情報館
しばらく歩くと屋根がドーム状にになっている建物が見えてくる。
そこだけ木々が無く光が差し込んでおり、光でくりぬかれた空間のようで神秘的に見える。
「あそこが目的地か?」
「そうです、情報館と呼んでいます」
「情報館?」
「図書館、博物館、資料館。そういったものを全て集約したような場所です」
「ほほう」
「天界各地に点在していますが訪れる人はそれ程多くありません。私はたまに来ていましたが」
「へー」
相槌しながら思考する。
こっちに来てからひとつの情報で幾つも考える事柄が出てくる。
まるで初めて外に出た子供のようだ。
「そうか」
そう考えるようにしよう。
少し気が楽になった気がする。
「ソウ?何かありましたか?」
サチが不思議そうにこっちに振り向いて聞いて来る。
「いや、楽しみなだけだよ」
「そうですか」
回答が良かったのか少し満足そうにして前に向き直った。
子供か。
サチのふわふわ揺れる髪と羽を眺めてると別の考えが浮かぶ。
いや、この考えは今するのは止めよう、うん。
他の事が頭に入らなくなりそうだ。
「いらっしゃいませ、サチナリア様」
情報館の中で色の違うメイド服に似た服を着た女性が数名で迎えてくれた。
姿形はほぼ同じで一番違うのが服の色という程似てる。
迎えとは別に更に遠くからこちらを見ているのが十数名。
表情は無いがサチに対して丁寧なお辞儀をしている。
「お迎えありがとう」
サチの立ち振る舞いが若干変わった気がする。
どうやらここでは立場が上みたいだからそうしてるのか。
「サチナリア様、そちらの方は?」
先頭の濃紺服のメイドが尋ねる。
情報館に入ってからずっと俺に鋭い視線が集まっている。
入る時もサチが扉の前で認証チェックのような事してたし、警戒されても仕方ないので大人しくしているがそろそろ辛い。
「こちらは神様です」
「神様!?」
あ、これ前にも見たことある奴だ。
警戒の視線が一気に無くなり、代わりに館内がざわつき始める。
目の前のメイドの後ろの方の子達は両手を取り合って跳ねて喜んでたりする。
ただ、表情が乏しくて若干怖い。
「皆さん静粛に」
先頭のメイドが通る声で言うとぴたりと音が止まる。
「見苦しいところをお見せしました。はじめまして、私この情報館の総館長及び代理管理を務めさせて頂いております」
すっと前に一歩出て深々と丁寧な礼をしてくれる。
そしてそれに合わせて後ろのメイドたちも頭を下げる。
統率の取れた場というのが良く分かる。
「はじめまして、駆け出しだがよろしく。名前を伺っても?」
「はい。ANGE-T-C002643です」
「え?」
耳を疑う。
何か聞き馴染みのない名前が出てきて頭の思考が一瞬停止する。
「彼女達は天機人と言って天使ではありません」
サチがすかさずフォローしてくれる。助かる。
「天機人は天使と違う生体構造をしていて、機械の人と言えばわかるでしょうか」
「あぁ、うん。何となくわかる」
機械の人。つまりアンドロイドか。
前の世界の空想の産物が目の前にいるのか。
「私は役職で呼んでいます。総館長とかそこの司書さんとか」
「そうか。ふーむ」
役職名が呼称か。
俺が神様と呼ばれるのが嫌だから彼女達をそうやって呼ぶのは気が引けるな。
「ソウ、もしなんでしたら彼女達に呼び易い名前を付けませんか?」
「え?」
「本当ですか!?」
おおう、冷静だった総館長が身を乗り出してきた。
顔の表情はあいかわらず乏しいが、天機人はそういう人達と考えよう。
「失礼しました。しかしそれが本当であればこの上ない喜びです」
総館長が両手を胸の前で握って打ち震えている。そんなにか。
「しかしいいのか?俺なんかが付けてしまって」
「いいですよ。私ここの管理人ですから」
「は?え?サチここの管理やってんの?」
「はい。言ったではないですか、たまに来ていると」
「あぁ、そういうことか」
サチがここに来る理由、メイド達の態度、そして俺が名付けしていい理由、色んな疑問が一気に解けた気がする。
「でもいきなり全員は無理だぞ」
「必要に応じてでいいですよ」
「何か制限とか法則とかあったほうがいい?」
サチと総館長に聞くが二人とも首を振る。
「じゃあとりあえず総館長は・・・ふーむ・・・アリス、かな」
「アリス、ですね。・・・登録完了。素敵な名前ありがとうございます」
お、喜んでもらえた。
嬉しそうにしてるアリスを見てるとサチがこっちを凝視してきた。
「なんだ?」
「いえ、予想外にいい名前を付けたので意外だなと」
失敬な!
おかしい。
俺の知識不足を補うために情報館に来たはずなんだが。
「うーん・・・リゼ!」
怒涛の名付けラッシュになっている。
アリスに名前を付けた流れでそのまま各部署長の名前を付けることに。
名付け方法は簡単。
見た直感。
無表情かと思ってた天機人もじっと見てると人柄が少しわかってくる。
サチならもっとわかるんだろうか。アイツ人相判断には自信持ってるし。
名付けられたメイドは嬉しそうにしながら自分の持ち場に戻って行ってる。
その戻る様も照れる、小走り、スキップ、踊ると様々だが今のところ付けた名前のイメージとかけ離れた感じはない。
ちなみにアリスだけ俺の後ろでかぶりが無いかチェックしてもらうために待機してもらっている。
「あと八名です」
まだ結構いるな。頑張れ俺。
「あーおわったー・・・」
案内された部屋の椅子でぐったり。
「おつかれさまです」
サチがお茶を出してくれる。
まさか一日で十数名の名前を付けるとは思わなかった。
頭をフル回転させて付けただけあったのか皆喜んでくれたみたいでよかった。
「ありがとうございました、ご主人様」
「・・・ん?俺?」
「はい。お気に召しませんか?」
脳の活動力が低下してる時にアリスから不意打ちを食らった。
「いや、え?なんで?」
「サチナリア様がそう呼べと。他でしたら主様、旦那様、マスターなどありますが」
「いやいや、そうじゃなくて、なんで俺が主人?」
サチに聞くとさも当然かのような顔をして答える。
「神様ですから」
あーはい。そうですね。
「じゃあ好きに呼んでくれ」
「好きにですか?」
「うん。アリス達って見た目こそ似てるけど結構性格違うでしょ。それぞれ自分で呼びたい呼び方あるだろうし」
せっかく個別に名前付けたんだから出来るだけ個性出して欲しいからな。
「じゃあ面白いのにしましょう。ごちゅじんたまーとか」
「おう、サチ。今度ルミナの前で俺の事そう呼べよ?」
「ごめんなさい、冗談です、許してください」
まったく、こいつは何を言い出すんだか。
「そんなわけで許容できそうにないやつだったらその都度言うからアリス達の好きな呼び方でいいぞ」
「はい。かしこまりました、主様」
おお、早速変わった。アリスは主様派かー。
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