第25話 記録が終わり、そしてルーツを辿るペンギン達

 残り十一人の捜索は直ぐに行われたが、おそらく何の意味もないだろう、反乱を起こされたのなら何人かは死亡しているだろうし、もしくは一般人に紛れてコールドスリープに入っているかもしれない。

 何にせよ、見つけた所で倒し方は判明せず、裁判をかけても時間の無駄だ。そうは言っても上の偉い人達は納得せず延々と無駄な追求やら議論やらを行っているのだが。


 それよりも奴らを倒す方法について考えたい。

 実はこのグラニーという男、重要な事を述べていた。なんでも、巨大物体には中心となる核があり、そこに電気信号で指示を与えていたという事なのだ。

 つまり、その核にさえ辿りつければ活動を止める事ができる。


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「お、流れが変わってきたな」

「な? 物語としてみると面白いだろ?」

「確かに」

「むぅ、お父さんは真面目に書いてるんですよ!」

「怒らせちゃった」

「今のはヨハンが悪い」

「俺だけかよ!」


――――――――――――――――――――

 

 問題はその内部への侵入方法だ。犯人の話では巨大物体には必ず入口があるとの事らしいからまずはそこを探す必要がある。

 次に入口に辿り着くにはだが、ここが鬼門だ。何せやつらはアバドンと呼ばれる小型子機の群れを使って歩兵や戦車を殲滅している。つまり地上から侵入するにはまずアバドンの群れを突破する必要があり、しかも現行兵器ではそれが困難となる。


 また内部にもアバドンがいるらしいので、戦車では無理だ。かといって歩兵ではアバドンに蹂躙される。

 ヘリで侵入しようにも巨大物体は全て対空レーザーを装備していて撃ち落とされる。

 つまりアバドンを倒せる程の強さを持ち、巨大物体の身体に張り付いて入口まで移動できる程の器用さがある兵器が必要となった。


 チープだと笑ってくれて構わない、その際我々が選んだ選択肢というものが人型機動兵器なのだから。

 メテオライトをふんだんに使ったロボットだ。幸か不幸か、メテオライトの増殖変化のみで機動兵器が作れる事は巨大物体が証明している。


 我々は直ぐ作業に取り掛かり、半年後に最初の一体を作り上げた。ライフル銃を扱う遠距離主体のロボットだ、真っ青なカラーリングに一つ目という不気味な見た目だが、ちゃんと起動して動かせる。装甲に不安があるので、盾代わりにメテオライトで作った棺桶を持たせた。棺桶なのは私の趣味だ、映画「Django」が大好きなのでね。


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「これ、もしかしてペイルライダーじゃね?」

「棺桶ロボなんてヨハンのペイルライダーぐらいだろ」

「お父さん達が最初に作ったロボに乗るなんて、ヨハンさんって妙に私のお父さんと縁がありますよね」

「会ったことないけどな」


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 結論から言えば作戦は成功した。我々が作ったロボット、ペイルライダーと名付けたのだが、そのペイルライダーがシアトルを壊滅させた蛇の中に侵入して核に接触、そして巨大物体専用に作ったウイルスを流して活動を停止させる事に成功した。

 しかし大成功とは言い難い、ペイルライダーを侵入させるために戦車大隊を三つも壊滅させてしまった。


 ペイルライダーはアバドンに対しては大きな戦果をあげたが、やはり巨大物体と正面から戦うには非力であった。

 嘆いている暇はない、我々は直ぐに二機目のロボットを作り上げた。カラーリングは赤、装甲はペイルライダーより硬めにしてある。主兵装は幅広の剣が三本と拳銃。ペイルライダーと違い近接戦闘に重きを置いている。

 これはペイルライダーと組ませるためだ、名前をローンレンジャーとする。

 また残ったオービタルリングの施設を利用して整備施設とする。地上から召喚して衛星軌道上から射出する仕組みだ。これにより運送の手間が省ける。


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「ローンレンジャー、こいつは知らないな」

「ペイルライダーとは真逆をいくのか、もし遭遇したら気をつけろよヨハン」

「遭遇したらな、有り得ないけど」


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 ローンレンジャーの後も三機目、四機目の開発に乗り出した。この一連のロボットをフロンティアシリーズと呼称する。

 ようやく始まった人類の反撃、人々は映画のような逆転劇がおこると湧いていた。

 余談だが、この時の総人口は最盛期の五分の一程しか残っていない。多くは巨大物体に殺され、また極一部の者はコールドスリープに入っていた。

 私の娘も巨大物体との争いが始まってすぐにコールドスリープに入っている。あそこが襲撃されたという話は聞かないが、無事でいてくれてるだろうか。


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「今俺達の隣であんたの記録を読んでる」

「茶化さないでください」

「すいません」

 

