DAMECA
高塚鐵舟
あなたの死は何ポイントですか?
何に価値があるのかわからなくなってきた。
昔は現金によって経済が回っていたが、最近はキャッシュレス化がかなり進んでいて、今では不思議なことに店ごとに別の決済手段が存在するほどの充実をみせている。しかし「我が社の系列店で我が社の決済手段を使うとポイントがたまります」と謳っている会社ばかりあるせいでカードが増え、現金を持っていた頃と変わらぬほど市民の財布は厚いままだし、カードタイプでなくともスマートフォンのアプリの数が増える一方なのだ。そういったこともあり私はこれまでずっと現金を使ってきたが、今朝見たテレビのキャッシュレス特集で、ポイントや還元などにより現金では大損をしていると思うようになり、こういった事情に詳しい友人Sに話を聞いて新しい決済手段を導入することにした。
友人Sから勧められた決済手段は「DAMECA」というものだった。DAMECAは国内での採用率が多い決済手段界の大手が「悲しいことが起きた人に少しでも元気になってもらうため」に作ったという比較的新しいサービスであり、通常の買い物などでのポイント付与やボーナスデーの多さなどでも他のサービスを少し上回っているのだが、そのうえで「ダメージカウンター」という業界初の機能がついていることが最大の売りだそうだ。
ダメージカウンターは、スマートフォンやスマートウォッチを通してユーザーの精神状態を読み取り、悲しいやつらいのようなマイナスの感情、総称して「ダメージ」を感知することで、月の変わり目にボーナスポイントが付与されるというシステムらしい。だから、「だめか」と「ダメージカウンター」と「カード」で掛けて、ダメカ、DAMECAなのであるそうだ。
友人Sは先月に同僚を事故で亡くしていて、今月の頭にポイント履歴を見たら大量のポイントが付与されていたらしい。なるほど、人の死による悲しさでポイントが付与されるのであれば、早めに入って損はない。そう思い私はDAMECAをはじめてのキャッシュレスデビューに選んだのである。
特に悲しいことも起こらないままDAMECAを導入して半年ほどが経ち、私がダメージカウンターのことを忘れてしまった頃に友人Sが事故にあった。私はとても心配したが、事故にあったのが彼だったこともあり、忘れていたダメージカウンターを思い出し、少しそのことが気になってしまった。
結果として数日後に意識が戻らないまま彼は死んだ。私は彼が死んだことは悲しかったが、長年の付き合いがあり、親友だと思っていたほどの彼の死でダメージカウンターがどの程度の悲しみを感知し、ポイントを付与してくるのかと考えてしまってからは、不謹慎ながらもワクワクしてしまっていた。
彼が死んだ次の月、そろそろポイントが付与されただろうと思いポイント履歴を見たら、ボーナスポイントはついてはいなかった。
私は友人が死んだことよりポイントへの好奇心が勝ってしまったのかもしれないと気づき、とても後悔した。DAMECA導入のきっかけが友人Sだったことも含めて、このサービスを忌々しく感じた私は解約をするためにカスタマーサービスに電話した。すると、解約担当の男が言った。
「そのような理由でしたら、せめてもうひと月だけ、解約を待っていただけませんか。来月になって、気が変わらなかった場合、また電話で私を呼び出してください。そのときは、一切止めずに解約させていただきます」
1ヶ月後、ポイント履歴を見ると、ボーナスポイントが付与されていた。
『ボーナスポイント(後悔)___2500ポイント』
DAMECA 高塚鐵舟 @TanboNoTa
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