テーブルの上に両極端な麦候補が置かれている。


「食用出来る麦は二種類、こちらの小さい方はお茶に利用されているものですね」


小さいってホント小さいなこれ。


根元から穂先までの長さで手の大きさと同じぐらい、穂の部分に至っては小指程度しかない。


「これどうやってお茶に使ってるんだ?」


「詳細は調べないとちょっと分からないです。加工するとこのような形になり、完全食の粒と一緒に配布されます」


飴玉大の茶色いキューブを出して見せてくれる。


これをティーポットの中に入れてお茶を淹れてくれてるのを見たことがある。


「じゃあこっちは既に利用されてて、量産体制も出来上がってるわけか」


「そうですね」


「こっちは直ぐ見つかったのよねー」


問題はこっちの大きい奴か。


一粒が人の頭ぐらいあるんだけどコレ。


ルミナテースが空間収納から人と同じぐらいの穂を出してきた時は驚いた。


今はそこから一粒だけ取って、残りは収納に戻してもらっている。


「でっけーなコレ」


「偶然空を飛んでいたら自生しているのを見つけたのですが、近づいてみたらこの大きさでした」


「大変だったろ」


「いえいえ、この程度造作もありません」


ふふんと胸を張るルミナ。そして張って揺れる大きな胸にガンつけるサチ。


俺は見なかったことにする。怒られたくないからな。


さて、とりあえずこのでかい麦粒を剥いてみるか。


大きさが大きさだけに殻を剥くのも一苦労だ。


出てきた中実は見た事ある楕円形に一筋入った麦そのものだった。


「大きさはともかく麦だなこれ」


「おぉ!」


「問題はどうやって粉にするかだな」


この大きさを粉にするとなるとかなり大変だし、そもそも道具がない。


「ソウ様、粉はどの程度ですか?」


「どの程度?風が吹いたら飛ぶぐらい細かくかな」


「それでしたら私がやれます」


「え?どういう事?」


ルミナの言ってる事がよくわからないで混乱してたらサチが腕を引っ張ってルミナから俺を引き剥がす。


「ソウ、ルミナテースの妙技が見られますよ」


「妙技?」


「はい。ルミナテース、お願いします」


「任せて、サチナリアちゃん。ソウ様、包丁お借りしますね」


サチの言葉ににこやかに答えた後、包丁を手に取って軽く振って触感を確かめてる。


「これはいい刃物ですね」


「ああ、良く切れる業物だぞ」


「これなら確実にやれます」


そういうとルミナは目を閉じて大粒の麦に向かって包丁を構える。


そして上からトンと麦の一番上の部分に刃を当てた瞬間、ドサッと一瞬にして麦が粉になる。


「なっ!?」


「はー・・・いつ見ても凄い技ですね」


驚く俺の横でサチが感心している。


「な、何をしたんだ?」


突然の事に頭が追いつかない。


「えっと細かく刻みました」


「いやいやいや、俺には刃を当てただけのようにしか見えなかったんだが」


「細かくなれーって念じてからエイヤッてやるんです」


説明が説明になってないな。


念じてるってことはサチもできるのか?


「私はこんな妙技出来ませんよ。確かこの技に名前が付いてましたよね」


「分子破砕斬っていいます。カッコいいでしょ!」


カッコいいっちゃカッコいいけど、どっちかというと物騒な名前だな。


「まぁとにかくおかげで粉が出来たわけか。よし、何か作るか」


出来ればパンとか作りたいが酵母とか手元にないからもっとシンプルで手早く作れそうなものにしよう。


とりあえず水と合わせて練る。


小さくちぎって丸めて茹でて、さっきの砂糖をまぶして出来上がり。


「ほい、即席団子が出来たぞ」


「食べていいですか?」


「うん。俺はもう一品作るから先に食ってていいぞ」


「やった!」


手で摘んで口に放り込むルミナに対してサチは箸を出して摘んで食べる。


この時のルミナの驚いた顔とサチの勝ち誇った顔が見ていて面白い。


二人が甘い美味しいと言ってる間にもう一品。


生地の中に果汁を軽く絞った果実を入れてとじてから茹でる。


絞った果実は軽くフライパンで水気を飛ばして、茹で上がった果実入り団子の周りに塗って完成。


「こんなもんだな」


既に先に出した団子の砂糖まぶしの皿は綺麗になってた。


俺の分が残ってないんだが?


二人して明後日の方向を見ない。


次の分を取られないように先に果実入り団子を頬張ってから二人に皿を出す。


そんな急いで食べると喉に詰まるぞ。


団子の味は、うん、こんなもんかな。


モチモチした食感に懐かしさを感じる。やっぱ主食は大事。


俺が目を閉じて味わってる間に皿が綺麗になってた。


二人とも食べるの早くないか?




「さて、問題はこの麦が大きすぎる事だな」


一息ついたところで話を切り出す。


流石に木と同じ大きさの麦を農園で育てるとなると大変だろうから頼むのに気が引ける。


「これどんな感じに生えてた?」


「えっと、比較的乾燥していて小高い丘に沿って浮遊島一面に生えてました」


「ん?浮遊島一面?」


「はい。浮遊島丸々麦畑という感じでした」


「その島の大きさと所有者は?」


「大きさはこの島の四倍ほど。所有者はいませんでした」


ふむ、一粒でパン十個分ぐらいだからな。


十分な量を確保できそうだな。


「じゃあ必要に応じてそこに収穫しに行けばいいか」


「そうですね。今度農園の皆と行ってきます」


「うん、頼む」


「それと粉にする作業ですが、それもこちらでやってもいいですか?」


「あぁ、やってくれるなら助かるが、大変じゃないか?」


「いえ、修練の一環で皆でやってみようかなと。多少出来にばらつきが出ちゃうかもしれないですが」


うーん、さすが元警備隊だな。何でも修行にしてしまう精神は凄い。


「構わないよそのぐらい。助かるよ」


「これも真の料理のためです!そしてサチナリアちゃんに私の料理をお見舞いしてあげるのよ!」


「・・・はぁ、なんであんな約束してしまったのか後悔しています」


「まあまあそう言うなって。おかげで色々前向きに取り組んでくれて助かってるんだから」


「むぅ」


お見舞いとか言われたら頭押さえたくなる気持ちもわからんでもないが、約束は約束だからな。


その約束のおかげで一時は落ち込みそうだったルミナが立ち直れたわけだし、サチもそれを理解しているのか破ろうとはしない。


「ま、これで主食問題は解決しそうだ。ルミナには任せっきりになってしまうが今後とも頼む」


「はい!お任せください!」


ルミナの快い返事にうんうんと頷いてたら袖を引っ張られた。


「どうした?サチ」


「そろそろデザート作っていただきたいのですが」


「え?まだ食べるの?」


そんなの当たり前と言った顔しながら頷かれた。


「あの、ソウ様」


反対側の袖が引かれた。今度はルミナか。


「出来れば私にもお願いします」


この食いしん坊さん達め!


しょうがねぇな、砂糖もまだ残ってるし何か作ってやるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る