下界のオアシスの街の事は大体わかってきた。


末裔の若者はしばらくこの街に滞在してヒーラーの子と組んで周辺で狩りをしているようだ。


初々しい感じが見ていて和む。


それはそれとして。


オアシスの街で信者を増やすのは難しそうだ。


なぜならこの街は既に勇者が神と同じ扱いを受けてしまっているからだ。


元々勇者は神から力を貰っているので遠まわしに言えばうちの信徒ではある。


その事が街の住人に伝われば信仰を一気に総取りできるかもしれない。


でも、俺は別にそこまでするつもりはない。


折角上手く人々が幸せに、笑顔に暮らせているのならそれでいいかなと。


信仰が完全に無くなってしまうと流石に困った事になるのだが、ありがたいことに最初の集落に信者が定着したので無闇に波風立てる必要もないかなと思っている。


まだ魔族というのと直面してないから危機感が無いだけかもしれないが。


魔族か。


「なあ、サチ。この街に魔族はいるのか?」


「いないですね」


「そうか。外から人が来るなら魔族も居てもおかしくないと思ったのだが」


「そうですね。元魔族らしき人達ならいますね」


「どういうことだ?」


サチが一覧をこちらによこしてくる。


そこには悪魔種コスプ族、亜人種コスプ族といった以前見た総一覧の魔族に属してた種族が並んでいる。


「このように元々は魔族の土地に居ましたが、何かしらの都合でこの街に来て、馴染んだ結果コスプ族になった者なら居るかもしれません」


「なるほど」


「はい。ただし、これはあくまでこちらの想像内での話なので実際元魔族だったかは不明です」


「その者達の信仰先はどうなってる?」


「他の街の住人と同じく街を創設した勇者になっています」


「なるほど、ありがとう」


これはいい情報だ。


仮の話ではあるものの、魔族から別部族へ移ることが出来ている。


それはつまり魔族の根源である魔神信仰から脱する事が出来ているという事だ。


俺としては前の神のように下界に介入はなるべくしたくないので、出来れば自力で脱して欲しいんだよね。


うーん、まだまだ情報不足だなぁ。




仕事が終わって家の前に転移したら知った顔がいた。


「やっほー」


「ルミナテース、何をしに来たのですか?」


家の前で手を振るルミナを見てサチの顔が凄く険しくなってる。


昨日作ったシャーベットが気に入ったのか、デザートを所望されたので今日は直帰して料理するつもりだったから予定的には問題ないがどうしたんだろうか。


「ソウ様の言ってた稲と麦らしき植物を持ってきたのよ」


「お、本当か?」


「はい。だからサチナリアちゃんお願い、家に入れて!」


ルミナがサチの足元に跪いてお願いしてる。


この様子だと今まで入れた事無いっぽいな。


「はぁ、仕方ありませんね。大人しくしていることを約束するなら入れてあげてもいいですよ」


「するする!やった!」


喜ぶルミナにやれやれと言った感じで溜息を出している。


ルミナも猪突猛進なところをもう少し抑えられればここまで警戒されないんだろうけどなぁ。無理なんだろうな、きっと。




三人で家に入ってサチとルミアはテーブルを挟んで対面に、俺は何故かお誕生日席みたいに二人の間に座ることになった。


「では先に稲らしきものから」


ルミナが空間収納から次々と採取した草を出してテーブルの上に並べる。


稲に似たものからどう見ても違いそうなものまで十種類近く並んだ。


「先日会合で貰った情報と照合してみます」


「うん、頼む」


傾向からすると玉ねぎが四角いぐらいの大きな違いはないと思うのだが、どうだろうか。


「食用出来るものが三種類ですね。これと、これと、これです」


サチが選んでくれたものは稲に似た形状で穂先に粒のような種が付いているのが一種。


他二つは種の部分が子供の拳大の大きさをしているものだった。


