洞穴探索

「お、ダンジョン内が見えるようになってる」


最近注目していなかったが、ある信者からの願いを見てダンジョンを注目したところ、若干ではあるが内部が見えるようになっていた。


「サチ、内部詳細どうなってる?」


「はい。基本は天然洞窟で、入り口の方は手を加えてあります」


確かに入り口の方は壁面に松明が付けられていたりして光源が確保されている。


「そこまで奥まで進んでないようだな」


大体の人が手を加えたところだけ進み、それが途切れると引き返している。


「そうですね。攻略が目的のダンジョンとは違い、増えて外に出るのを防ぐのが目的なので無理な侵攻はしないのでしょう」


「なるほど」


どちら側にも飛び出す奴がいて、お互いそういう奴らだけ倒されるという良い意味で拮抗している状態か。


ちなみに見るきっかけになった信者の願いは初挑戦なので無事に帰れるようにとの安全祈願だった。


一応注目していたが、余力を残して戻っていったので特にこちらが何かする事はなかった。


もし何かするとしても自業自得程度に痛い目を見て貰ってから命は助かるような感じに済まそうと思っていた。


厳しいようだが、あてにされるのは良くないから心を鬼にしている。


出来れば今回のように余裕を持って戻ってくれるようにしてもらいたいものだ。


ところで気になった事がある。


「攻略目的のダンジョンなんてものがあるのか?」


「ありますね」


「どういうものなんだ?」


「例えば死霊系がダンジョンに棲み着いた場合などですね」


「ほうほう」


「死霊系は周囲へ疫病や精神に悪影響をもたらすので元凶を断つ必要があります」


「それで攻略か」


「はい。以前勇者がいくつか攻略していたと思います」


勇者ならやってそうだな。


ただ、今はその勇者の数も少なく、居るとしても末裔ぐらいだからな。


そういった要攻略ダンジョンもどこかにあるかもしれない。


見てみたいような、あってほしくないような複雑な気分だ。




「ダンジョンで思い出したけど、綺麗な洞窟があるとか前に言ってたよね」


「えぇ、そうですね。行きますか?」


「うん。案内よろしく」


「お任せください」


そんなことで今日は洞窟、サチは洞穴って言ってたっけ、を見に行く事にした。




サチの転移で降り立った先は冬の寒空のような乾燥した寒いところだった。


「少し寒いな」


「そうですね、ここは他の浮遊島と比べて気温が低いです。これを着用してください」


サチが空間収納から上着を出してくれる。


丈が長く、フードまで付いててローブみたいだ。


「お、あったかい」


「念で遮断してもいいのですが、その服の方が洞穴に入る時は便利なので」


「うん、助かる」


着たのを確認すると俺の腕を組んで来て少し引っ張るように進む。


俺もそれに従うように歩く。この歩き方も慣れたもんだ。


しかし辺りを見回しても洞窟、洞穴らしき入り口どころかそれらしいものが見当たらない。


あるのは角の取れた白い岩肌が露出した小高い丘だけ。


色々興味を引くものはあるが、サチに引っ張られてるので足を止めるわけにはいかない。


「そういえばソウはこちらの生活では割と衝動的に動きますね」


「そうかな?」


「いつも何か思い立っては活動している気がします」


「・・・そうかも」


自分が思っていた以上に知識欲があるのかもしれない。


・・・色々思い返したら知識欲に限らない気もしてきた。


「思い立ったが吉日って言うからなぁ。早くこっちに慣れたいし」


「それはいいことですね。案内のし甲斐があります。ところでその思い立ったがなんとかってなんですか?」


「吉日な。ことわざだよ、思い立ったら即行動すると良い事が舞い込むよっていう先人の言葉だ」


「ことわざですか。興味深いですね」


サチの眼差しが興味を持った時のものになっている。


「必ずその言葉通りにはならないけどね。行動の後押しをしたり逆に戒めたり、色んな意味の例え言葉かな、ことわざってのは」


「なるほど。他にも何かないのですか?」


「一杯あるぞ、俺が知っているのなんてごく一部なぐらいにな」


歩きながら興味津々なサチにあれこれことわざを教えることになってしまった。


俺もそんなに一杯知っているわけじゃないんだけどなぁ。


こんな事ならもうちょっと勉強しておけばよかったな。




「着きました」


到着したところは浮遊島の端。


「崖しかないけど?」


辺りを見回しても洞穴のような場所は見当たらない。


俺が辺りを見回しているとサチが後ろに回ってがっちりと抱きついてきた。


おいおい、こんなところで大胆な、あ、はい、飛ぶのね。


少し体が浮いたと思ったらそのまま崖を急降下する。


「さ、サチ、もう少しゆっくり降りて」


「あ、はい、すみません」


あー怖いわ。心臓がぎゅってなる。


紐付けずに他人に掴まれた状態でバンジーするみたいな感覚だ。


バンジーやったことないけどきっと気分的にはそんな感じだろう。


いくら下に乗れる雲があっても怖いものは怖い。


上着のせいでサチの柔らか感触もイマイチだし。


「これぐらいでいいですか?」


「あぁ、うん、これぐらいなら大丈夫。ありがとう」


かなり降下速度を落としてくれたので助かる。


心にも余裕が出来てきたので浮遊島の側面も観察できていい。岩肌しかないけど。


しばらく降りると浮遊島の側面から小さな滝のようなものが見えてくる。


「あれか?」


「はい、あそこが目的地です」


近くに行くと人一人半ほどの高さの横穴から水が滝になって落ちているのが分かる。


「滑るので気をつけてください」


