに行く。


「ねー、サチナリア様。ソウ様って本当に神様なの?」


僕と同じ疑問を思う子が他にもいた。


「そうですよ」


「そうにはみえなーい」


「ふふ、そうですね。でもあれはソウがみなさんと仲良くなりたいからああやって振舞っているのですよ」


「そうなの?」


「えぇ、そうですよ」


「そっかー。ソウ様っていい人なんだね」


「はい。ですのでみなさん仲良くしてくださいね」


「うん、わかったー」


少し離れたところで交わされる女子とサチナリア様の会話。


僕にはあれが演技のようには見えないんだけど、サチナリア様がそうしてるって言うなら信じるしかない。


本当は色々聞いてみたいけど、サチナリア様の近くに行くと何を話していいかわからなくなってしまうのでこれ以上近づけない。


だから女子との会話で知るしかない。


あ、ソウが帰ってきた。


サチナリア様が立ち上がって水を差し出す。


・・・むぅ、なんだろう、イライラする。


このよく分からない気持ちが気になってるうちに二人は帰ってしまった。


次はサチナリア様だけ来て欲しいと思った。




今日は暑い。


念で遮断しよう。


それで、なんでソウまでまた来るかな。


今日はソウが泳ぎ方を教えてくれる?


なんでそんな事をしなきゃいけないんだ。


むぅ、サチナリア様が必要って言うなら教わってやらなくもないけどさ。


・・・なんなんだあいつ、念を使わずに水の中をあんな自由に動き回ってる。


あれの正体は神様じゃなくて授業で習った水の精ってやつなんじゃないか?


凄いのはわかったけど、念を使いこなせる僕には必要ないことだ。


準備体操をしっかりしろって言われたけどよくわからないし。


実際水に入ったけど別に怖くもなんとも無い。


水に顔をつけたり、潜ったりするのはちょっとためらったけど、あっちでサチナリア様が先生達に教えてるのを見るとこの程度なんともないと思えてくる。


休憩した後今度は水の中を歩く。


うっ、なかなか進まない。


何週かしてるとだんだん歩くのが軽くなってきた、これは楽しいかもしれない。


そんな風に思ってた時だった。


急に脚が動かなくなった、痛い!


なに?どうして?


体がどんどん水の中に沈んでいく!


体が勝手に流されていく、怖い、痛い、息できない、苦しい、助けて!


もうダメかと思ったところで急に体が水の上に上がった。


何があったかよくわからないけど、寝かされてサチナリア様に念をかけてもらったら体が楽になった。


学校長の言うとおりだった。


あの時僕の頭に念を使うなんて考えはなかった。


水をみくびってた。


それなのに説明が足りなかったと謝ってるこの男。


申し訳ない気持ち、恥ずかしい気持ち、そして僕を助けてくれた感謝の気持ち。色々があふれ出て来る。


口下手な僕の精一杯のお礼をこの男、いや、この人は安心した表情で受け取ってくれた。


サチナリア様が優しい表情をするようになったり、みんなが寄っていくのがわかった気がした。


その後に飲んだ牛乳という飲み物はとても美味しかった。


また来てくれないかな、サチナリア様とソウ様。

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