作物と料理技術

しばらく歩くと大きい倉庫のような建物に着く。


農園の広さで感覚が鈍ってるがこれ相当大きいぞ。


「少々お待ちください」


ルミナテースは先に入って行った。


俺は入り口で待ってる間もう少しここについてサチに聞いてみる事にした。


この農園はルミナテースを筆頭に十数名の天使が従事している。


従事している天使達はルミナテースの農作物や料理に感銘を受け、賛同する者達。


「類友ってやつですね」


肩を竦めて私は違うとアピールしながら言うサチにいろいろ突っ込みたいが薮蛇なので黙っておく。


「ソウ様、どうぞお入りください」


まだ色んな疑問が残ってるがひとまず置いておいて中に入る。


中では作物のかごを前にした天使が勢揃いして待ってた。


「いらっしゃいませ!」


正装に着替えた天使達が一斉に挨拶する。


こういうのされた事なかったからびっくりするな。


「彼女達は私の仲間で担当作物の自信作を持ってきてもらいました」


なるほど、それで皆各自でかご持ってるのか。


しかし見た目の差はあるものの全員女性だな。そして皆ルミナテースより若く見える。


ひとまずかごの中身を見せてもらう。


うーん、何一つと知ってるのがないな。


困ってるとサチが提案してくれる。


「味見したらいいのではないですか?」


うん、そうしよう。


ルミナテースに味見したい旨を伝えるとかごを持ってた天使達が一斉に何も無い空間に手を突っ込んだ。


そして各々食器類を出してその場で食べられるようにしてくれた。


便利だな、アレ。俺も欲しい。




「ど、どうぞ」


俺は端の天使の担当作物から順に味見して行く事にした。


担当の子はかなり緊張してる。実は俺もしてる。


作物を口に放り込む。


うん、ん?おお、これはバナナと同じ味がする。


食感がリンゴで味がバナナか、頭が混乱してるのがよくわかる。


でも美味いな、後味がすっきりしてていい感じ。


次行ってみよう。


お?コレは普通に玉ねぎだな。


ああ、元の形が四角いのか、なるほどなるほど。


次は、白いけど味がニンジンだ。


生の食感なんだが味が煮た甘いニンジン。


面白くなってきた、ドンドン行こう。




幾つか試食していくうちに法則がわかってくる。


知ってる味の野菜は形状や色が違う。難易度低め。


果物味は食感が違う。若干混乱する。


そして香辛料や調味料系。


「辛っ!?」


甘い香りのする柔らかな果肉を口に含んで噛んだ瞬間じゅわっと広がる辛味。


条件反射のような速度で近くに用意されてた水で流し込む。


また騙された。


そう、香辛料や調味料になりそうなものは高確率で騙される。


今回は一見果物のようで中身が唐辛子だった。


何個か前のは細く切って皮をむいたジャガイモのような無臭の棒を齧ったら強烈なニンニク味に襲われた。


大体そういう部類のを食べる時は近くに水が用意されてるのだが、心が追いつかない。


あー、まだ口が辛い。


「だ、大丈夫ですか?」


用意した天使が心配そうに聞いて来る。


良く見ると顔を赤くして震えて笑いを堪えてる。


周りの天使を見ると同じような反応。


おのれ、俺はリアクション芸人じゃないぞ。


サチに至ってはうずくまって肩を震わせながら軽く呼吸困難になってる。


くそう、後で覚えてろよ。




一通り試食し終わってわかった事。


驚くことに肉や魚、乳製品といった動物性のものの味がする作物があった。


勿論食感等には違いはあるもののこれは嬉しい誤算だった。


問題は作物の名前。


正直俺じゃ発音できない。


例を挙げるならバナナの味がするリンゴみたいなやつ。


作物名クルゥォントゥウィルァ。


うん、頑張ってこれだ。


ルミナテースが発音する後に続いてみたがどうやらダメのようでがっかりした顔された。


なので開き直って前の世界の作物の名前で通すことにした。基準は味。


幸い野菜類は形状だけの違いだし、果物はそんなに調理をしない。


調味料系も初見じゃなきゃ大丈夫だろう。


動物性作物は仮名として牛肉の実、マグロの実、牛乳の実といった感じに呼ぶことにした。


よし、何とかなるかな?たぶん。


ルミナテースが俺がどんな料理するのか気になるようで調理室に早く行きたがって腕を引っ張っている。


何でサチは反対の腕掴んでるのかな?


「面白そうなので」


面白そうってお前。


あ、他の天使達も付いてくるのね。


んじゃ移動しますかね。



調理場に移動したが前の世界と比べるとやっぱり殺風景。


サチの家のキッチンと比べると皿や器などは置いてあるが、調理器具が見当たらない。


あの空間収納で各自持っているのだろうけど、先ほどの試食ではナイフで切るところしか見なかった。


「こっちの器具の使い方を見たいから先に何か作ってくれないか?」


「え?あ、はい、わかりました」


ルミナテースにそういうと一瞬意外そうな顔をしたが、直ぐに自分の空間収納からナイフを出して作物を刻み始めた。


うん、刻んだね。その後は?え?それを皿に盛るの?


「できました」


出来ましたって切っただけなんだが。


「ソウ、早く召し上がってください」


サチが急かすので口に運ぶがさっき試食で食べた時と同じ味しかしない。


「うん、美味しいが、まさか料理って切るだけなのか?」


「そうですが何かおかしいですか?」


ルミナテースが不安そうな顔でこっちを見てくる。


「あ、いや、うん、美味しい美味しい」


「そうですか!よかったです!」


慌てて次を口にに運ぶと周りの天使達も嬉しそうに手を合わせて喜んでる。


「サチ、ちょっと確認したいことがある」


小声でサチを呼ぶ。


「まさか彼女達の料理というのは」


「そうです」


「やはりそうか」


「言いたい事はわかりますが今言うとショックを与えかねないので、ひとまず切るだけの調理で何とかしてください」


そういうとナイフを貸してくれた。


さすがサポート上手というべきか、サチのこういう察しの良い所は美点だと思う。


ひとまず俺は適当な相性の良さそうな果物系の作物を二種類手に取りスライス。


それを二つ一組に合わせて皿に盛ってルミナテースの前に出す。


「ほい、できたぞ」


「ソウ様、これは?」


「俺の料理かな。こんな感じに一緒に食ってみてくれ」


赤と黄色の果肉を同時に食べてみせる。


「はい、それでは・・・っ!?」


俺と同じように口に含んだルミナテースの目が見開かれる。


「美味しい!」


その後は大混乱だった。


ルミナテースは他の天使達に皿を勧めると瞬く間に皿の上が綺麗になり、同時に黄色い歓声が上がった。


そして俺はおかわりを求められ同じものを数皿、更に別の組み合わせも作る事になった。


美味しいって喜んでくれるのは嬉しいが、今後俺の理想の生活の事を考えると素直に喜べなくて苦笑いしか出来なかった。

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