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 恐ろしい事がおきた。巨大物体の中には空を飛ぶ物もいるのだが、そいつが致死性の高いウイルスをばら撒き始めたのだ。おかげで世界各地でパンデミックが起こり、医療崩壊すら生易しいレベルとなっている。

 しかし対処できないわけではない、我々NASAは巨大物体との戦いが始まる前にナノマシンを開発していた。メテオライトの特性を利用し、栄養さえあれば身体の調子を整え、環境に順応できるよう変化させてくれる。


 既に完成品から数年が経っているので量産体制は整っている。数が多いので四機目の開発に使うつもりだったメテオライトを使って量産、出来上がったものから順次人々に配っていった。

 だがここでもまた問題がおきた。少ないナノマシン生成機を巡って争いが起こったのだ、これ自体は予測できたので強引だが武力で制圧した。


 問題はこれだけではない、ナノマシンの効果だ。ウイルスに感染していない人間が使えば、ウイルスに対する抗体となるだけで何の問題もないが。既に感染してる人が使うとナノマシンがウイルスと化学反応を起こしてDNA配列を狂わせるのだ、これはナノマシンが最初に人体に合わせて性質を変えるという特色があるゆえ起こるもの。


 つまりウイルス感染した人間がナノマシンを取り入れると、その姿を大きく変えてしまうのだ。骨格も皮膚も何もかもが変わってしまうので、人によっては激痛に耐えられずそのまま死亡してしまう事もあった。


 激痛に耐えられても最早人の姿ではない。その現実に打ちひしがれて自殺する者も現れた。

 しかしナノマシンはウイルスを除去する事には成功していた。これを踏まえて至急ナノマシンの改良を行い、また感染者に使用する場合はかならず全身麻酔をしてからになった。

 結果、おぞましい姿になる事は避けられるようになったが、ウイルスと反応してしまう事は避けられず。結局人の姿は保てない。

 何故か動物の姿になってしまった。

 モフモフの世界がやってきたのだ。


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「なんでだよ!! 急にギャグ挟むなよ!」

「落ち着けヨハン、お前のそれもギャグだ」

「まあまあ、でも獣人の起こりはきっとこのナノマシンとウイルスの反応が原因だったんですね」

「この時メルは寝てたんだよな?」

「ええ」

「だからスコッチを初めて見た時驚いてたんだ」


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 動物となった人間は、姿が変わった事以外特段異常は無かった。むしろ楽しんでる者さえいた程、我々はそういう彼らを便宜上獣人と名付けた。

 今コールドスリープから目覚めた人が彼等を見たら大層驚くだろうな。

 

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「メルのお父さんは預言者かな」

「いや、普通そう思うでしょ」

 

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 パンデミックによる死者は相当なものだったが、何とか乗り切れた。

 再びフロンティアシリーズによる巨大物体討伐が始まったのだが、フロンティアシリーズのパイロット候補が軒並み獣人となってしまったため、人型機動兵器から動物型機動兵器へシフトせざるを得なかった。

 これは操縦方法がレバー式ではなく、パイロットの動きに連動したモーションキャプチャー方式だからだ。

 それゆえ人間のパイロットには人型機動兵器を、獣人のパイロットには動物型機動兵器をあてなければならない。


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「終わりです」


 唐突にクリス・アダムスの記録を膝の上に置いたメルが無慈悲にもそう告げた。


「え? 終わり? こんないい所で?」

「はい」


 状況を飲み込むのに少し時間がかかった。

 ヨハンは頭の中でこの記録を思い返して大まかにまとめていく。


「まとめると、まずメテオライトという物が見つかった。

 そのメテオライトを悪用した奴らが巨大物体を作った。

 巨大物体と戦うためにペイルライダー等のフロンティアシリーズが産まれた。

 巨大物体がウイルスを撒き散らした。

 ウイルスを何とかするため兼ねてから開発していたナノマシンを使った。

 しかしその過程で獣人が産まれた。

 獣人用に動物型機動兵器が作られた。

 というところか」

「お父さんの記録よりわかりやすいです」


 それはそれで娘としてどうなのかと思う。

 改めて記録を読み返したいところだが、いかんせん今の状態で既に頭がパンパンである。情報量が多くて処理しきれていない。

 ひとまず休息したいと思い、ヨハンは重い腰を持ち上げる。


「一旦休むよ」


 力なく呟いたその時、突然大きな地震が発生し、大地を、山を大きく揺らした。


「不味い! 崩れるぞ!」


 スコッチの忠告通り、山の上から土砂やら岩やらが降ってくる。それらを躱しながら何とか山から離れる。幸いペイルライダーを出したままだったので、遠隔操作で呼び寄せてペイルライダーに捕まる形でその場を離れた。

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