色々知りたい

信者が増えたお陰か下界の集落の周辺の状況や取引するための隣街も可視化されるようになった。


「この街について詳細を頼む」


「はい。この街は所謂中継点として栄えており、人や物品が集まり易い場所です」


確かに集落と比べると多種多様な人が行き来してる。


まだ街の全容は把握できず、取引に来ている信者を追尾するように画面がスクロールしているが、それでも人の多さや活気を感じることができる。


ん?


「・・・んん?サチ、ちょっと止めて」


「はい、なんでしょう」


下界の画面が静止状態になる。


「一分前ぐらいから再生してくれる?」


「了解」


歩く信者が色んな人とすれ違う風景が再生される。


「ここで止めて。なあサチ、聞きたいことがあるんだが」


「なんでしょう」


再び静止した画面の中、信者とすれ違った人を指差す。


「なんで和服を着た人がいるんだ?」


指差した画面の人物は俺の前居た世界の和服姿だった。




「この方は和人族ですね」


指差した人物を見てサチは答えてくれる。


「和人族?」


「はい、この地方にはそこまで多く見られませんが和人族と呼ばれる部族が存在します」


和人族か。和服な上に腰には刀らしきものまで下げてるな。これはもしかすると。


「その部族の祖先は異世界人だったりしないか?」


「さすがソウですね。冴えています」


やっぱりか。


「過去下界に送った勇者の中に前の世界の文化を上手く広めた者がいました」


「なるほど、それが和文化か」


俺がこっちで生活を良くしようと思うように下界に降りた異世界人も同じ事を考えるだろうな。


そしてその結果が和人という部族か。


という事は他にもこのような異世界人の介入による文化がありそうだな。


「和人族は珍しい例ですね。大体の勇者は自分にだけ都合のいい能力を神様に求めて降りていきましたから」


確かに信者の願いを見ていると大半は自分のための願いだしな。


「うん、ありがとう。停止を解除してくれ」


「はい」


異世界人が及ぼした文化か。


そのうち信者が増えて視覚範囲が広がればそういう場所も見られるようになるのだろうか。


ちょっと楽しみだな、どんな風に発展してるんだろうな。


よし、頑張ろう。


「ソウ、そろそろ時間です。・・・なんですかその顔」


「いや、うん、なんでもない」


出鼻をくじかれた。


おのれ、このやる気の空振り感どうしてくれるんだ。




「なあサチ」


せっせと片付けをしているサチの背中に聞く。


「なんですか?」


振り向かずにそのまま作業を続行しながら聞き返してくるのが対等な感じで逆にいい。


「こっちの事とかもっと知りたいんだが」


常々思ってはいたがここと前居た世界では違うものが多すぎる。


衣食住をはじめ、思考、常識、文化等々驚くことばかりだ。


のらりくらりと生きていける人なら気にせずともやっていけるかもしれないが、俺には無理だ。


だから色々知りたい。


「ソウは真面目ですねぇ」


片付けを終わったサチがくるっと振り向きながら言う。


金色の長い髪と真っ白な羽がふわりとなびいて美しい。


「そうかな」


「そう思います」


「そうなのか。変かな」


「変という程ではありませんが少し変わった方と思われるかもしれませんね」


「サチはどう思う?」


「私ですか?そうですね、真面目な方は好感持てます」


「そ、そうか」


真正面から言われると何か照れるな。


「では今日はソウの勉強会にしましょうか」


少し思案したサチが提案してくる。


「そうしてくれると助かる。ここでやるのか?」


「いえ、良い場所があります。そちらに移動しましょう」


そういうと俺の腕を抱えてくる。


別に手握るだけでいいはずなんだが、どうもこのやり方で転移する事が多い。


ま、嬉しいからいいけど。




「着きました」


転移した先は森の中だった。


今までの開けた草原や農地とは違って空より木々が視界を埋める空間。


着いた場所からは一本の石畳の道が伸びている。


石畳のも草や苔が生えていて味わいがある。


「こちらです」


サチに促されるまま石畳を進む。


「いいな、ここ」


「そうですか?」


「うん、風情がある」


「フゼイ?・・・すみません、よくわからないです」


あーそうか、こういう趣向も持ち合わせてないのか。


「風情ってのは・・・説明が難しいな。そうだな、自然とか見て何かここいいなって思う心かな」


「随分と漠然としていますね」


「漠然としたものだからな実際。自然の楽しみ方の一つだと思ってくれ」


「釈然としません」


理解できなくてもやもやしてそうだな。


「うーん、わからなくても問題は無いぞ?効率とはかけ離れた考え方だし」


「そうなのですか」


そんな眉間にしわ寄せてまで考えることでもないと思うんだが。


「やっぱりわかりたいです」


何かの考えに行き着いたのか言葉に力を感じる。


「どうしてまた」


「理由は簡単です。私がわからないのにソウが一人で楽しそうにしているのは腹が立ちます」


「えぇー・・・」


つい声が出てしまった。


「ずるいです。ですから私にも教えてください」


出た、上目遣い。ずるいのはどっちだよ。


「わかったよ、俺の感性でいいなら教えるが、理解できるかはわからないぞ」


「それでもいいです。ソウがこっちの事を知りたいように私もソウの感性というのを知りたいです」


どきっとするような事を言ってくれる。


そういう意味じゃないんだろうけど、いい感じに殺し文句だよなコレ。


「わかった、じゃあお互い教え合う感じでな」


「はい、よろしくお願いします」


あーもー、その笑顔も反則だわー。

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