星の歴史を巡って争う者達
第21話 荒野を行く三人と長い旅路の底にて
肌を焼くような熱さを持つ日光が相も変わらず降り注ぐ。夏季に入ったらしいこの地域の昼前ともなるとそれが顕著なのでローブを羽織るしかなかった。
ヨハンはキーを回してエンジンを吹かす。後ろには荷車があり、サイドカーにはスコッチがちょこんと座っている。ヨハンのすぐ後ろには二人と同じくスカーフを巻いて口元を隠し、フードが飛ばないようメットとゴーグルをつけたメルがいる。
「じゃあ出発だ」
長いバイクの旅が始まった。
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一日目、行商人達が長い年月をかけて踏み鳴らしていった道を辿っているためかなり楽な旅である。
しいていうなら日照時間が長いのと周りに背の高い植物がないため非常に熱い事だろうか、地図によれば池が近くにあるらしいのでそこで夜を明かそうとハンドルを切った。
「へっへ、カモがきたぜ」
池には半裸の野盗が五人もいた。日光とか平気なのだろうか。
「金目の物を置いて大人しくブベラァッシャバアアアァァ」
不用意に近寄ってきた野盗の一人をスコッチが鰭で叩き伏せた。仲間をやられて逆上した他四人が一斉にスコッチへ襲いかかるも、スコッチはペンギン由来の寸銅体形にも関わらず、それらの攻撃をヒラリヒラリと躱しながら的確に鰭を叩き込んでいく。
ペンギンの鰭アタックには人間の頭蓋骨を粉砕する力があるが、当然その辺は加減しているので死んではいない。
「よーし今日はここで寝るぞー」
「お、こいつらの衣服燃やせそうだな」
あまりにも外道である。
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二日目、野盗達は放っておいて先を急ぐ。どうせ放っておいても勝手に町へ行くだろう。
この日は特に何も無かった。
「そういえば、何で鉄道にあんなに人がいたんだ?」
思い出したようにスコッチが煙草に火を付けながら呟いた。
「ああ、なんかすんげぇ強い盗賊を討伐するため騎兵隊が各地から賞金稼ぎを集めてるらしいぞ」
「ほぉ、そんなに危険なのか」
「なんか砂獣を従えてるんだと、それで頭数がほしいらしい。参加するだけで銀貨二十だってよ」
「まあまあだな」
「活躍によって賃金上げるらしい、頭目を捕まえた者には金貨二百枚」
「はあ、だからあんなに飢えた奴らが集まったのか」
「ま、俺達には関係ない話だ」
「だな」
――――――――――――――――――――
三日目、ついに山を迂回して反対側に回ることができた。ようやく折り返し地点といったところ。
「思い出した」
晩御飯食べた後、各々焚き火の前でぼんやり星を眺めていた時だった。ヨハンが唐突にそう切り出した。
「何を思い出したんです?」
隣にいたメルが聞き返す。
「いや、昨日言ってた盗賊だよ。名前が確か……そう、レッド・キャベンディッシュだ」
「聞いた事ないな」
「なんか強そうな名前ですね」
「実際強いから騎兵隊が本気になってるんだろうね」
「なるほど」
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四日目、アバランチ族の村に着いた。
流石に何かしら手荒い歓迎を覚悟していたのだが、意外な事に彼等は友好的であり、また一晩の宿を無償で提供してくれたのだ。
この部族では客人を村全体で持て成す風習があるそうだ。とても有り難いので、お礼代わりにこの村のお店ではなるべく高い物を買うようにした。
後でそういう策略なのだと気付いた。
「ついうっかり一杯買っちゃった」
一晩の宿としてあてがわれた家でヨハンとメルとスコッチはその日購買した物を広げていた。
長旅の途中なのに明らかに不要な物を買ってしまっている。
「これはなんですか?」
言いながらメルが手に取ったのは不思議な形をしたお面だった。買ったのはヨハンである。
