第22話 始まりの時は今や昔、歴史を彩る
マーシャル遺跡を掘り当てても直ぐには入らない、まず掘ってできたトンネルが崩れないよう補強しなければならない。一度ペンギンダーでスコップしながらトンネルをある程度の広さにまで大きくする。
それからペイルライダーの棺桶をトンネルに突っ込んで遺跡までの通路とした。ヨハンは棺桶の上下に空いた入口から中を通り抜ける、下の出口をでると目の前にマーシャル遺跡の建物の壁があった。
メルの話ではどこかに窓があるらしい、窓を探すため、ここからは折り畳み式のスコップで地道に掘っていく。
壁沿いに掘るだけなので、三時間程で窓を見つけた。流石に長い年月が経っているだけにガラスの方は砕け散っていて、室内に土砂が入り込んでいた。
二人分程のスペースを作ってから棺桶にロープを結び、それをつたって室内に侵入する。
「よっ、ここがマーシャル遺跡か」
前の遺跡と同じく見た事のない材質でできた壁と天井である。
ロープをしっかり掴みながら床を脚で強めに踏んでみる。
「崩れなさそうだな」
ずっと土の中にあったからだろうか、それとも元々頑丈に出来てるのかはわからないが、比較的保存状態が良く、山が崩れる等しない限り壊れる事はないだろう。
ライトの残量を確認してから前へと進む。
廊下を歩き、扉を一つずつ開けて中の部屋を覗く。今いる階層全て回って確信したのだが、どうやら放棄された施設らしい。
「資料とか道具とか全然残ってない……おそらく機能停止したか維持出来なくなったから引き払ったんだな」
となると大した物は残っていない可能性がある。がしかし、誰も手をつけておらず、しかも自分達以外誰も知らない遺跡を探索するのは楽しすぎるので数日はここに籠る事にしよう。
『そろそろ日が暮れる、一旦戻ってきた方がいい』
スコッチから呼び出しである。陽の射さない真っ暗な所にいては時間の感覚など無くなってしかるべし、残念だが一度戻ることにした。
――――――――――――――――――――
メルと旅を始めて十日、夜になると焚き火を囲ってのんびりするスタイルがすっかり定着してきた。
「それじゃ何も無かったんですか?」
ヨハンからの報告が終わって直ぐ、メルがそう反応した。
「少なくとも俺が入った階層はな、まだ他の階層も見てないし」
「まあ他の建物もありますしね」
「その場合また掘らないと」
ちなみにペイルライダーはそのままにしてある。ペンギンダーは一度リングへと戻って行った。
メルはペイルライダーが掘り起こしている姿を思い起こして、ふとかつてから疑問に思っていた事を口にする。
「あの、お二人はどこであのロボットを手に入れたんですか?」
「ん? ペイルライダーとペンギンダーの事?」
「そういえば嬢ちゃんには話してなかったな」
「大した話でもないんだけど、あれは半年前」
そしてヨハンはペイルライダーを手に入れた時の事を滔々と語り出した。
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半年前、ヨハンはとある遺跡を探索していた。そこは岩山にある洞窟の中にある遺跡であり、およそ五百年前の物と思われていた。
この時ヨハンは今のように一人で探索していたのではなく、都市部の考古学者がかけた招集チームに参加していた。統率する考古学者は高慢でいけすかなかったが、仲間と意見を出し合いながら探索するのは非常に有意義で楽しいものであった。
遺跡探索も順調に進み、チームは野営地で発掘品の調査を始めた頃、遺跡に盗賊が現れて探索チームを次々と殺害していき、発掘品を奪って行った。
ヨハンはその時遺跡内で調べ物をしていたため難を逃れたが、他の仲間は全員皆殺しにされていた。
こんな時のために雇っておいた用心棒も抵抗する暇もなかった。
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「その時の用心棒がスコッチだったんだよ」
「えっ!?」
「あの時は用心棒の仕事をサボって遺跡で煙草を吸ってたから助かった」
「どうしようもねぇクソ野郎だと思う」
「私もそう思います」
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その後盗賊は当然さらなる発掘品を求めて遺跡へとやって来る。このままでは見つかって殺されてしまうのでヨハンとスコッチは遺跡の奥へと逃げた。
