第23話 感動の再会は砂塵と共に
朝になった。
「さあ開けよう!」
うざいぐらいにヨハンのテンションが高い。しかもまだ夜が明けたばかりで西の空はまだ暗い。
「うぅぅん、何でそんなに元気なんですか……ふわぁ」
寝起きゆえ髪がボサボサになったメルが眠気眼を擦って欠伸を噛み殺しながら、二度寝したい欲求に耐えて言った。
「昨日のやつを開けたくてさ! どうやって開けるの?」
まるで子供のように目をキラキラさせてくる。なまじ顔がいいだけに、こういう無邪気な姿を見せられると女として母性のようなものがムクムク湧いてくる。本来なら。
残念ながら寝起きの頭ではそんな甘酸っぱい思考には至らない。
「大分年月経ってるのでまだソーラーパネルが使えるかわかりませんし、使えるとしても効率悪いでしょうから、とりあえず六時間ぐらい日光にあてて様子を見たいんですけど」
「そんなにかかるの?」
コクリと頷く。
自分の気が急いていた事にようやく気付いたヨハン、しばらく表情を固めたままメルと見つめ合っていた。
「じゃあ……先に遺跡に行くよ」
「いってらっしゃーい」
メルの声援を受けてヨハンはドボドボと歩き出した。その背中はどこか哀愁漂っていた。
ヨハンを見送った後、メルは自分の寝袋を畳んでから未だに眠っているスコッチへ目を向けた。
「スコッチさん、ヨハンさんの相手が面倒臭いからって寝たフリして私に押し付けないでください」
「バレてたか」
もそりとスコッチが起き上がった。
それから鰭で寝袋を畳んでから、朝の煙草を吸って気分を落ち着けた。
――――――――――――――――――――
ヨハンは二度目ゆえ慣れた動作でマーシャル遺跡に侵入した。
昨日は一階層しか探索できなかったので今日は次の階層を調べたい所、階段に辿り着くと上と下に行けるようであった。
「さて、どちらにしようか」
前回は下に行けばメルの元に着いたので、今回も下に行く事にする。
降りた直後、壁に地図のような物が貼られているのが見えた。前の遺跡にもあったので、どうやら地球の建物は壁に地図を貼る習慣があるらしい、もしかしたら地球人というのは方向音痴だったのかもしれない。
「地図はありがたいねぇ、どれどれ」
何が書いてあるのかはわからないが、この階層の大体の作りはわかった。
念の為メモに記してから廊下を歩く。異変は直ぐに見つかった。
「なんだあれ」
廊下の真ん中が突然隆起して壁のようになっている。ライトを当ててじっくり見てみると、それは何か巨大な物が外から中に向けて突き刺さったようだった。
「鉄のようだけど錆びてないな」
ここにあるのは一部だけのようなので、下の階層に行けば詳しく調べられるかもしれない。
早速階段まで戻って更に下へ降りて、謎の物体がある所に行く。やはり謎の物体が壁のようにそそり立っている、しかもまだ下の階層も塞いでいるようだ。
ヨハンはその物体を指でなぞりながらどこまで刺さってるかを見るため隣の部屋へと入る。恐ろしい事にその物体は部屋を二つ程ぶち抜いていた。先端部まで移動した時、ふと脳裏に謎の既視感が芽生えた。
「この形、何処かで見覚えがあるような」
先端部は途中で枝分かれして数本に別れており、関節のような物が確認できた。
「まさかこれ」
ある仮説が浮かび、それを証明するため更に下の階層へ。下の階層でもやはり壁のようになってるが、下の所に空間があるのでこれ以上大きくはなさそうだ。
物体の先に移動した所、上と同じく先端で別れていた。
「やっぱり、これ……腕だ。巨大な腕だ」
三階層もぶち破っていた謎の物体は鋼鉄の腕だった。指だけで八メートルもある。
そしてヨハンにはその腕に心当たりがあった。実際に見た事はないのだが、おそらくメルの言っていた巨大物体の腕なのだろう。
「このマーシャル遺跡では巨大物体との戦闘があったんだ。ここに腕があるという事は、腕が刺さった状態で倒されたか、刺さった時に切断されたかってとこだろうな」
話によれば巨大物体は何をしても中々傷がつかない最強の敵とのこと、どちらにせよここでの戦闘では大戦果をあげたと言っても等しいだろう。
それはつまり、地球人は巨大物体に対して有効的な兵器を作り上げたという事になる。
「もしかして、地球人は巨大物体に勝ったんじゃないか?」
だからこそ、今もこうして人類が生き残っている。
「と、そろそろ昼か。戻ろう」
もうじきメルが言ってた六時間だ、早く戻ってあの箱を開けよう。そして地球人が勝ったかもしれない仮説を伝えてみよう。
――――――――――――――――――――
「というわけです。地球人代表としてメルさんのご意見をお願いします」
「なんでそんな無駄に丁寧なんですか、うざいです」
「ひでぇなおい」
「段々嬢ちゃんが馴染んできたって事だな」
それはそれとして。
「う〜ん、私としては人類が勝利したとはにわかに信じ難いのですけど、私が眠ってからの事はてんでわからないので何とも言えませんね」
「なるほど……ところであの箱は?」
六時間も日光に晒したので流石にもう大丈夫だろう。とは思う。
「やってみましょうか」
メルは試しに箱を持ち上げて操作してみる。ヨハンが遺跡を探索してた頃、メルは充電しながら箱を調べていた。結果、外に付けていたカバーのような物が経年劣化で張りついて、本来ある筈のスイッチを隠していた事がわかった。
ただの粘土板の一種としか思わなかったヨハンと違い、地球人であるメルには直ぐにわかる事であった。
文化の違いというやつだ。
既にカバーは外してある。スイッチを押すとサイドの隙間に光が走り「カチッ」と音がした。
「開けます」
まるで本を開くように箱が展開して中にあるものをさらけ出した。
「これ何?」
入っていたのは丸められた紙の束、それと一枚の写真だった。
写真には壮年の男性と年頃の女の子が写されていた。
「これ、メルじゃない?」
ヨハンの言う通り、写真の女の子はメルであった。では横の男性は誰だろうか。
尋ねようとメルを見ると、彼女はボロボロと涙を流していた。
「どうしたんだ?」
「この人、お父さんです」
ハッとしてよく見ると、確かに似てる気がする。
未来で目覚めて初めて父親の軌跡を見つけたのだ、泣きたくなるのは仕方ないかもしれない。直ぐにでも紙の束を確認したいが、そんな野暮はせず、ひとまずスコッチと共にその場を離れる。
「少しその辺歩こうか」
「賛成だ」
遠くでメルが大声で泣いてるのが聞こえたが、聞かなかった事にしておこう。散歩が楽しくて何も聞こえなかった。そういう事になっているのだ。
「今日は砂埃が酷いなあ」
「まったく、目に入ると泣きたくなるぜ」
「泣いてもいいんだぜ?」
「とっくに枯れてるさ」
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