「俺もわからない」
「わからないのに買ったんですか」
呆れた。メルだけでなくスコッチも。
「ま、まあお金には余裕あるし、ね?」
ジトーとメルとスコッチの冷たい視線がヨハンに突き刺さる。いたたまれなくなったヨハンはそれ以上何も言わなくなった。
――――――――――――――――――――
五日目、アバランチ族の村を出て山沿いに走る。道中巨大な砂獣を目撃して足を止めた。
「うわわ、でかすぎですよ!」
目の前に現れた砂獣は全長一〇〇メートルはあろうかと言う程の巨体、亀のような甲羅を持ち、六つの脚でノッシノッシと地面をゆっくり歩いている。甲羅からは樹木のようなものが伸びており、それが高い全長の七割を占めていた。
「スチールウッドだな、温厚な砂獣だから安心していいぞ」
「そうなんですか、ほあ……大きい」
「スチールウッドは暮らしにも密着していて、背中から生えてる樹木みたいなのは紙の原料になるんだ、それ以外にも資材としても使えて便利なんだ」
「へぇ」
「ちなみに俺が使ってる手帳もスチールウッドの紙だ」
改めてアクセル回して出発する。スチールウッドを横目に観ながら真っ直ぐ荒れた土地を走りぬける。この辺りまで来ると人の往来が少ないため道というものが無いのでガタガタ揺れる。
突然スチールウッドが低くそれでいて腹の底に響く咆哮をあげた。
「あれ、近くにいる異性への求愛行動らしいぜ」
「なるほど、つまりエロい事しようぜって誘ってるのか」
「二人とも、オヤジくさいです」
「スコッチのせいで俺までオヤジ扱いだよ」
「俺はオヤジだから問題ない」
そういえばと、メルはその日の野営時に、スコッチの年齢はいくつなのだろうかと疑問に思ったので尋ねてみると、ペンギンらしく鰭をパタパタさせながらスコッチは「四十三だ」と答えた。
意外と若いなとメルは思った。
――――――――――――――――――――
六日目、指定されたポイントに到着するも、既に日が沈もうとしてたので探索を後回しにして野営をする事に。
焚き火を囲いながら改めてマーシャル遺跡について確認する。
「マーシャル遺跡、かつてはマーシャル宇宙飛行センターと呼ばれていました。文字通り宇宙飛行を目的としたスペースシャトルの設計、宇宙飛行士の育成、私が眠る前にはオービタルリングの一部を管理してたりと非常に多くの事をこの施設で行ってました」
「大きさはどれくらいなんだ?」
「えっと、確か一八〇〇エーカーだったかな」
「エーカーか、知らない単位だな。ヨハンはどうだ?」
「俺も知らない」
「大体……七三〇万平方メートル」
「平方メートルなら昔からある単位だからわかる。町二つか三つぐらいの広さだな」
「でかいな」
「付け加えるならレッドストーン兵器廠という施設の中にあったので、そこ含めたらもっとありますよ」
言葉も出ない。
このデザリアンにおいてそれだけの広さを持つ施設は都市部等の富裕層が集まる所だけだ。それ以外の荒野に生きる一般人ではそこまでの施設を持つ事は不可能に近い。
地球の文明を知る度に、デザリアンとの差を感じて唖然としてしまう。メルが地球人でなかったらファンタジーとしか思えなかっただろう。
――――――――――――――――――――
七日目、ついに遺跡探索である。
どうやらポイントは山の中にあるようだ。本来なら山を登って付近に遺跡の入口はないかを調べるのだが、ヨハン達には空を飛ぶペンギンダーがいる。
というわけでスコッチが上空からポイント周辺を調べていた。
その間メルは野営地にて待機、ヨハンはペイルライダーを使って地上から探索していた。
探索は朝から行い、そして昼頃に一旦集合した。
「どうだった?」
メルが作ったシチューを食べながら経過報告。
「空から見た限りでは入口らしきものや遺跡のような物は見当たらなかった」
「俺も同じ、こりゃ掘るしかねぇな」
「掘るにしても道具はあるんですか?」
