第4話君の奇跡と必然

 今日は必ず彼に話しかけるんだ。そんなことを思いつつ、家を出る。私は学校に行くまでの時間に、彼に話しかける計画を考えることにした。

私と彼が話す絶好の機会は朝だ。朝の挨拶は学校において男女関係なくするものらしく、とても自然な行為だと言える。そして、必要最小限のコミュニケーションであるのが挨拶。彼と朝の挨拶を成功させれば、その後も話しやすくなるだろう。だから、朝の挨拶は絶対に成功させなければならない。

私は入念に作戦計画を確認した。まず、彼は出欠確認の5分前の8時15分に学校に来ることが多い。彼から朝の挨拶をしてくれるか分からないから自分から積極的に言わないといけない。なので、私はいつもの電車を1本遅らせて8時15分から20分の間に学校に着くことにした。あわよくば、彼と鉢合わせて、そのまま話せたらいいなと考えていた。

彼が教室にいて彼の席に居たら作戦の成功は約束されたようなものだが、彼がもし他の人のところに行ってたり、まだ学校に着いてなかったりしたら、作戦の成功は絶望的になる。だが、私には勝算があった。

彼が来るのは結構ギリギリのため、他の人のところに行くという可能性はとても低いものであった。なので、彼が他の人のところに行ってるというのは考えないようにした。彼が学校に着いてなかった場合、私はトイレに行き主欠確認の1、2分前まで粘る。その間に彼が来ればミッションコンプリート。我ながら完璧な作戦計画だった。


 


 学校に着く。時刻はちょうど8時14分。校内に入ってすぐの下駄箱を確認したら、彼はまだ来てないようだ。これは想定内。まだ大丈夫。私は計画通り教室に着いたら、トイレに向かった。

そして、いつもよりゆっくりと動作を行う。これも、彼に話しかけるために必要な事だった。トイレを終え教室に戻る。時間は8時19分30秒ちょっとだった。これなら彼も学校についてるだろうと思い教室のドアを開けた。

彼はいなかった。彼の机にカバンもなく、来た気配が無い。今日は休みなのかな。それとも遅刻なのかなと思った。昨日彼と夜遅くまで話しすぎたせいかもしれない。

もうすぐ20分。私は席につき諦めかけていた。8時20分を知らせる鐘が鳴る。それと同時に彼が教室に走り込んできた。彼が来た。私から話しかけなければ、私は焦る。

彼がどんどん近づいてくる。話しかけなきゃと思うほどオドオドしてしまう。なんとか話さなくちゃと彼を見るも何も出てこない。その時、目が合った。彼は私の名字にさん付けして、彼がにっこりと笑って言う。


「おはよう」


一瞬びっくりした。私の方からちゃんと挨拶しないといけないと思っていたのに、彼から私に挨拶してくれるとか嬉しすぎた。私も彼の名字にくんを付けて、頑張って笑顔を作る。


「お…おはよう!」

「昨日は夜遅くまで付き合わせてごめんな。」


私が言うべきことであったかもしれなかったが、言われて少し嬉しかった。そこに、遅れて来た担任が教室に入ってくる。それを見た彼が続けて言う。


「あ…やべ、じゃまたな」

「あ、うん。またね。」


彼との朝の挨拶ができた。小さな1歩ではあるが、まだこれからこの1歩は大きくなっていく。いつか追いついて、歩の大きさが重なり、一緒に歩ける日を夢見てた。



 

6時間目が終わった。朝以外話せなかった。彼に話しかけようとしたが、なかなかタイミングが掴めない。前の席というのが厄介である。

帰りはちゃんと挨拶しようと決意した。そして、帰りのホームルームが始まる。いつも通りだるそうに先生が進める。だが、今日は何かやるようだった。


「えーと、6月から文化祭のクラスの実行委員の募集をしてたんですが、誰も立候補しなかったので今日決めます。男女1人ずつ。あと、今日締切なので決まるまで帰れません。」


 教室では不満の声があがる。このクラスは文化祭に対するやる気がない。ほかのクラスでは、放課後残ってやっているのを見ていたが、私のクラスでは文化祭という言葉は1度も聞かなかった。

やる気のないクラスで文化祭実行委員をすると、全てを任せられて、ほかの人たちは文化祭当日を楽しむのである。それゆえ、誰もやりたがらない。このクラスの文化祭実行委員は地獄でしかない。立候補者なんて出ないであろう。沈黙の時間が流れる。それをわかってたように先生は言った。


「立候補者が居ないみたいなので強制的に決めます。男子は廊下側、女子は窓側に集まって1人ずつ文化祭実行委員を決めてください。」


 ダラダラと席を立ち男女別れた。男子たちは最初はじゃれあったり、大声で関係ないことを喋っていたが、1人のリーダー的男子により、文化祭実行委員を決めるジャンケン大会が行われていた。

一方、私たちは、静かに「どうしようか」と沈黙しかなく、話は進行してなかった。私は周りにバレない程度に男子たちの方を見ていた。

そして、彼は順調に負けていった。教室に男子たちの熱いジャンケン大会の声だけが響く。私たちもジャンケンで決めようと1人の女子が提案したが、周りを見るだけでなかなか始まらない。

男子たちは残り2人でジャンケンしていた。彼とほかの男子だ。私は彼が負けるように願った。あいこが続く。8回目のあいこで一旦休憩になる。周りの男子たちは文化祭実行委員という重荷が外れ、ジャンケンの結果が出るのをハイテンションで見ていた。

私たちの方もジャンケン大会をやりそうな雰囲気になっていた。もし、彼がジャンケン大会に負けて、文化祭実行委員になったら、私は文化祭実行委員をやるつもりだった。

男子たちは白熱していた。一旦休憩していたジャンケンがまた始まったのだ。


「ジャーンケーン……ポン!」


 彼はグーを出し、相手はパー。彼の負けである。彼は悔しそうであったが、楽しそうでもあった。これも彼らの1種のイベント事なのだろう。

私たちの方もジャンケン大会が始まりそうだった。このままではまずい。私はとっさに言った。


「あっ…他にやる人いなかったら、私が文化祭実行委員やるよ」


 女子たちからは立候補する人はいなく、無事に文化祭実行委員になれた。地獄の文化祭実行委員は天国になったのだ。

私は文化祭実行委員に決まったことを先生に報告しに行った。そこに彼が後から来た。私と彼は一緒に先生に報告することになる。


「2人とも文化祭実行委員頑張ってな。何かわからない事があったら先生に聞いてな。じゃ、よろしくー。」


 彼と文化祭実行委員になれてよかった。これからきっと楽しい文化祭が文化祭が終わるまで続く。

私はこの機会を逃さず彼に思いを伝えることができるのだろうか。とりあえず私は後の事は考えずに、目の前の幸せに興奮を隠しきれなかった。

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