逃げて隠れて反撃の機会を伺おうというわけである。
幸いなことにその遺跡はかなり広かったため時間稼ぎは相当できた。しかし思うように身を隠せる所がないまま探索完了エリアを出て未探索エリアに入ってしまう。右も左も分からないまま奥へと進み、そしてそれを見つけた。
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「それがあのロボットなんですね!」
「いや、この召喚銃だ」
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壁に作られた台座に見た事のない型式の銃が置いてあった。丁度銃を持ってなかったのでその銃を持って行く事にした、二挺あったので一挺はスコッチへ渡す。
しかしその銃、引鉄と安全装置はあるのだが、銃口と弾倉が無かったのだ。これでは銃弾を放つ事ができない。
――――――――――――――――――
「それでどうしたんですか?」
「とりあえず撃ってみた」
「えぇ……」
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物は試し、どうせこのまま殺されるのを待つくらいなら試し撃ちしてもいいだろう。スコッチとヨハンは適当に銃を前に向けて構え、引鉄を引いた。すると本来銃口のある所から光の弾が発射されたのだ。
光の弾は前へと飛ぶが、直ぐに上へと上がり洞窟の天井に吸い込まれていった。
大変興味深い物ではあるが、この窮地を打破するには至らない。ガックリと肩を落としたヨハンの前に盗賊達が現れた。
最早これまで、両手を上げて投降しようとした矢先、洞窟の天井を突き破ってペイルライダーとペンギンダーが降りてきたのだ。
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「その後はもう、ペイルライダーとペンギンダーに乗り込んで奴らをコテンパンにぶちのめしたってわけさ」
「へぇ」
「ほんと俺達は運が良かった」
「んで、遺跡にあった資料を持ってそこから逃げたんだ。その資料によれば銃の名前は召喚銃って言って、リングから兵器を呼び出すための物ってのがわかったってわけさ」
「思えばヨハンとの旅もそこから始まったな」
「随分遠くに来ちまったなあ」
しみじみ。
「その資料には他に何が書いてあったんですか?」
「何も書いてなかったな」
「見せて貰っても?」
「ん、まだ持ってるぜ」
ヨハンは一度荷車に行き、そこから小さな箱のような物を持ってきてメルに手渡した。渡された箱を見れば、確かに表面に「召喚銃、リングの兵器を呼び出す手段」と書かれている。それも慣れ親しんだ英語でだ。
おそらく材質は樹脂でできている。何か違和感を覚えたメルは裏返して底面を指でなぞってみた。
すると真ん中辺りで指が引っ掛り、そこに何かがある事がわかった。
「そこ、なんかスライドできるんだよ」
「スライド?」
言われた通り横に滑らすと、確かに少しだけ横にズレて中にあるものが顕になった。
「といってもそれがなんなのかわかんねぇけど」
出てきたのは茶色いガラス板のようなものだった。ヨハンにはそれが何かはわからない、しかし地球の人間であるメルは直ぐにわかった。
「これ、ソーラーパネルだ」
「わかるのか!?」
小さいが間違いない、そこにあるのはソーラーパネルである。スライドしたのはそれのカバーだろう。そしてソーラーパネルがあると言う事は、この板は太陽光に浴びせれば充電ができるかもしれない。
「おそらくこの箱は開くと思います」
「マジで?」
「はい、意外と保存状態が良いのでパネルに傷も見られませんし、手持ちのナノマシンを使えば修理できるかも」
「ナノマシンすげぇ! よしやろう! すぐ開けよう!」
興奮してどこか知性が退化しているヨハンを宥める。
「これは太陽光にあてなきゃなので今は無理ですよ。一応ヨハンさんのライトでもできますけど、効率悪いし勿体ないので朝まで待った方がいいかと」
「そ、そうか……よしじゃあ今日はもう寝よう!」
そう言ってヨハンは我先にと寝袋に入った。
「やれやれ、こいつ片付けを押し付けたぞ」
「ですね」
残された二人は苦笑し、寝るために周囲の私物を片付けてから、ヨハンと同じように寝袋に入って眠った。
今夜は少し冷え込んでいた。
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