「あるよ」
「どこに?」
「あそこ」
そう言ってヨハンが指差した所には、パイロットの登場を待って鎮座するペンギンダーとペイルライダーがあった。
――――――――――――――――――――
一時間後、ペイルライダーが遠心力を加えた棺桶を山の斜面に叩き付けた。
ある程度それで爆心地のように掘る事が出来たがまだ遺跡らしきものは見えない。また叩き付けるのかと思いきや、ペイルライダーはおもむろにペンギンダーを担ぎあげて足首を掴んだ。
よく見るとペンギンダーは両鰭を頭の上に持ってきて、鰭の先からブレードを出して先っちょを引っつけた。
「うりゃーー」
ペイルライダーからヨハンの掛け声が聞こえた瞬間、ペイルライダーはペンギンダーを爆心地に打ち付けたのだ、そして鰭の先で斜面を掘り起こしていった。
つまりペンギンダーをスコップの代わりにしたのだ。
「ええええ!」
デザリアンの生活に慣れてきて、最早何がきても驚くまいと思っていたメルでも流石にこれは驚くより他ない。
「実に合理的だと思うが」
気付けばメルの隣にスコッチがいる。
「何でここにスコッチさんが?」
「遠隔操作できるからな」
そうでなければ振り回されるペンギンダーに乗りたいとは思わないだろう。
それから更にしばらくして、掘り進める内に大きな穴が出来てきた。続いてペイルライダーは穴にペンギンダーを差し込んだ後、その足首に鎖を巻き付けて大きく腕を振って回し始めた。合わせてペンギンダーの背面ジェットが作動して強烈なパワーで前に進む。
「ドリルだこれ!!」
「ある程度掘ってペンギンダーを固定できるようにしないとブレるんだよな」
ペンギンドリルは順調に掘り進めていく。
今度こそ本当に何がきても驚かないとメルは決めたが、おそらく直ぐに驚くのだろうなあと同時に感じていた。
遺跡らしきものを掘り当てたのは、そこから一時間後だった。
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同時刻、ヨハン達が遺跡発掘してる場所と山を挟んで反対側では、レッド・キャベンディッシュ率いる盗賊団と、騎兵隊と賞金稼ぎの連合が戦争をしていた。
この戦争は既に二週間近く続いており、泥沼化していた。
というのも、ワイルドバンチ側はどこから入手したのか不明な謎の機械人形の大軍を使ってじわじわ連合を削っていたのだ。その謎の機械人形は球体に四本足が生えただけで、戦闘方法も近付いて前足で切ったり刺すだけなのだが、銃弾を弾く程の装甲を持ってるうえに数が多いので中々倒せない。
最近になってようやく球体の真中が弱点と知り反撃が始まったのだが、その頃には連合の四分の一の戦力が失われていた。
その日もまた泥沼の戦争が起きていたが、リーダー格のレッドキャベンディッシュは前に出てきていない。彼は山を掘って作った基地の奥に篭っていたのだ、それは決して臆病風に吹かれたわけではない。
「へ、見つけた」
捜し物があったからだ。それは基地の奥にあった。より正確には基地を堀抜いて見つけた。
そもそもここは発掘現場であった。ある日レッド・キャベンディッシュが占拠し、そこにいた考古学者からここに何があるかを聞き出したのである。
「こいつが、世界を破壊したヤツか」
レッド・キャベンディッシュの見上げる先、そこには壁に埋もれている機械仕掛けの人の頭があった。
大きい、おそらく頭の縦幅だけで二〇メートルはあるだろう。平均的な機械人形の三倍くらいの大きさのサイズと言えよう。
「確か、名前は……何だっけ?」
レッド・キャベンディッシュは隣にいる男に尋ねた。眼鏡を掛けた研究者風のその男こそ、元々ここを発掘していた考古学者のグラニーである。
「ひひ、忘れちゃ困りますよ旦那。名前は……クロースです」
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