その二つを持ってみると片方はずっしり重く、もう片方は軽くて振ってみると中でザラザラと音がした。


「すみません、絵だと大きさが分からなかったもので」


あーそうか。大きさの説明してなかったわ。


「いや、説明不足だった俺が悪い。よし、どれも食えるみたいだから試してみよう」


俺は三つとも持ってキッチンへ向かう。


「あ、ソウ、ちょっと」


「二人とも待ってー」


折角苦労して持ってきたくれたんだ、無下にしてはいけないよな。




最初は一番稲に似た奴から。


殻を剥くと白い粒が出てくる。


おぉ、米っぽいな。あたりかな。


どれどれ。


唾液を含ませてふやかして、すり潰して味わう。


「・・・あっま!」


なんだこれ、とてつもなく甘い。


心配そうに見ている二人にも殻を剥いたのを一粒ずつ渡す。


「口の中で細かくしてから舌の上に乗せてみ」


二人とも言われたとおりに口に含んでむぐむぐする。


「・・・!凄く甘いですこれ」


心配そうなサチの顔が一気ににこやかになる。


「お、おおおぉぉおぉおぉお、甘いいぃぃ!」


ルミナ、お前のリアクションはちょっと怖いぞ。


味からして砂糖だなこれ。


これはこれで使えるな。


幸いうちには甘いものを欲してる女子がいるので今後の料理に大きく貢献してくれそうだ。




「よし、次だ」


今度はずっしりとした方を手に取り同じように殻を剥く。


まさかこの大きさの米粒ってことは、どう見ても違うな・・・よし、鍋出そう。


「サチ、この中に水入れて」


「はい」


サチに頼んで鍋に水を入れてもらいコンロで加熱して中に入れて茹でる。


程よく茹で上がったのを取り出してかぶりつく。


うん・・・うんうん、やっぱり。


トウモロコシだコレ。


「コレ俺知ってる奴だわ。うまい」


形こそずんぐりむっくりだが、剥いた中には粒がぎっしり入ってたので直ぐにわかった。


口をつけてない部分を切り分けて二人にも食べてもらう。


「プチプチした食感がいいですね」


サチの言葉に口を変に動かしながら頷くルミナ。


さては皮が歯にはさかったな?




最後はこのザラザラ音するやつか。


案の定外側を剥がすと中にはアサガオの種のような小さい黒い粒が沢山入っていた。


粒を触ってみると硬い。


包丁で割ってみたが中も黒い。


口に含んで唾液でふやかしてみる。


味がしないな。しかも中々柔らかくならない。


一度手に出してみると黒かった粒が灰色になっている。


まさか・・・いや、まさかね。でもやってみよう。


先ほどトウモロコシを茹でたお湯を再加熱して沸騰させ、その中に数粒入れてみる。


すると真っ黒だった粒が次第に白くなり、真っ白になる。


もう一度口に含む。


「お、おぉぉ!」


つい声が出てしまった。


「どうしました?」


「米だ!」




上がったテンションに任せて米の粒を全て鍋に入れ茹でる。


本当は炊いた方がいいのだが、それは後日改めてやることにする。


今は量を口にしたい。


茹で上がった米の粒をザルにあけて水気を切る。


ちょっとはしたないがそのまま箸で摘んで食べる。


あぁ、これだよこれ。


「あの、ソウ。私達も頂いてもいいですか?」


「あぁ勿論いいぞ」


一瞬二人の事を忘れてたのは内緒だ。


「・・・うん・・・んん?うーん。ソウ、これ味がしません」


「しないです」


二人ともさっきとうってかわってリアクションが渋い。


「そういうものだからな」


俺の回答が分からないのか二人で顔を見合わせて困った顔してる。


「そのうちこいつの凄さがわかるようになるよ。とりあえずルミナ、この三種類農園で栽培できるか?」


「はい、出来ます!お任せください!」


「うん、頼む」


フフフ、これで主食が確保出来るぞ。

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