第3話君を知りたい
ホームルームが始まる。特に言うこと無かった先生は、時計を見ながらゆっくりと進める。
「掃除は4班だっけ…合ってるな、うん。じゃっ、終わり。」
先生の終わりの合図と同時に、号令の声が出される。待ちくたびれた生徒はだるそうに立ち上がる。
「きりーつ、れい」
ほとんどの人が頭を下げずに立ち去る。私は今日は掃除当番だった。そして、前の彼も同じ掃除当番である。私は、これはチャンスだと思った。
自然に彼に接する機会である。ただ、彼は遊んでいた。少しげんなりするも、男子だし仕方ないかと思って掃除を続ける。
掃除は割と好きだ。教室の見えないホコリ、そのホコリを見つけるために丁寧にホウキを使って見つける。今まで隠れてきたホコリたちは、1箇所に集まりゴミ袋の中に入れられる。
掃除を退屈と思っている人も多いらしいが、見えないものを集めるというなんともいえない楽しさがある。ぜひ、掃除の楽しさを全人類に知ってほしいものだ。
前の掃除当番がサボったのか、いつもより汚かった教室は元に戻る。ゴミが溜まっているゴミ袋を縛り、指定された場所に置いてきた。教室に帰ったら、彼は部活着に着替えていた。
私は部活が休みだったため、帰ろうと思っていたがやめた。部活待ちの友達が暇そうだったので話しかけに行く。私は部活が始まるまで教室に居ようとしていた。
彼のことはほとんど知らない。私たちは全くと言っていいほど喋った事がない。事務連絡とか、ちょっとした挨拶だけとか。彼を知るため、盗み聞きしてみたりしたけど、あんまり情報が集まらなかった。
彼に近寄るにも何を話せばいいのかすら分からない私にはただ見守るしかできない日々が続いている。
3年になったらクラス替えで違うクラスになってしまうかもしれない。最悪卒業まで彼と話すことなく終わってしまう気もする。私は焦る。なにかしら彼に近づかなければバットエンド一直線だ。時間はもうすぐ4時になる頃だった。友達は時計を見て、荷物をまとめ始めた。
「あ、私そろそろ行くね。また明日!じゃねー!」
「うん、また明日」
私も用事がないのでそろそろ帰ろうとする。鞄は机にかけていたので取りに行こうとする。
そこには私の前の席に座っている彼がいた。彼は1人で黄色い紙に何かを書いていた。これはチャンス!彼は1人、私は帰り際にカバンをとり、さりげなく彼にさよならを言う。うん。素晴らしい。これでいこう。
私はゆっくりと彼に近づく。机の左側に掛けてあった自分のカバンを取る。問題はここから、彼になんと言うかである。突然さよならとか言われてもびっくりするだけである。そうだ、彼がなにか書いてた黄色い紙について聞けばいいのでは。
話しかける言葉は決まった。あとは、覚悟を決めて、緊張しないように話しかけるだけだ。
「それ……何書いてるの?」
第一声は完璧だ。彼は私に気がついて振り返る。
「あーこれ、今日の部活7時までやるから部活時間延長届け。」
「へー、部活頑張っているんだね。」
「次の大会まで近いし、頑張らないと。あれ?今日は部活ないの?」
「うん。今日は無い。ごめんね、邪魔しちゃって。部活頑張ってね。また明日!」
「おう、また明日。じゃーなー。」
「うん。じゃーねー。」
あああああ。恥ずかしい。彼とこんなに長く話したのは初めてだ。私にしては頑張った方なのでは?よくやった私。
ご褒美にコンビニでコーヒーゼリー買って帰ろ。そんなことを思いながら家に帰るのであった。
午後11時、私は寝る準備を済ませ、ベットに寝転がる。今日は少し彼と話せたこともあって気分がいい。明日も挨拶できるといいな。今度は彼から言って欲しいな。完全に心が高ぶっている。
これじゃあ寝れそうもない。私はスマホを手に取ってMINEを開いた。彼の連絡先はほとんど話したことない私でも持っていた。
