天界の食事情

「落ち着きましたか?」


休憩兼ねてお茶を出してくれたのでそれを飲むと昂ぶった気持ちも落ち着いてくる。


「いやはやみっともないところを見せてしまった。でもおかげで頑張ろうって気持ちになれたよ」


「えへへ、ご主人様の言葉が嬉しくてつい出しゃばっちゃいました」


「まったく、ユーミさんはこれだから」


照れ笑いするユーミに溜息をつきながらも優しい眼差しをするシンディの関係が見ていて和む。


前々から感じてはいたが俺は恵まれているな。


サチをはじめとした天界の人達に良く思ってもらえている。


住民達からすればそれは普通の事で当然の事だから特別な感情じゃないと思うんだろうけど、それでもそれが俺の力になるから嬉しいものだ。


やはり食というものを一律化した事は大きいな。


それでこれだけの感情の良循環を生み出している。


となると気になるのは完全食の粒だ。


「結局その完全食の粒はどういうものなんだ?」


「では簡単に説明します」


「うん、よろしく」


パネルが完全食についての情報に切り替わる。


簡単に言えば高圧縮された栄養素集合体と呼べるものらしい。


数粒で人が一日活動するのに必要な栄養素やエネルギーを賄えるものを含ませ、更に純度の高いマナまで入っている代物だ。


それが工場と呼ばれる場所で生産され、住民に配布される。


「ふーむ、誰だろうな、こんな凄いもの作ったのは」


「実は工場を造った方は不明なのです」


「不明?」


「はい。我々が管理している情報館では様々なことを情報として保管していますが、天界内でも謎や不明なものが多数存在しています」


「こちらがそのリストになります」


結構あるな。


あ、湧酒場も記載してある。


寒暖のある浮遊島とかもそうだが、これはもうそういうものとして疑問に思わない方がいいのかもしれないな。


「なるほど、大体わかった」


下界はもちろん天界にも把握できないものが存在するという事があるのがわかった事は大きい。


それだけで考え方に違いが出るからな。


出来れば柔軟でありたい俺としては大事なことだ。


「丁度区切りが出来ましたし今日はこのぐらいにしておきますか?」


俺の頭の考えが落ち着いたところでサチが言ってくる。


「あぁ、そうだな。みんなありがとう」


「いえ、お役に立てて光栄です」


「また何かありましたら来てくださいね!」





「もう結構暗くなってますね」


メイド達に見送られて外に出た俺とサチだが、既に外は暗くなっていた。


「なあ、サチ、俺アレやってみたいんだが」


「いいですよ、合わせる手をずらすと大きい音が出ます」


なるほど、よし、やってみよう。


手を思いっきり叩き大きな音を立てると以前同様周囲が一気に青白い光に包まれた。


「さ、行きましょうか」


「おう」


光が弱まってくると再び手を鳴らしながら石畳を歩く。


「随分楽しそうですね」


「あぁ、何かワクワクするんだよねコレ。音の広がりが目に見える感じで」


「先ほどまで泣いていた方とは思えませんね」


「うるせーな、いいじゃねぇか」


「えぇ、誰も悪いとは言ってませんよ?」


ぐっ・・・、悪戯っ子みたいな顔しながら楽しそうにこっちの顔を覗き込みやがって。


周囲の風景のせいなのか元からなのかちょっとドキッとしてしまったじゃないか。


「そういうサチだって仕事中に何度かガチ泣きしてたじゃないか」


「はて、そんな事ありましたか?」


すっとぼけやがったこいつ。


「えーっと確か最初がだな」


「あーあー聞こえませんー」


耳を塞いでくるくる回りながら少し先を歩いていってしまった。


声に反応して少し青白い光が石畳の周りに広がってるのが面白いな。


「今日のデザートはプリンにしようかな」


「え!?本当ですか!?」


ぼそっと言ったのに聞こえてるじゃねぇか。


再びくるくる回りながら戻ってきて俺の腕にしがみついてきた。いつもの位置だな。


「そういえば情報館でお茶する時お茶菓子欲しくなるんだよな」


頭を使うからなのかどうにもあそこでお茶をすると甘いものが欲しくなる。


「お茶菓子とは?」


「お茶の時に一緒に食べる甘いものかな。デザートより小さいものが多いかな」


クッキーなら多分俺でも作れる。


和菓子とかになると無理だな。精々団子ぐらいだ。


「ほうほう、気になるところですね」


「うん。小麦粉もレシピもあることだし、後はオーブンか」


素材は揃っているという事がわかってサチの目がキラキラしてる。


頼めば念で上手くやってくれるかな。


それならアストにオーブン作ってもらわずとも何とかなりそうだ。


「ソウの居た世界は本当に色々あったのですね」


「そうだな。魔法が無い代わりに科学ってものが発達してたからな。今日話題に出た工場とかいっぱいあったぞ」


「そうなのですか?天機人の施設とかソウが見たらどういうものか分かるのかもしれませんね」


「ははは、無理無理。俺はそういうの専門じゃないから見ても多分わかんないよ」


俺の知っている工場の知識なんて映像で見たぐらいで何をどんな風にやっているかなんてさっぱり分からない。


恐らく完全食の工場に行っても分からないと思う。


「そういうものですか」


「うん。使うことが出来ても仕組みや理論まで分かる人が少ないのはここも下界も異世界も同じだなって今日思ったよ」


「神になってもですか?」


「あぁ、神だろうと万能じゃないさ」


「そういえばそうですね。本当に一時はどうなるかと思いました」


前の神様を思い出したのか若干げんなりしている。


「でも、その万能じゃないおかげで私はソウとこうして居られると考えるとそれも悪くないと思います」


「そうか。そうだな、俺もそう思うよ」


サチに限らずこの世界の住人は前向き思考だと思う。


若干前向きが過ぎる奴もいるが、サチなんかは良い事と悪い事があれば良い方を拾い上げて大事にするタイプだ。


俺も見習わなければな。


その見習いたい相手は今即席でプリンの歌を作ってふんふん口ずさんでる。


こういうところは見習わないでいいかな、うん。

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