洞穴入り口にゆっくり着地する。おおう、あぶねぇ、確かに滑る。


洞穴の奥から侵食された溝を通って小川が外に流れてきている。


「では行きましょう」


「灯りは点けないのか?」


「えぇ、しばらく進めば目が慣れると思うので最初のうちは我慢してください」


「ん、わかった」


何か理由があるのかな。わからないから言われたとおりにしよう。


小川に沿って少し進むと奥からひんやりした空気が流れてくる。


目も少しずつ慣れてきて岩肌とか見えるようになってきた。


基本的には外と同じ岩肌をしているが、所々に水晶のような結晶が埋まっているのがわかる。


じっくり観察したいところだがサチを見失うと困るので我慢。


あー、こういう移り気なところが衝動的とか言われる部分なのかな。


俺をそう評価するサチは少し前を歩いている。


「ここくぼんでいるので気をつけてください」


「あいよー」


こんな感じで転びそうなところを教えてくれる。


背中の羽も完全には収納せずに小さい状態で出してくれていて、目印になってて非常に助かる。


洞穴は基本的に人が歩ける大きさのは一本道なので迷わないが、壁面のあちこちに穴が空いていて、そこから水が流れてきていて気をつけないと滑る。


実際何度か滑って転びそうになったのをサチにばっちり見られて笑われた。不覚。


そこそこな距離を進んだところでサチの足が止まる。


「ソウ、羽を仕舞いますよ」


「うん?どうした?」


「この辺りになると天井からも水滴が落ちてくるので。フードも被ってください」


「了解」


ここに来る間もところどころ水滴が落ちていたが、この先は目に見えて落ちてくる量が増えている。


洞穴の大きさも立って歩くには若干狭く感じる程度まで小さくなってきていて、前の世界で見た映像の洞窟探索のようになってきた。


「もう少しです」


「ほい」


しかしここに入ってからというものサチの口数は少ない。


あーそうか。この頭に当たる水滴が雨みたいだから辛いのか。


むぅ、無理させてしまったかな。


いや、それならわざわざ俺に勧めないよな。この先に何かあるのかな。


更に進むと壁面の水晶の量が増えてきた。


壁や天井の至る所から生えているように水晶が飛び出ていてこれだけでも結構見応えがある。


ん?先に人一人ギリギリ通れるぐらいの穴が見えてきた。


「ソウ、あそこを潜れば目的地です」


おぉ。はてさてどんなところか楽しみだ。




穴を潜った先は広いドーム状の空間が広がっており、あちこちに大きい水晶が生えている。


そして中央に最も大きい水晶がある。


「でかい水晶だな」


「そうですね。恐らくこの浮遊島の中で一番大きいと思います」


「サチが見せたかったのはこれか?」


「えぇ、これもその一つですね」


「ん?それ以外何かあるの?」


「ではそれをお見せするので、ここで待っていてください」


何かを含んだ笑みを浮かべながらサチは中央の水晶に向かっていく。


水晶の前で何か念じてる。光の玉を出して、それを水晶の中に埋め込んだ。


埋め込んだらすぐさま小走りでこっちに戻ってきた。


「よく見ていてくださいね」


サチも若干興奮気味で一緒に水晶の方を見る。


水晶に埋め込んだ光の玉は次第に水晶に馴染み水晶そのものが輝き始める。


「始まりますよ」


サチの声に応じるかのように光った水晶の先端から光の線が伸びる。


伸びた光は他の水晶に当たり、その水晶から別方向に光の線が出て行く。


そうやって光の連鎖反応でドーム内があっという間に光の線で包まれた。


「おぉ・・・これはすごい・・・」


水晶自体に赤や青といった色があるため光の線もその元の水晶の色に染まっており、色々な色の線が入り乱れていてとても綺麗だ。


「よい・・・しょっと」


俺が光の幻想風景に見入っているととサチが俺の上着の中に強引に下から入って襟元から首を出してきた。


「どうした?」


「歩いていないと寒いので温めてもらおうかと」


よく言うよ、自分でどうにかできる癖に。


そう思ったが真意はそこじゃないので何も言わずに上着の腕だけ中に入れて抱きしめてやる。


正直俺よりサチのほうが温かいんだけど、気にしないでおこう。


「どうですか?」


「凄いな、頑張って見に来るだけの価値はある」


「そう言ってもらえると案内した甲斐があります」


「これってどれぐらい持つんだ?」


まだ光の線は残っている。


少しずつぼやけてきてはいるが、洞穴内の水気に反射してこれはこれで綺麗だ。


「もう少しですね。消えるときもなかなかいいですよ」


「ほほう、それは楽しみだ」


サチの体のあちこちを撫で回しながら待っていると、光の線が急激に弱まり溶ける様に崩れ落ちた。


「お、おぉ・・・」


「あー終わってしまいましたね」


「うん」


何か花火を見た後のような儚い気持ちになった。


これが逆にまた今度来ようという気持ちにさせるんだろうな。


「これで目的は終了です」


「あぁ、ありがとな。いい場所を知れたよ」


「喜んで貰えたようでなによりです」


「うんうん」


感謝を体で表現してみる。


「・・・あの、ソウ。そろそろ離してください。帰れませんよ」


「どうしようかなー勝手に入ってきたからなー」


「ごめんなさい、帰ったら続きしてもいいので」


「よし、じゃあ帰るか!」


「まったく、現金な人ですね」


呆れながらもまんざらでもない顔してる。


来るのはちょっと大変だったがその分の価値のある場所だった。また来よう。

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