私のクラスグループのチャットは機能しておらず、時々事務連絡が流れる程度であった。ほとんどの人が自分の親しい人とグループを作っている。わざわざ、クラスのMINEで話す必要は無いのだ。
彼とはクラス替えの時に、彼から「1年間よろしく」という挨拶が来た。私は4文字で「よろしく」とだけ書いて送った。それ以降のやり取りはなかった。5ヶ月前の私は何してるんだ。もっと会話を続けようとする努力しろよ、と5か月前の私に怒る。
私はクラス替えの時に彼を知った。何も知らない5ヶ月前の私を責めても無駄だった。私はその会話を睨むように見ていた。
もっと愛想良くしてたら、彼との会話が今も続いてたのではと思ってしまう。その時、スマホが震えた。彼からのMINEであった。
嬉しかったがそれよりもやばい状況である。5ヶ月間もやり取りしてなかったのに、メッセージを送ったら即座に既読がつくとか、ストーカーを疑うレベルの話だ。
やばい、やばい。既読はついてしまった。なにか返信しなくてはいけない。
彼からは、今日の英語の宿題を見せてもらったことに対するお礼が書かれてあった。私は彼との関係が長く続くことができるような返信を考える。うーん、困った時は助けるよぐらいがいいのかなと思い、手を動かす。
「今度忘れた時も見せてあげるよ」
これでいいのかな?ドキドキしながら彼の返信を待つ。
「ありがとうw そういえば既読早かったけどなんかあった?」
速攻で聞かれた。
「ちょっと聞きたいことあってさ」
苦し紛れに答える。もちろん聞くことなど決まってない。いや、聞きたいことは沢山あっても、それは恋関連なのだ。どんな女の子が好きなのかとか、気になってる人はいるの、みたいな。そんなこと聞けるわけないよ。
「なんでも聞いていいよ」
私に考える暇を与えず彼の返信が来る。今日、部活の話をしたから部活の話がいいのかな。
「副部長大変じゃない?」
突然過ぎたかな?まぁいいか。最近後輩がうざかったのでその事について話してみようかな。相談って結構親しくなりそうだし。
「ほとんど部長に任せてるし、俺は楽だよ」
「そっか。最近後輩がさ、言う事聞かないんだよね。そういうことある?」
「あるよ。これやっといてって言ってもやってくんないし。先輩の話聞かない奴が多い」
「先輩の話聞かない人は多いよね笑。そういう時怒っても意味ないしどうすればいいか分からないよね」
「人それぞれだと思うけど、怒らずに話し合った方がいいかもね」
私の相談する作戦は成功した。その後も後輩に対する愚痴を書いてたりしてた。結構話せた気がする。
ここから部活以外の話を持ち出す。学校のこと、普段何してるかとか。彼のことを聞けて良かったと思う。気づいたらもうすぐ深夜1時になろうとしていた。
「そろそろ寝るわ」
「こんな時間まで付き合わせちゃってごめんね」
「楽しかったし別にいいよ。ほとんど話せてなかったし、たくさん話せて楽しかった。」
「ありがとう。また話していい?」
「いつでもいいよ」
「わかった。また学校でね。おやすみ」
「おうまた明日な」
彼から、猫が布団で夢を見ているおやすみスタンプが送られてきた。私は彼との会話を見てニヤニヤが止まらない。彼と話せたこと、彼が私と話せて楽しかったと言ってくれたこと。嬉しすぎて、枕を抱え足をバタバタと、まるで子供のように嬉しさを体全体で表現していた。
彼とはどのくらい近づいたのだろうか。今度はちゃんと面と向かって話せるだろうか。明日は私の方から彼に話しかけてみようと決心した。明日がきっと分かれ道だ。話しかけられるか、話しかけられないかで、運命が変わる。私は必ず彼に話しかけることを心に決めて、寝ることにした。
だが、結局興奮しすぎてほとんど寝れなかった。私としてはそれはそれで良かった。彼との会話の内容を寝ることができる時まで考えていた。そして、いつも通りの学校が始まるのであった。
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